チラシコストを大幅削減!スーパー・小売店に伴走する「トクバイ」のビジネスモデルと底力とは?
チラシ情報をデジタル化し、地域の生活者の買い物体験をより便利に楽しくするサービス「トクバイ」。ユーザー(消費者)とクライアント(店舗)の間を、Webやアプリが媒介するマッチングサービスでもある。
クライアントを「ビジネスパートナー=仲間」として迎え入れ、共に成長を目指すプロジェクトについて、トクバイ店舗サービスチームの3人に話を聞いた。
クライアントに伴走しながら、その自走を促す
「トクバイ」は、単なるチラシのデジタル化代行サービスではない。トクバイのアプリ、Webを一つの『舞台』として、個々のクライアント(店舗)が販売情報を展開、それをユーザー(消費者)に周知することで、生活者によりよい買い物体験をしてもらうための新しい購買プラットフォームだ。
「クライアント自身がトクバイを使い倒して、そこに今日のセール品やイベント情報などを積極的に発信していただかなければなりません。クライアントに代わって私たちがチラシを作るわけではない。だからこそ、初めてトクバイを使うクライアントをしっかりサポートし、一緒に走りながら、互いの成長を目指すことが欠かせないのです」
と、クライアントとの“伴走”の重要性を指摘するのは、トクバイ活用支援部・副部長の佐藤美季さんだ。
▲株式会社トクバイ トクバイ活用支援部・副部長 佐藤美季さん現在、トクバイのサービスは、食品スーパー、家電量販店など全国で約5万点の店舗で活用されている。クライアントの新規開拓は営業の仕事だが、新規クライアントに対してトクバイ活用の第一歩をアドバイスするのは、活用支援部の役割だ。
「営業からの橋渡しを受け、私たちはクライアント専用の管理ツールを使いながら、トクバイへの情報発信の方法を一からお伝えします。同じ画面をクライアントの担当者と共有しながらの電話サポート。どこにPDFのチラシを投稿すればよいのか、個々の商品名や価格はどこに書き込み、どこに写真をドラッグ&ドロップすればよいのか、いわば手取足取りでサポートするんです。
一通りの投稿作業が終わったら、その日の特売情報が何人の人に閲覧されたかをレポート機能を使って確認していただきます。無料試用期間中に徐々に管理画面の操作に慣れていただき、実際の効果を実感することで、トクバイを使うことを習慣化してもらうことが最初の段階です」(佐藤さん)
チラシ作成コストの低減、Webと紙の連動などを提案
特売情報の投稿者は、大手チェーン本部なら販売促進部の専任担当者だが、小規模店舗だと店長自らがやったり、パート従業員やアルバイトに任せる場合もある。ITリテラシーにはばらつきがあり、全体としては高いとは言えない。それを飲み込んだ上での懇切なサポートが新規定着を促す。
管理ツールはトクバイが独自に開発したもので、そこにはさまざまな機能が搭載されている。日次週次の閲覧数レポート機能、ポイント2倍デー、週末セールスなどのイベント情報掲載機能、チラシのPDFをそのまま貼り付けることも、商品を単品で紹介することもできる。
「最近は商品写真だけでなく、売場の担当者の顔写真を一緒に掲載して、ユーザーに親近感を持ってもらう取り組みをする店舗も増えてきました。商品写真やコメントの出来映えは閲覧数に大きく影響します。どうしたら閲覧数を増やせるか、その工夫をお伝えするのも私たちの仕事です」
無料試用期間が終わると、有償のサービスに入るが、そこでクライアントから求められるニーズは、業態や企業規模、トクバイをどのぐらい使っているかという経験年数によってさまざまだ。
日本の小売店は、販促を新聞折り込みなどの紙チラシに頼っているところがまだまだ多い。しかし新聞購読率は年々下がる一方。それを代替するインターネット、Webを使った販促手法を模索しているところだ。
「トクバイを使うクライアントは、まずはWebを使った集客というものがどういうものか試してみたいというお客様が多いですね。次第に慣れてくると、Webとの紙とのバランスを調整をしたいなど、新たなニーズが生まれます。私たちはチラシコスト削減方法や、Webと紙の連動手法などについても具体的にコンサルします」
現状では、店頭でのヒアリングなどはするが、管理ツールの使い方についてオンサイトでのサポートよりも電話、メールが中心となっている。むろん、管理ツール自体がクライアントとの重要な接点になるから、使い方ガイドなどは細かく整備している。
今年からは活用支援部ではマーケティング・オートメーション(MA)のツールを導入。クライアントとのメールのやりとりの一部の自動化がはじまっている。佐藤さんは、新しいテクノロジーを導入することで、より効果的な活用支援の方法を模索する。
徹底したヒアリングとデータ分析を踏まえて、新機能を実装
チームにはユーザーサービス企画部から、奥田達也さんも開発ディレクターとして参加している。
「私たちが開発するクライアント向け管理ツールは一種類で、それを全国一千店規模の店舗を管理する流通大手から、地域スーパー、街の個人店までさまざまな規模の企業が使っています。必ずしも利用動機や利用シーンは同一ではない。それでも誰もが使いやすいツールであることを目指しています」
▲株式会社トクバイ ユーザーサービス企画部 奥田達也さんクライアントがトクバイ活用の効果をまず実感するのは、レポート機能。店舗ページのページビューや、特定地域の特定店舗をフォローするユーザー向けに更新情報などを伝えるメールの発信数は、重要なレポート項目だ。
「それらの数値は、クライアントにとっては更新した情報がどれだけ消費者に届いたかを意味しています。更新頻度が多ければ、一日2回のメール配信にそれぞれ掲載される。棒グラフの伸びで更新を頑張った成果を可視化することもできる。効果を見える化することが、クライアントと担当者のモチベーション・アップにつながります」
クライアントの声は、運用担当者の意見を直接ヒアリングしたり、定期的なアンケートで得るようにしている。クライアントサポートに寄せられるメールも重要な情報。また管理ツールのログデータを分析して次回の改善につなげることもある。
「管理ツールの新機能企画など、新たな課題やヒントを発見するのにはヒアリングが向いています。ただ、そうした機能を実装するときは、定量的なデータが重要になります。クライアントがAという機能を欲しがっていても、実はBのほうがいいという場合もある。個別の印象批評に振り回されず、客観的なデータを積み重ねることが、結果的に利用者にとってのより良いサービスにつながっていくと思います」
近年は大手小売店などが、スマホ向けの自社アプリを提供して、顧客の囲い込みを目指す例が増えている。奥田さんもとある大手スーパーにヒアリングした際に、「顧客のリピート率を高めるために、自社アプリを提供したりしているが、それに注力していると、トクバイを使う優先度が下がってしまう」という運用担当者の声を聞いた。
「それに対してはトクバイは何百万というユーザーにリーチできるし、自社アプリの連動も可能であると伝えて、クライアントの視野を広げてもらえるよう努力しています。地方では大規模スーパーでエリア内の購買ニーズをほぼカバーしているところもありますが、地域のユーザーは必ずしも毎日スーパーに通っているわけではありません。むしろトクバイを起点にしたほうが、買い物情報が得られる。そうした効果を訴求するようにしています」
小売業界の自社アプリについては、「自社アプリによるサービスは機能が不十分だとすぐにユーザーは離れてしまう。絶えず機能を更新していかないといけませんが、それは一小売事業者だけでは困難です。アプリ開発の投資対効果の判断に困っているという声もよく聞かれます」と、佐藤さんが補足する。
チラシ画像分類を自動化する、新しい技術への挑戦
企画担当の奥田さんのリクエストを受けて、管理ツールの改善や新機能実装を一手に引き受けているのがエンジニアの箕輪高明さんだ。
▲株式会社トクバイ 技術部 エンジニア 箕輪高明さん箕輪さんが担当するのは管理ツールの改善、その一つはクライアントが使う商品投稿機能の改善だ。
「チラシを作るための商品群をExcelで管理しているクライアントは少なくありません。これまではそのExcelデータを当社のフォーマットにいったん置き換えてもらう必要があり、そこに手間がかかっていました。それをExcelデータのまま投稿できるように機能を改善しました。Excelのフォーマットは各社バラバラなので、システム側は行列の中身を認識して商品名、価格などに自動分類するようにしました。
例えば、リンゴ、バナナなどの文字列があればそれは商品名、99、1980などの数値があればそれは価格と判断します。100%の正答率を目指していますが、もし判断が誤った場合はクライアントが手動で訂正できるようなカスタム機能も用意しました」
こんなに小さいことだが、ユーザーに喜ばれた改善もある。
「クライアントの入稿担当者が、画像を一つ投稿するたびに、管理画面の表示が上に戻ってしまう。そのたびにスクロールしなければならなくて、面倒だったんです。これは私たちも気づかなかったことで、たまたま茨城県のスーパーでヒアリングしていたときに、わかった仕様上の問題点でした。このときは現場の声を聞くことが大切だとあらためて思いましたね」
現在はPDFチラシの画像を、自動的に個別の商品画像に分類する技術にも取り組んでいる。
「トクバイのエンジニアは企画サイドに言われたものをひたすら実装するだけでなく、新しい技術課題にチャレンジできる風土があります。もちろんユーザーに提供するサービス価値を離れてエンジニアが自己満足的に技術開発をすることは避けなければなりません。営業や活用支援部と一体となった、ユーザー・ファーストのものづくりが大切だと考えています」と箕輪さんは語る。
領域を互いに侵犯し、投じられたボールを打ち返すこと
クライアントチームの関係は日常的にうまく動いている。
「トクバイには仲間としてちゃんと議論しあえる関係性が作れていると思います。クライアントからの要望に対してどういう機能開発をするかという議論は徹底してやる。大切にしていることは、事実=ファクトに基づいて話をしようということ。そうしないと、単なる開発側の思い込みや、一部のクライアントの要望だけに引きずられて、機能が偏ってしまいかねませんから」と、佐藤さんは言う。
奥田さんが重視しているのは、「相手の領域にまで踏み込んで話をする」ことだ。機能開発の要望をクライアントチームで話し合う場では、企画から技術へ、あるいは逆に、互いの仕事の領分を侵食してまで、活発な議論が交わされる。
同じチームの中で意見が交わされるとき、声の大きな人に引きずられることはよくない。それを箕輪さんは「誰かが投げたボールを打ち返すことができるかどうか」と表現する。
「例えば企画サイドから、技術的にありえないとか、自分としてはいいサービスにつながらないと思うような提案がされたときは、それはすべきではない、ということも言えるようにしています」
ボールが打ち返されて初めて議論が発生する。
「そこで初めて認識のギャップがあることに気づき、データをとって証明するというような次のアクションが生まれてきます」(奥田さん)
小売店というクライアントを仲間として巻き込んで初めて、トクバイのサービスの成長がある。そうしたビジネスモデルの一つの核を握る、クライアントチームのチームとしての成熟はこれからも楽しみだ。 取材・文:広重隆樹 撮影:刑部友康
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