映画『スマホを落としただけなのに』は「技術的な描写がすごくリアルで生々しい」ITセキュリティ専門家・辻伸弘さんに聞く

恋人がスマホを落としたことにより、自分の個人情報が流出し、思わぬ事件に巻き込まれてしまう恐怖を描いた『スマホを落としただけなのに』。「このミステリーがすごい」に選出された同名小説を、『リング』などで知られる中田秀夫監督が北川景子さん主演で映画化。11月2日より公開となります。

現代人なら誰でもいつも持ち歩いている便利なスマホが巻き起こす、様々なアクシデントは「映画の中のお話」で片付けられないリアリティあふれるコワさ。映画を観た後には必ず自分のスマホやSNSをチェックせざるを得ない、超リアルサスペンスなのです。

今回は、ITセキュリティに詳しく執筆や講演などのエバンジェリストとして幅広く活動する「ソフトバンク・テクノロジー株式会社」の辻伸弘さんに、本作の感想と、どうスマホを守るべきなのか、などお話を伺いました。

――現代人の必須アイテムであるスマホをテーマにした『スマホを落としただけなのに』ですが、ITセキュリティの専門家である辻さんはどうご覧になりましたか?

辻さん:作品としてスリルがあって面白いだけでは無く、僕は職業柄ネットのセキュリティ面とか、描かれていることのリアリティを注意深く見てしまうんですね。ドラマとか映画で「そんなことあるか?!」って思ってしまう事が少なくありません。”ハッカー”の描写で侵入したコンピュータにドクロを出したり、映画『マトリックス』のような文字が常に落ちてくるような画面になっていたり、どうしても大げさに描いてしまうのは仕方ないと思うのですが。

でも『スマホを落としただけなのに』は、パスワードを盗むとかSNSでなりすますとか、技術的な描写がすごくリアルで。僕は普段、セキュリティを診断してそこに穴が無いかを調べたり修正方法を提案する仕事をしてきましたので、「人が設定しがちなパスワード」に親しんできました。「名前+社員番号」とか分かりやすいのは「名前+誕生日」とかパターンを挙げるとキリがありません。映画の中での破り方が人間がついやってしまう事が表現されていて生々しかったですね。

――なるほど、専門家の辻さんからご覧になってもリアルな描写だったのですね。

辻さん:これから映画をご覧になる方も、ストーリーが恐かったとか、北川さんが美人、千葉さん、田中さんがかっこよかった〜と楽しみつつ、こうやってパスワードが破られていくのかとか考えながら自分の事としても観てほしいですね。

――映画の中では、スマホの情報を犯人に抜き取られていましたが、現実もあんなに簡単に出来てしまうものですか?

辻さん:スマホのロックさえはずせれば簡単に。皆さんスマホのバックアップをPCにとったりすると思うのですが、それを他人にやられたらって事だけですからね。

――そっ、そうですよね。自分がやっていることを他人がやるだけ……。

辻さん:よく、個人情報って”盗まれる”という表現をしますが、財布は盗まれたら財布自体が無くなるから気付けるけど、情報って気付けないんですよね。スマホのデータはコピーされても、本体が戻ってくればそこで安心しちゃうという。だからスマホのロックってかなり大事なんですよ。

――SNSのなりすましもゾッとするシーンでした。

辻さん:モニターに出ている情報とそれを操作している人が一緒だなんて本人に電話するなど違った経路で確認する以外に確かめようが無いですもんね。もともとAさんだった人が、ある日B さんになっている可能性だってあるし、現実世界には実在しているけど、ネット上には実在しないAさんの場合もある。この作品はそこを上手く描いていますよね。ターゲットがいたらそこを外堀から嘘で作られた偽の人間関係を形成してみせるという。逆にいうと犯人の行動を一個でも防げていれば、ここまで大ごとにはならなかったかもしれないなと思いながら観ていました。

――例えば、まずどんな事に気をつけるべきでしょうか?

辻さん:主人公・麻美の彼氏である富田くんがスマホを失くしているのを知らずに、麻美が電話をしますが、スマホに「稲葉麻美」ってフルネームが表示されているじゃないですか。僕からすると、なんでフルネームで登録しているんだろう? って思うんです。それで「稲葉麻美」って検索したらFacebookでもなんでも情報にたどりついてしまう。そこで、彼女の誕生日が分かれば、富田くんのスマホのパスワードは彼女の誕生日なんじゃないか? ってどんどん犯人にチャンスを与えてしまうんですね。

後は、SNSに何気なく書いている事がパスワードに使われているとか。映画の中には出てこなかったですが、よくパスワードを作る時に「秘密の質問」って設定するじゃないですか。ペットの名前とかお母さんの旧姓とかそういうの。昔はそれって本当に秘密にできていた情報だったかもしれないけど、今ってSNSに自分から書いてしまっている。昔は秘密だった事が今は秘密では無いのに、システムは変わっていない。そういう問題もありますね。

――辻さんはご自身のスマホに電話番号をフルネームで登録していないんですか?

辻さん:はい。面倒っていうこともあって、苗字だけとか。後は自分が覚えていられる名前にしますね。例えば、会社の人事部の緑山さんだったら『グリーン(人事)』とか、そんな感じに登録しています。

――辻さんご自身はスマホを乗っ取られたりだとか、そういったご経験はありますか?

辻さん:スマホは無いですね。でも、僕がこの世界に興味を持つきっかけになったのが、高校生の時にPCを攻撃された経験からなんです。Windowsの脆弱性につけこまれてクラッシュしてしまって。その時に心優しい人が「このプログラムをインストールしたら大丈夫だよ」と言われて、信じてやってみたら魔法みたいに直ったんです。今では意味が分かりますけど、当時は本当に助けられて。でも、今思うと怖いですよね。それがウイルスかもしれないわけですから。もしかしたら、その人が犯人だったのかもしれませんね(笑)。ネットで知り合った人から送られてきたプログラムは安易にインストールしちゃダメですよ! 公式からダウンロードしましょう!

――なるほど、よく肝に命じておきます。最後に本作を観て恐くなって「自分のスマホを守る対策をしたい」と思ったら、まず何をすれば良いですか?

辻さん:まずはスマホにロックをかけているか確認すること。さらに厳密にしたい場合は「スマホがどこにあるか」調べられるアプリを入れておくこと。そして、落としたんだったら、リモートからデータを消す。一回自分の手から離れてしまったスマホは信用できないですね。映画の中でも「スマホは自分の分身である」といった言葉が出てきますが、一度離れたデバイスは何をされているのか分からない。スマホを無くしたらリモートで消すというのを定めている会社も多いと思います。

ハッキングとかって、特別な技術が必要な場合もありますけど、ちょっと調べたらどんな人でも簡単に出来て、個人情報が流出させられてしまうんだという事を頭においてスマホを便利に、そして安全に使って欲しいと思います。

――今日は大変ためになるお話をありがとうございました!

【自分のスマホを守るためにやっておきたいこと】
1:まずはロックをしっかりと。
2:リモートワイプ機能をオン。
3:気持ち悪いと感じたらデータを消す。戻ってこない場合も速やかに消す。

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https://getnews.jp/archives/2092349 [リンク]

(撮影:稲澤朝博)

『スマホを落としただけなのに』11月2日全国ロードショー

【ストーリー】彼氏の富田(田中圭)に電話をかけた麻美(北川景子)は、スマホから聞こえてくる聞き覚えのない男の声に言葉を失った。たまたま落ちていたスマホを拾ったという男から、富田のスマホが無事に戻ってきて安堵した麻美だったが、その日を境に不可解な出来事が起こるようになる。 身に覚えのないクレジットカードの請求や、SNSで繋がっているだけの男からのネットストーキング。落としたスマホから個人情報が流出したのか? ネットセキュリティ会社に勤める浦野(成田凌)に、スマホの安全対策を設定してもらい安心していた麻美だったが、その晩、何者かにアカウントを乗っ取られ、誰にも見られたくなかった写真がSNSにアップされてしまう。 時を同じくして、人里離れた山の中で次々と若い女性の遺体が見つかり、事件を担当する刑事・加賀谷(千葉雄大)は、犯人が長い黒髪の女性ばかりを狙っていたことに気が付く。 スマホを拾ったのは誰だったのか。 連続殺人事件の真犯人はいったい誰なのか。 そして明らかになる”奪われた麻美の秘密”とは?

公式サイト:http://sumaho-otoshita.jp/
予告編:https://youtu.be/QE_NgXe2M1g [リンク]

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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