「ふさわしい仕事」に出会うために必要な“たった一つ”のこと――マンガ『インベスターZ』に学ぶビジネス

「ふさわしい仕事」に出会うために必要な“たった一つ”のこと――マンガ『インベスターZ』に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただコーナー。今回は、三田紀房先生の『インベスターZ』の第27回目です。

『インベスターZ』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい一言をピックアップして解説することによって、その深い意味を味わっていただけたら幸いです。

【本日の一言】

「就活とは人生の投資!」

(『インベスターZ』第5巻credit.36より)

大人気マンガの『インベスターZ』より。創立130年の超進学校・道塾学園にトップで入学した主人公・財前孝史は、各学年の成績トップで構成される秘密の部活「投資部」に入部します。そこでは学校の資産3000億円を6名で運用し、年8%以上の利回りを上げることによって学費を無料にする、という極秘の任務が課されているのでした。

人は、目の前のことを受け入れた時に真剣になる

道塾学園の創設者、藤田金七の玄孫・藤田美雪は、同級生2人とともに女子投資部を設立します。部員の1人、町田倫子(のりこ)の姉・浩子(ひろこ)は、大学3年生で現在、就職活動の真っ最中。ヘトヘトに疲れて帰ってきた浩子が「女子学生に企業のことなんてわかるわけない」とつぶやくと、倫子は「だったらお姉ちゃんも株を買ってみれば?」と勧めますが、全く興味を示しません。

後日、浩子は学校で開かれた就活セミナーに参加します。すると壇上に上がった講師が学生に向かって「就活とは人生の投資だ」と叱咤(しった)し、こう述べます。「投資である以上、投資先を徹底的に調べるのは当然のこと。実は、調べ方にその人の真価が表れる。右へ倣えで、他人と同じことをしているのか、それとも全く違うのか・・・そこに希望の会社に就職できるかどうかのヒントがある」と。

これを聞いて、自分も投資をしてみようと決意する浩子。ただし、妹には内緒です。携帯でネット証券に登録しますが、どの銘柄を買えばいいのかがわかりません。その時、自分がリクルートスーツを買った店舗が、実は、言わずと知れた大手企業が運営していたことを知ります。それまで企業研究は味気ないものと思っていた浩子でしたが、お金を出して株を買おうと思った瞬間に、会社に対して興味が湧いてきたのでした。

自分の特性を活かせる仕事は簡単には見つからない

「就職とは人生の投資だ」という言葉は、「“経歴”や“肩書き”じゃない時代。『こいつ…デキる…!』と思われるため、必要なのは?――マンガ『インベスターZ』に学ぶビジネス」の中でも一度、取り上げています。それだけ作者・三田先生の思い入れが強い、ということでしょう。そこで今回は、別の切り口からお話します。

実のところ、「後悔しない就職を」と言ったところで、ほとんどの人は自分が何に向いているのかもわかっていないのが実情です。社会人でさえこうなのですから、学生に「就職先を間違えるな」と言うのはムリがあるかもしれません。

確かに、就職すれば1日の大半を職場で過ごすことになるわけですから、仕事を選ぶ際は慎重を期すべきなのは言うまでもないことです。けれど経営学者のP・F・ドラッカー博士が「最初の仕事はくじ引きだ」と言っているように、むしろ1度で自分にふさわしい仕事に行きつけるとは思わないほうがいいでしょう。

自分にふさわしい仕事はどこにあるのか?

それではどうしたら自分にふさわしい仕事に就けるのか、1つ事例をお話しましょう。現在、私の知り合いの中に、人事コンサルティングを仕事にしている人がいます。その方は元・理系出身で、最初に就職したのはある研修会社でした。そこを選んだ理由は「理系の人間が理系の仕事に就いても、他人と差別化できない」と思ったからだそうです。

知人の最初の配属先は営業でした。けれど人当たりの良い会話をするのが苦手で、成績はいつもビリ。このままではマズい、と思った知人は営業セミナーに通い、ようやく成績が上がるようになります。ちょうどそのころ、社内で人事の仕組みを効率化するシステムを導入することが決まり、理系出身だった知人がシステム担当者に抜擢されました。

知人は人事の仕事をするようになってから、「自分には新しい部署を立ち上げて、そこにふさわしい人材を選抜する能力がある」と自覚するようになった、ということです。このように多くの場合、自分の特性というのは偶然、発見されます。

だったら「もし、偶然その機会に行き当たらなかった場合はどうすればいいのか?」と思われるほうもいるかもしれません。しかしこの事例が示しているのは、初めは自分に向かない仕事を割り当てられたとしても、仕事に主体的に取り組むことによって、「自分にふさわしい仕事の領域を手繰り寄せることは可能だ」ということです。

目の前のできごとを“自分ごと化”することがカギ

仮に、知人が「自分には営業は向いていない」と思った時点で転職でもしていたら、おそらく人事に異動することはなく、自分の適性を知る機会も訪れなかったでしょう。今回の話のキモとは、「目の前のできごとから逃げない」ことの大切さです。

このように、ものごとをうまくやろうとするのではなく、現実を“自分のこと”として捉え、主体的に行動することです。そうすることによって、初めて「チャンスを引き寄せる自分」になれるのです。

自分自身の時間を投じ、それを賃金という形で受けるのがサラリーマンの構造。

一般的に、投資とはお金を投じて新たなお金を得ようとする行為ですが、人生の資源としてより重要度が高いのは時間であると考えるならば、「就活とは人生の投資なのです」という言葉は、まさに言い得て妙なのではないでしょうか。

俣野成敏(またの・なるとし)

大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」を上梓。著作累計は40万部。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。

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