「不遇なファミコン少年時代」があったからこそ… | BuzzFeed Japan記者 神庭亮介の仕事観
さまざまなシーンで活躍しているビジネスパーソンや著名人に、ファミコンにまつわる思い出から今につながる仕事の哲学や人生観についてうかがっていく本連載「思い出のファミコン – The Human Side -」。
今回ご登場いただくのは、「名前入りゲームソフトを持ち主に返したい(→)」などファミコンにまつわる記事を多数執筆しているBuzzFeed Japan記者の神庭亮介さん。風営法によるダンス規制問題や、タトゥーは医療かアートかをめぐって争われた医師法裁判の事案など、ネットで話題のトピックにもいち早く注目。元新聞記者の取材力を駆使し、新しい時代のメディア記者として注目を集めています。そのユニークな視点の礎は、ファミコンに飢えていた少年時代に原点があったとか――
プロフィール
神庭 亮介(かんば りょうすけ)
1983年、埼玉県出身。早稲田大学法学部を卒業後、朝日新聞記者を経て、現在はBuzzFeed Japan記者。サブカルチャーやエンタメ分野を中心に、ネットで話題を巻き起こす記事をこれまで多数取材・執筆してきた名物記者。著書に『ルポ風営法改正~踊れる国のつくりかた~』(河出書房新社)。
Twitter:@kamba_ryosuke
https://twitter.com/kamba_ryosuke
思い出のカセット一つひとつから友だちの家の情景が浮かぶ
―― 神庭さんは少年時代、どんなゲームで遊んでいましたか?
じつはわが家、親が厳しくてファミコンを買ってもらえなかったんです。だからいろんな友だちの家に行ってやらせてもらってました。それだけに一つひとつのカセットが友だちの家の記憶と結びついているんです。それこそ家の間取りや匂いまでセットで……。たとえば『たけしの挑戦状』は、蕎麦屋をやっていた友だちの家で、お店の片隅でファミコンをつないでやってたなぁ、なんて情景がありありと浮かびます。ゲームを始めたらいきなりナイフが飛んできて「もう死んだの!?」みたいな『ミシシッピー殺人事件』は衝撃でしたし、『ファンタジーゾーン』は音楽もグラフィックもなんだかちょっとかわいい世界観がお気に入りでしたね。
『ドラクエⅣ』にいたっては、一番仲良しだった友人の家で全クリ(全部クリア)しました。「ぼうけんのしょ」をひとつ分けてもらったのですが、全クリするまで通い詰めるって、逆の立場だったら「お前なんなんだよ!」みたいな感じですけどね。
―― ファミコン関連記事は相当思い入れをもって書いたそうですね?
最近だと「名前入りゲームソフトを持ち主に返したい(→)」とか、「僕がファミコンの『新作』をつくり続ける理由(→)」といったBuzzFeedでのファミコン関連記事もそうですが、前職の朝日新聞に在籍していた頃から、たまにゲーム実況やゲーム音楽の記事を書いていました。おそらく子どもの頃、自分の家にファミコンがなくて「やりきれなかった仇を晴らす」じゃないですけど、あのときの鬱屈の反動とか、リベンジみたいな気持ちもモチベーションとしてあります(笑)
だからもし、幼少期にすごく満たされたファミコン人生を送っていたら、今の探求心は生まれていなかったかもしれないですね。ファミコンに飢えていたことが、今の仕事でのハングリー精神として役立っているかもしれません。ある意味、親に感謝しなきゃいけないかな。
「ファミコン~」の記事が好反響を得たのは、私と同世代の読者のノスタルジー的な共感がフックになったからだと思います。ファミコンってアラフォー前後世代には共通のコミュニケーションツールなので、バズりやすいのではないでしょうか。
ゲームは人生のアナロジーとして読み解ける
―― 神庭さんの現在のお仕事に「ファミコン」が与えた影響とは?
“不遇なファミコン少年時代”を送った私ですが、ファミコン本体を持っていないくせに、「ファミ通」「ファミマガ」等のゲーム誌や、ゲーム攻略本を買っては熟読していました。友だちと話を合わせるためというわけではないですが、実機がない分、文字情報で補おうとしていたんです。
そういう意味では、テキストからイメージを膨らます想像力は養われたかもしれません。一切プレイしたことないのに、やけに詳しく知っているゲームとかけっこうありましたね。
雑誌や攻略本からの情報で心の穴を埋めることは、「俺もファミコンが欲しいんだ!」という渇望を満たす代償行為だったのかもしれません(笑)
―― ファミコン体験から得た人生観・仕事観とかあります?
ゲームって、わりと人生のアナロジーとして読み解けると思うんです。たとえば『ドラクエ』等のRPG。 最初は強い敵にすぐやられてしまうけど、根気よくレベルを上げていけば、世界が広がっていきますよね。
私の記者としてのキャリアも、ひとつずつ経験を積み上げる作業の連続でした。最初はついこの間まで学生だった右も左もわからない人間が新聞社に入社(冒険のスタート)。いきなり地方支局に配属され、事件担当としてすぐに現場取材をさせられたり(ミッションをこなしていく)……とか。振り返るとすごく『ドラクエ』と同じじゃんって思いますね。
じゃあそのうちラスボスを倒せるか、といったらわからないんですけど、でもやっぱり着々とレベルを上げて、自分の中でやりたいことを少しずつ形にできるし実現できるっていうのはあると思いますね。上手くいかないからといって「リセット」ボタンを押したり、「裏技」を使ってチートしようとしたって、うまくいかないこともありますし。そういう意味で、仕事はゲームとすごく似てると思いますね。
ゲームソフトを増やすように仕事の引き出しを増やそう
―― たしかに記者の仕事はレベルアップを重ねるとステージが変化しそうですね。
自分が積み上げてきたステージによって求められることも違うし、やることも変わっていきますね。たとえば事件記者だったら、事件が起きたらその話をすぐ取材に行って記事にして、「ちぎっては投げ」で書くという、ちょっとした瞬発力が求められます。それはアクションゲーム的な能力かもしれない。
特集記者だったら企画をしっかり考え練り上げて、「この角度からこういうふうに切ったら面白いんじゃないかな?」という風に頭の中で組み立てていきます。これは戦略シミュレーションゲームに近いかもしれないですね。現場記者ではなく、記事を編集・配信するような業務でも、「この記事をどのタイミングで配信したらハマるだろう / バズるだろう」とか、パズルゲーム的な発想が求められるともいえます。
いろいろな仕事の経験を積んでいくと、持っているゲームソフトが増えていくような感覚で、単純に自分の中で引き出しが増えていく。手持ちのソフトの数が増えていけば、「この時はこれ」みたいな、その場に応じて差し替えながら適応することができます。
いろいろなゲームにふれてきた経験が、社会人スキルの基礎みたいなところにつながっているような気がします。
―― 今後記者として、どんなテーマを取り上げたいと考えていますか?
やはりeスポーツには関心を持っています。今まではゲーム関連ネタでも懐かし寄りで、郷愁というかノスタルジーを刺激するようなコンテンツを取材してきたんですけど、最近はアジア大会や五輪に向けてeスポーツへの注目が高まっていますからね。
じつは私、運動音痴で球技も全然できないですし、スポーツ観戦なんて何が楽しいの?みたいな人なんですけど、ゲームだったらすごく共感できるんですよね。少年時代の放課後、友だちの家でワイワイガヤガヤやりながら、「行けー!」とか言ってみんなでゲーム画面にツッコミながら応援してた経験があるので、手に汗握るし、どんなスポーツよりも没入できる感じがあります。将来、五輪種目に採用されたらすごくいいなって思っているので、eスポーツの動向は注視していきたいと考えています。
取材・文:深田洋介
1975年生まれ、編集者。2003年に開設した投稿型サイト『思い出のファミコン』は、1600本を超える思い出コラムが寄せられる。2012年には同サイトを元にした書籍『ファミコンの思い出』(ナナロク社)を刊行。
http://famicom.memorial/
撮影:向山裕太 編集:鈴木健介
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