言葉は「思考の種」持っていないと奪われる、“5つの能力”とは?―山口拓朗の『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』
あなたは、自分の語彙力に自信がありますか?
「その場で適切な言葉が出なくてあせった…」
「『言葉遣いがなっていない』と上司に怒られた」
「正しい敬語の使い方がわからない」
「相手に応じて言い回しを工夫することが苦手だ」
「教養のある人たちの会話についていけない」
「言葉や表現に自信がなくて、人と話すことが億劫だ」
このような悩みをかかえてる人や、さらに語彙力に磨きをかけたい人の“強力サポーター”となるのが、新刊『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』で話題の山口拓朗さんの短期連載(全5回)です。
「紛らわしい語彙や言い回し」から「武器になるビジネス語彙」「実践的なモノの言い方」まで、全5回に渡って語彙力アップのヒントをお届けします。
最終回のテーマは、「語彙力がないことで奪われる5つの能力」です。
語彙力がないことの5大リスク!
「語彙力」とは単に言葉を暗記する能力のことではありません。難しい言葉を並べ立てる能力とも違います。語彙力とは「言語(=情報)を適切に活用する能力」のこと。仕事をする上でも、人間が生きる上で極めて重要な役割を果たしています。
本連載の第1回では語彙力の概論を、第2〜4回では日本語や敬語の正誤や、ビジネスシーンで使える実用フレーズなどをご紹介してきました。最終回となる本稿では、少し毛色を変えて、語彙力に関する“そもそも論”をお伝えします。語彙力がないことで奪われる私たちの能力について見ていきましょう。
奪われる能力(1) 深く思考する能力
近年、語学教育関係者の間で取り沙汰されている「セミリンガル(ダブルリミテッド)」という問題をご存じでしょうか。
「幼少期に2つ以上の習得言語があって、どちらも中途半端になってしまったとき、頭が混乱してしまい、難しい問題を考えることができなくなることがある」というものです。
これは“人間が言葉でものを考えている”ことの証左といえるでしょう。
私たちは、しばしば「よく頭を使いなさい」という言葉を耳にします。しかし、頭を使うためには、その前提として頭の中に言葉を入れておく必要があるのです。言葉がなければ、深く考えることができません。言葉は“思考の種”です。その種を頭の中にたくさん蒔いておくことが、深く思考するための第一歩です。
奪われる能力(2) 理解する能力
語彙力がなければ、文章を読んだり、人の話を聞いたりしたときに理解することできない、という問題が生じます。子どもであれば、先生の話がわからない。教科書の内容を理解できない。テストの設問で問われていることが理解できない、といった状態に陥ります。
もちろん、これは大人も同じです。書類や資料に書かれている内容や、会議や交渉時の内容が理解できない、などの問題を抱えることになります。通常、人が物事を理解するときには、表層的な理解にとどまらず、頭の中で「相手が本当は何を言おうとしているか」、その真意や意図を推測・類推する作業をしています。
先ほど【奪われる能力(1)】で「言葉がないと深く思考できない」と述べましたが、推測・類推することもまた思考の一部です。深く思考できない人は、深く理解することもできません。
奪われる能力(3) 感情をマネジメントする能力
もしも感情を表現する言葉を「喜怒哀楽」しかもっていなかったとしたら、私たちはどうなるでしょうか?
例えば、「いま私は怒っている」と感じたとします。頭の中に「怒る」という言葉しかなければ、その先の感情把握はできません。一方、語彙力がある人は、感情にまつわる言葉も豊富に備えています。妬み、嫉み、恨み、後悔、軽蔑、嫉妬、恐怖、もどかしさ、やるせなさ、辱め、絶望……などなど。
言葉があるため、イラっときたときに「自分はAさんに嫉妬しているのだな」と自覚できます。具体的に「嫉妬」が原因とわかれば、解決策を見つけることもできるでしょう。一方、「怒り」という漠然とした捉え方しかできなければ、解決策を見つけることに苦労するでしょう。このように、人は言葉を媒介して自分の感情を把握しているのです。
語彙力がある人ほど自分の感情を的確に把握し、上手にコントロールすることができるのです。もちろん、この情報把握は、自分の外側の出来事に対しても同じように行われます。つまり、仕事で問題解決しなくてはいけない場面でも、実は語彙力が大きな役割を果たしているのです。
奪われる能力(4) 伝える能力
言葉がなければ、伝えるアプローチが限られてしまいます。どれだけ、その人のなかに素晴らしい情報や思いがあっても、あるいは、どれだけ素晴らしい商品やサービスを持っていても、適切な言葉選びができなければ、相手に伝わらない、あるいは情報の何割かしか伝わらないかもしれません。
うまく伝えられない。これはコミュニケーションにも悪影響をもたらします。「頑張ります」という言葉しか使えない人と「尽力します」「精一杯やらせていただきます」「全力を尽くします」「全身全霊を注ぎます」などのバリエーションを持っている人とでは、細かいニュアンスを伝えられるのは後者です。
使える言葉の引き出しが少ないと、相手を慰めるつもりが傷つけてしまったり、励ますつもりが怒らせてしまったりするようなケースも出てきます。そういう人は、仕事上のコミュニケーションでも、齟齬や誤解が生じやすくなるでしょう。
奪われる能力(5) アイデアを出す能力
ジェームス W.ヤングの名著『アイデアのつくり方』には、「アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」と書かれています。
言うまでもなく既存の要素とは「情報=言語」です。頭の中にある無数の言葉を自在に使える人は、当然、組み合わせのバリエーションも多くなるため、発想力も豊かになります。
仮にディズニーランドという言葉(概念)を知らない人がいたとした場合、その人が「うちのサービスにディズニーランドの要素を取り入れたら面白くなるのでは?」とアイデアを出すことはできません。くり返しになりますが、言葉は単なる記号ではありません。意味を含んだ情報です。その情報の組み合わせこそが、私たちのアイデアの源なのです。
語彙力の強化は、ビジネスパーソンの基本の“き”!
「深く思考する能力」「理解する能力」「感情をマネジメントする能力」「伝える能力」「アイデアを出す能力」。
語彙力がない人は、すでにこれらの能力が奪われている恐れがあります。その結果、周囲の人たちから「評価されない」「信用されない」という憂き目にあう。さらには、そんな自分に失望して、自信を失うことも珍しくありません。「デキる人」と「デキない人」のどちらにカテゴライズされるか、そのカギを握っているのが語彙力とも言えるでしょう。
くどいようですが、単に言葉を知っているだけでは意味がありません。
語彙力とは、すなわち「言語(=情報)を適切に活用する能力」です。語彙力がない状態で仕事の成果を出そうとするのは、ビーチサンダルと短パンで富士山に登ろうとするようなものです。つまりは無謀。登頂を目指すなら、それなりの準備をしなければなりません。
「デキる」ビジネスパーソンを目指す準備として、「語彙力」の強化は、決して無視できないのです。
著者:山口拓朗
『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』著者
伝える力【話す・書く】研究所所長。「論理的に伝わる文章の書き方」や「好意と信頼を獲得するメールコミュニケーション」「売れるキャッチコピー作成」等の文章力向上をテーマに執筆・講演活動を行う。『伝わるメールが「正しく」「速く」書ける92の法則』(明日香出版社)のほか、『残念ながら、その文章では伝わりません』(だいわ文庫)、『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(日本実業出版社)、『書かずに文章がうまくなるトレーニング』(サンマーク出版)他がある。最新刊は『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』(PHP研究所)。
山口拓朗公式サイト
http://yamaguchi-takuro.com/
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