「また来たのか」飛び込み訪問で嫌な顔をされる日々…理想とかけ離れた現実を「腐らず」に過ごせたワケ――株式会社SPICE SERVE代表取締役CEO山田康平さん

「また来たのか」飛び込み訪問で嫌な顔をされる日々…理想とかけ離れた現実を「腐らず」に過ごせたワケ――株式会社SPICE SERVE代表取締役CEO山田康平さん

会社や団体が開催するパーティ、結婚式の2次会、記念日のお祝い――こうしたイベントを船上で、移り変わる景色を眺めながら楽しめる貸切クルージングサービスがある。

株式会社SPICE SERVE(スパイスサーブ)が運営する『Anniversary Cruise®(アニバーサリークルーズ)』。選べる船舶は70種以上。目的に合わせ、「バルーンリリース」「マグロ解体ショー」「芸人のパフォーマンスショー」など多彩な演出プランが揃っている。

同社が掲げるキャッチフレーズは「場創り法人」。クルージング事業以外にも、プライベート桟橋付きバーベキューテラスを備えた『Lounge CRIB』、テイクアウトのデリカショップ『TORA DELI』などの飲食店運営ほか、旅行業、イベント企画請負業など幅広い事業を展開している。

代表取締役CEOの山田康平さんがこだわるのは、キャッチフレーズの通り、人々に笑顔と豊かさを提供する「場創り」。「場」とは「時間」「空間」そして「出会い」を指し、それらをプロデュースすることを事業の核としている。

山田さんが初めて「場創り」ビジネスを手がけたのは大学生のころ。「旅」をテーマにお客さん同士が語り合えるカフェをオープンした。しかしわずか2年で閉店。この失敗を機に「経営」を学ぼうと考えたという。山田さんがどんな選択を重ね、起業に至ったかをお聞きする。

▲株式会社SPICE SERVE 代表取締役CEO 山田 康平さん

スタートは「海外のゲストハウスのような場を創りたい」

大学時代、イギリスに留学した後、20ヵ国を旅したという山田さん。宿泊先のゲストハウスでさまざまな国の人々と交流した経験に価値を感じ、大学在学中に横浜・反町にカフェ&バーを開業した。

「海外のゲストハウスのような場を再現したかったんです。コミュニケーションを通じて多様な価値観や気付きに出会えるような。そこで、旅行が好きな人、これから旅行に出かける人が集まって情報交換したり、体験談を語り合えたりする場としてカフェ&バーをオープンしました。けれど店に来るのは学生ばかり。お金を持っていないからどうにも売上が伸びず、結局2年ほどで閉店しました。そこで痛感したんです。『経営をちゃんと学ばなければならない』と」

そこから先の行動について、山田さんは「弟子入り」的な思考だった、と振り返る。

特定の会社に就職するのではなく、「インターン」などの立場で、さまざまなベンチャー企業の社長のそばで「修業する」道を選んだ。業種は人材ビジネス、リサイクル、投資会社など多様。「経営者は営業ができなければならない」との思いから、営業職を志望して働き、それぞれの社長のマネジメントスタイルや経営ノウハウを学んだ。

しかしインターンは無給のため、別の方法で生活費を稼ぐ必要がある。そこで選んだ仕事が、自由な時間で活動できる「新聞拡張員」。一般家庭に飛び込み訪問し、新聞購読を勧誘する業務だ。多いときには1日150軒を訪問し、アルバイトとして全国1位の契約実績を挙げた。

このときに身につけたのが、相手を観察する力、そして相手に応じて短時間で距離を縮めるコミュニケーションの取り方。そのノウハウを本にまとめ、出版までしたという。

しかし、華やかな結果を残しながらも、心には葛藤があった。

「正直、『これでいいのかな』という思いはありました。雨の中、団地を歩き回ってピンポン押しまくって、『また来たのか』と嫌な顔をされる…。そんな日々の連続でしたから。でも、つらかったのはそこではなく、もともと人の人生を豊かにするための『場創り』を志したのに、その理想とはかけ離れ、その日暮らしの生活が続いていることに焦りを感じていたんですね。でも、いつかやりたいことをやるために必要なことを身につけるんだ、と思い直したんです」

経営スキルを磨くため、経営コンサルタントに転身

さまざまな商材の営業、チームマネジメントなどのノウハウを得た山田さん。それを他社に提供し、かつ実践的な「経営」のノウハウをさらに磨くために選んだのが「経営コンサルタント」の道だった。

大手コンサルティング会社に入社すると、自身で特定のテーマを設定して調査・分析し、セミナーで紹介。そこから個別コンサルティングを請け負うスタイルで、人材、飲食、ネットショッピング、教育など幅広い業種のコンサルティングを経験する。

「最初の2~3年は苦労しました。それまで営業は得意だったけど、どちらかというと右脳でこなしてきたから、論理的思考ができなくて。『その考え方は違う』と上司から突っ込まれたりして、キツイ時期でした。業績が上向いたのは4年目くらいから。そこからはネットマーケティングを得意として、いろいろな業種をクライアントにしました」

経営コンサルタントといえば、高度な知見とスキルをもってクライアント企業に提案、アドバイスをする仕事。しかしそんな立場にありながらも、山田さんは「弟子入り」の意識を持ち続けていたという。

「コンサルティングを依頼してくる企業には、業績が伸び悩んでいる企業だけでなく、『成長しているが、さらに加速させたい』という企業もあるんです。そんな社長や企業とお付き合いすることで、僕がまだ持っていない成功の事例やノウハウを学べる。クライアントに対し、こちらから一方的にノウハウ提供するだけでなく、相手からも知見を得ることを狙っていましたね」

「場創り」にこだわり、事業を高く展開へ

経営コンサルタントとして活動していたある日、「場創り」ビジネスに乗り出す転機が訪れた。

結婚式場を運営するクライアントから、「直近で空いてしまっている日程の稼働率を上げられないか」との相談を受け、パーティイベントを企画・運営。そのヒットを受け、イベント事業に可能性を感じた山田さんは、2009年、独立起業を果たした。

「パーティイベントに参加した人々が生き生きと表情を輝かせているのを見て、時間・空間・出会いなどの『場』をプロデュースすることに、改めてやりがいと喜びを感じたんです」

社名のSPICE SERVEには、『人生が加速するSPICE(機会=時間・空間・出会い)をSERVE(提供)する』の理念を込めた。また、ビジョンには『リゾート革命』を掲げ、より非日常なSPICEを提供することを誓った。

こうして、イベント事業からクルージングパーティ事業、飲食事業、旅行事業、アロマエステ事業などへと進化させ、今も新規ビジネスを模索している。多店舗化、海外展開、マリーナの運営、ホテルシップの運営など、夢は尽きない。

「自分が創った場で人が楽しんでいる、人生が加速している、ムーブメントが生まれている、それが理想です。本当は自分もその場にいたいけれど、そうもいかないのは残念なんですが(笑)。次の事業に向かうために、立ち上がって軌道に乗った事業はどんどん仲間に任せています」

若手社員に対しても「弟子入り思考を持て」とよく話しているという。自分がやりたいことを実現している人のそばに行け。課題が持ち上がったら、社内で一番くわしい人は誰かを見極め、その人に聞け。間違った人に聞くな、と。それは社内に限ったことではない。

「数時間でも数日でも『弟子入り』はできる。自分が持っているテーマについて、ネットで検索して、くわしそうな人に会いに行けばいい。くわしい人3人に話を聴けば、ある程度方向が見えてきます。一人で考えている時間はもったいないと思います」

<山田さんの「選択」と「決断」のポイント>

●やりたいことをするために必要な知識・経験を手に入れるため、あえて遠回りをした

●立場やスタイルは問わず「弟子入り」の意識でさまざまな人から学んだ

株式会社SPICE SERVE

Anniversary Cruise®(アニバーサリークルーズ)

BBQ Lounge 「CRIB」

TORADERI~Spice Journey~ EDIT&WRITING:青木 典子 撮影:平山 諭

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