障害者の法定雇用率水増し問題、本来の制度趣旨に立ち返る必要あり
省庁や地方自治体での障害者雇用の水増しが発覚
国税庁をはじめとする複数の省庁や地方自治体において、障害者の法定雇用率の水増しが発覚しました。なぜこのような事態が起こったのでしょうか。
国や地方自治体、民間企業は、「障害者の雇用の促進等に関する法律」により、その雇用する労働者に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合が一定率以上になるよう義務づけられています。これを「法定雇用率」と言い、達成できなかった民間企業には、行政指導のほかに、企業名の公表や不足人数一人につき5万円の納付金が課されるなど、厳しいペナルティがあります。(国・地方自治体は、納付金は無し。)
【法定雇用率(平成30年4月1日~)】
( )内は、常時雇用する労働者数
障碍者雇用状況の報告・確認方法は「水増しできてしまう仕組み」になっている
法定雇用率を満たしているかどうかは、事業主が年に1回、国に提出する「障害者雇用状況報告書」により判断されます。報告書には、障害者を何名雇用しているかを記入しますが、週の労働時間や障害の種類、程度によって、以下のようにカウントされます。
(単位:人)
従業員が、法定雇用率の対象となる障害者に該当するかどうかは、障害者手帳などの所持や診断書を確認する必要がありますが、会社はこれを強制することはできません。様々な理由から、障害を持っていることを会社に知られたくない、という人もいるからです。
厚生労働省発行の「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドラインの概要」でも、「採用後に(障害の有無を)把握・確認をする場合には、例外を除き個人が特定されないような方法で行うこと。また、回答を強制してはならない」と、一定の配慮をするよう求めています。
今回の水増し事件では、この「ガイドライン」を拡大解釈した、という釈明も出ていますが、実はこの「配慮ある確認方法」を逆手に取って、確信犯的に水増ししていたのではないかとの疑いもあります。しかし、ちょっと調べればすぐに露呈してしまうような虚偽の報告を、なぜ多くの省庁や自治体が行ったのでしょうか。
「目標未達成は許されない」という意識や圧力が背景にあったのでは
国や地方自治体には、民間企業の模範となって障害者を積極的に雇用することが求められています。そのため、「法定雇用率未達成」は許されないという意識が強く働き、やむなくこうした不正に走ってしまった、と考えられます。
国が国民を欺いていたのですから、批判されるのは当然のことですが、一方で、それに終始するだけでは、本当の解決にはならないとも感じます。
筆者は、社会保険労務士として、障害者雇用に関するご相談もお受けしていますが、多くの経営者が、障害のある方にどのような仕事をしてもらえばいいのか、どの程度の人的、環境的サポートが要るのかなど、限られた人員と経費の中で、試行錯誤を繰り返しています。が、(ペナルティがあるので致し方ない面はあるとはいえ)本来その自立や活躍のためであるべき障害者雇用が、「法定雇用率達成のための手段」になっているのが現実です。今回の水増し事件も、「雇用率さえ満たせばいい」という安易な考えがあったからこそ、起きたことだと言えるでしょう。
こうした現状を鑑み、今の障害者雇用制度が本当に適正なものなのか、また、障害者が自立し活躍できるような雇用や社会とはどのようなものなのか、改めて社会全体で考え直す必要があるのではないでしょうか。
(五井 淳子/社会保険労務士)
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