「役不足」「話しのさわり」…本来の意味と異なる“ゆれる日本語”を使いこなそう―山口拓朗の『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』

「役不足」「話しのさわり」…本来の意味と異なる“ゆれる日本語”を使いこなそう―山口拓朗の『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』

あなたは、自分の語彙力に自信がありますか?

「その場で適切な言葉が出なくてあせった…」

「『言葉遣いがなっていない』と上司に怒られた」

「正しい敬語の使い方がわからない」

「相手に応じて言い回しを工夫することが苦手だ」

「教養のある人たちの会話についていけない」

「言葉や表現に自信がなくて、人と話すことが億劫だ」

このような悩みをかかえてる人や、さらに語彙力に磨きをかけたい人の“強力サポーター”となるのが、新刊『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』で話題の山口拓朗さんの短期連載(全5回)です。

「紛らわしい語彙や言い回し」から「武器になるビジネス語彙」「実践的なモノの言い方」まで、全5回に渡って語彙力アップのヒントをお届けします。

第4回のテーマは、「“ゆれる日本語”と上手に付き合う方法」です。

言葉は“ゆれて”いる?

正しい日本語を使いたい。そう考えるビジネスパーソンは少なくないでしょう。

しかし、次の瞬間に「ところで正しい日本語って何だ?」とはたと考えてしまう人もいるのではないでしょうか。それは、極めて健全な反応といえます。なぜなら言葉は生き物であり、常に“ゆれて”いるからです。

世の中には「あの人の日本語がおかしい」と目くじらを立てる人も少なくありません。しかし、その人が使っている日本語にしても、実は本来の意味からずれていたり、誤用が浸透したりして慣用化されてきたという場合もあるのです。いくら本来の意味と違っていても、その言葉が世間に広く浸透した時点で「誤用」とは言い難いでしょう。現に、私たちが当たり前のように使っている言葉のなかにも、誤用から転じたものが無数にあります。

例えば、「一生懸命」の本来の形は「一所懸命」です。しかし、現在では「一生懸命」のほうが一般的で、「一所懸命」を使うと「間違いでは?」と指摘されかねません。

同様に〈一人舞台〉の意味で使われる「独壇場」という言葉は、もともとは「独擅場(どくせんじょう)」という読みと表記で使われていました。「擅」を「壇」と誤読したことから、「独壇場」とう言葉が広がったようです。 今では「独擅場(どくせんじょう)」と言っても「何それ?」と言われてしまうかもしれません。

もちろん、だからといって「言葉は変化するものだから、深く考えずに使えばいい」などと乱暴なことを言うつもりはありません。私たちに求められるのは、“ゆれている日本語”の現状を把握しながら、そのつど最適な言葉を使っていく意識です。

広まりつつある「本来の意味とは異なる言葉」

ゆれている言葉のなかでも、本来とは異なる意味が浸透しつつあるものをご紹介します。

【穿(うが)った見方】

◆本来の意味:物事の本質を的確に捉える見方をすること

◆浸透しつつある意味:疑ってかかるような見方をすること

【役不足】

◆本来の意味:本来の能力より軽い仕事や役割を与えられること

◆浸透しつつある意味:本来の能力より重い(手に余る)仕事や役割を与えられること

【気が置けない】

◆本来の意味:遠慮したり気づかったりする必要がなく、心から打ち解けられること

◆浸透しつつある意味:遠慮したり気づかったりする必要があり、心から打ち解けられないこと

【話のさわり】

◆本来の意味:話の要点や印象深いところ。聞かせどころ

◆浸透しつつある意味:話の導入部分のこと

 

【破天荒】

◆本来の意味:誰もできなかったことを初めて成し遂げること

◆浸透しつつある意味:豪快で荒っぽく大胆なさま

【確信犯】

◆本来の意味:政治的・思想的・宗教的な信念に基づいて、正しいと確信して行う行為や犯罪のこと(またはそれを行う人のこと)

◆浸透しつつある意味:悪いことだと自覚していながら行う行為や犯罪のこと(またはそれを行う人のこと)

【情けは人のためならず】

◆本来の意味:人に親切にすれば、巡り巡って、その親切が自分の身に戻ってくること

◆浸透しつつある意味:親切にするのはその人のためにならないこと

本来の意味を“全く知らなかった”という人もいたのではないでしょうか。

「情けは人のためならず」に至っては、本来と違う意味で広がりを見せたのち、こんどは「違う意味で広まっている」という話題がメディアなどで広まり、再び本来の意味で使う人が増えてきた——そんな印象を受けます。

このように、自然と意味が変わりゆくものもあれば、大きなうねりをくり返しながら進んでいく言葉もあるのです。

無意識で使っているその慣用句、間違っていませんか?

意味だけでなく、「言い方」や「書き方」の間違いにも注意しなければいけません。以下は、よく見聞きする慣用句の間違い例です。

【誤】肩をなでおろす → 【正】胸をなでおろすの荷が下りる

【誤】出る釘は打たれる → 【正】出るは打たれる

【誤】早起きは三文の得 → 【正】早起きは三文の

【誤】思いもつかない → 【正】思いも寄らない

【誤】愛想をふりまく → 【正】愛嬌をふりまく

【誤】予防線を引く → 【正】予防線を張る

【誤】耳障りのよい → 【正】耳障り

【誤】足元をすくわれる → 【正】をすくわれる

【誤】二の句が出ない → 【正】二の句が継げない

【誤】時期早尚 → 【正】時期尚早

【誤】ひとつ返事 → 【正】ふたつ返事

【誤】とんぼ帰り → 【正】とんぼ返り

【誤】押しも押されぬ → 【正】押しも押されもせぬ

【誤】懐が広い → 【正】懐が深い

【誤】双壁 → 【正】双

適切に慣用句を使うためには、自分がよく使う慣用句に間違いがないか、一度調べるなどして確認しておく必要があります。

自分が間違った表現をしていても、それが間違いだと自覚できない限り、改善することはできません。改善への第一歩は、間違いに“気づく”ことなのです。

「ゆれる日本語」と上手に付き合おう!

ビジネスやプライベートで言葉を使う私たちにとって「ゆれる日本語」は、なかなか悩ましい問題です。大事なのは“慣用化”と“誤用”の境界線を見極めるバランス感覚です。言葉本来の意味や表記を知ろうとする姿勢は素晴らしいですが、そのことにとらわれすぎて、多くの人から「言葉の使い方がおかしい」と思われては本末転倒です。

相手が勘違いする恐れがあるときは、あえてその言葉を使わずに、別の言葉やフレーズに言い換えるという配慮や工夫も必要です。状況に応じて機転をきかせることも含めての「語彙力・フレーズ力」と心得ておきましょう。

著者:山口拓朗

 

『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』著者

伝える力【話す・書く】研究所所長。「論理的に伝わる文章の書き方」や「好意と信頼を獲得するメールコミュニケーション」「売れるキャッチコピー作成」等の文章力向上をテーマに執筆・講演活動を行う。『伝わるメールが「正しく」「速く」書ける92の法則』(明日香出版社)のほか、『残念ながら、その文章では伝わりません』(だいわ文庫)、『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(日本実業出版社)、『書かずに文章がうまくなるトレーニング』(サンマーク出版)他がある。最新刊は『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』(PHP研究所)。

山口拓朗公式サイト

http://yamaguchi-takuro.com/

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