突然職場がなくなってもあわてない。今すぐできる“選択と集中しない”キャリア論

突然職場がなくなってもあわてない。今すぐできる“選択と集中しない”キャリア論

先の見えない不確実な社会の中、いかにキャリアを構築していけばいいのか――。今回お話をうかがった並木将央さんは、研究者として就職した研究センターがリーマンショックを受け突然の閉鎖となり、その後、経営コンサルティングなどを手がける会社を設立しました。

全3回にわたる記事の第1回は、並木さんが歩んできたキャリアを通じて、不確実な現代においてキャリアを構築するために必要な考え方をお伝えします。

株式会社ロードフロンティア代表取締役 並木将央さん

東京理科大学大学院の電気工学専攻修士課程を修了後、日本テキサス・インスツルメンツの筑波研究開発センターに入所。2011年に法政大学専門職大学院イノベーション・マネジメント研究科を修了し、中小企業診断士資格およびMBAを取得。

同年に設立したロードフロンティアでは、コンサルティングやマーケティング支援など、経営を総合的にサポートする事業を手掛けている。2014年にはThe Japan Timesが選出する「100 Next-Era Leaders IN ASIA(次世代のアジアの経営者100)」に選出され、早稲田大学エクステンションセンターなど、国内外での教育事業も行っている。

突然の職場閉鎖にもまったく動じなかった理由

――起業される前は、どのようなお仕事をされていたのでしょうか。

最初に就職したのは2001年で、日本テキサス・インスツルメンツという外資系企業の筑波研究センターに勤めていました。チームで研究開発に携わっており、主に扱っていたのは、デジタル家電に使われるメインLSI(集積回路)のファームウェアやシステムです。ボイスレコーダーでよく使われている速聴き機能も、実は私たちの研究センターが作ったものなんですよ。

ただ、この研究センターはリーマンショックの影響を受け、2009年に閉鎖することになりました。当時は新聞でも大きく報道されていましたが、2月に閉鎖が発表され、6月末には閉めるという話でしたから、上司や同僚もみんなあわてていましたね……。

このとき、私たちは本社のあるアメリカの研究センターに移籍することも選択できたのですが、私は会社を離れて起業することにしました。先輩の多くは家族を引き連れてアメリカに移住し、後輩は国内のベンチャーなどに転職したので、起業したのは私だけだったと思います。

――もともと、起業することを考えていたのですか。

当時、研究センターの閉鎖が発表される前から、「5カ年計画でコンサルタントになろう」と考えていて、ファイナンシャルプランナーの資格を取得し、週末にちょっとしたコンサルティングをしていたんです。その延長で、経営コンサルやコーチング、さらにはカウンセリングなど、扱う領域を広げていました。

研究センターが閉鎖された2009年の8月に中小企業診断士の1次試験があったのですが、こちらも合格することができ、さらに幅広くコンサルティングをできるようになりました。今ではマーケティングやITサポート、さらには財務や人間の心の領域など、あらゆる面から経営をサポートしています。

優秀な同僚を目の当たりにして考えた、「この環境でどう生きていくか」

――研究員でありながら、コンサルタントを目指そうと思った理由は何だったのでしょう。

そもそもは研究生活に違和感を感じたことがきっかけです。自分の研究が誰の何に役立っているのかわからなくなっていて……。最先端の技術とは得てしてそういうものですが、もっと直接的に人から感謝される仕事をしたいという気持ちが募っていたんです。

また、私は研究員としては“落ちこぼれ”だと感じていたことも影響したのかもしれません。当時の同僚や後輩には東京大学や京都大学などの出身者もいましたが、彼らはやはりすごかった。分厚い英語の仕様書も1回読めば理解できる彼らを見て、「同じ土俵では戦えない」と思いましたね。

ですから、「この環境で生きていくにはどうすべきか」ということは誰よりも考えていたと思います。そこで自分なりに意識していたのは、”ビジネスの視点を持つ”ことでした。

個々の研究を心臓などの臓器に例えると、私はそうした臓器をつなぐ血管や脊髄になろうと思ったんです。本社のセールスやマーケティング担当とも連携を取って、研究成果をどうビジネスにつなげるかを常に考えていました。

このときの経験が、まさにその後のコンサルティングにつながっています。そういう意味では、研究員からコンサルタントに転身したとはいえ、実はやっていることは大きく違わないと思っているんです。「技術や知識をビジネスに活かす」という意味では同じなので。

――なるほど。並木さんだけが他の方と違って起業を選ばれたのは、そうしたマインドがあったからなんですね。

もともと起業家的なマインドはあったと思います。実は大学生のときにも、学費を稼ぐために商売をしていたんですよ。

私が大学に入学した1995年は、Windows 95が出たばかり。少しずつビジネスにパソコンが入ってきた時代で、秋葉原で仕入れた部品でパソコンを組み上げて法人に売っていたんです。ほかにも父親の名義を借りて資産運用もしていたりして、友人からも大学生の頃から「社長」と呼ばれていましたね(笑)。

――起業に対する心理的ハードルが低かったんですね。

そもそも、私は勤めることと起業を分けて考えていない気がします。サラリーマンだと、間接的には顧客を喜ばせるのですが、実際のところ会社の社長や上司が喜べばお金をもらえるじゃないですか。起業すれば、喜ばせる対象が直接的に顧客になる。実はそんなに変わらないんですよ。

そういった意味では、研究センターに勤めていたころも、心のどこかで閉鎖されるリスクは感じていました。研究している私自身が「本当にここまで必要なのだろうか?」と思っていたので、顧客からそっぽを向かれたら終わりだと思っていて。

ただ、当時の周りの様子を見ていると、私のように危機感は感じていなかったようです。むしろ、「起業する」と話すと私のほうが心配されましたが、私としては「会社に人生を預ける方がリスクあるでしょう」と思っていましたね。

自分らしい生き方にちゃんと“気づく”こと

――よく考えると気がつきそうなリスクですが、つい会社や組織に依存してしまうのはなぜなのでしょう。

多くの人が、どこか、自分の人生をちゃんと生きていないような気がします。自分ごととして考えていないと言うべきか。

たとえば、「この資格を取ればなんとかなる」とか「この会社に入れば安泰だ」と考える人もいると思いますが、そうした“外の環境”だけに頼っていても、リスクは避けられません

――自分の頭で考える必要があるということでしょうか。

考えるというよりは、“気づく”ことが大切です。私は、「正解」は人が決めたもの、「成功」は自分で作るものと捉えているのですが、正解のとり方は学校で教えてもらえても、人それぞれに違う成功の仕方を教わることはできません。だから、自分自身で”気づく”必要があるんです。

たくさん自分で動いて、気づきを得るしかない。何となく気になることがあったら、やってみて、そして自分の心の動きに耳を傾ける。最初から、「自分はこう生きるんだ」と決めてしまう必要はないんです。

――自分のキャリアを考えるときには、つい視野が狭くなってしまいますよね。

よく、「選択と集中」という言葉が使われ、何か成果を出すには1つのことに特化するのが正しいという風潮がありますが、私は疑問に感じています。投資の世界においては分散投資が合理的と考えられているのに、なぜ仕事に関しては「ひとつに絞れ」と言うのか。お金を増やすという意味では、「仕事」も「投資」も同じですよね。

現代の日本が直面している、人口減少を前提とした「成熟社会」においては、とくに「選択と集中」はマッチしていないと思います。成熟社会については次回詳しくお話しますが、誰も経験したことのない不確実な時代が今まさに来ていて、どんなビジネスがうまくいくかなんて、誰にも分からないですから。

だったら、自分の得意分野を使っていろいろなパターンで進めていけばいいんです。起業本などで、よく、「何かを捨てなければ成功は手に入らない」といった言葉を目にしますが、普通に身近な規模で起業する場合、この言葉は今の世の中の流れと合っていません。2、3年で上場しようとするなら当てはまるかもしれませんが……。

また、「起業すべきか、会社に残るべきか」と迷う人もいますが、私は、会社を辞めずに起業して、「いいところ取り」をすればいいと思っています。

たとえば私のようなコンサルタントを例に挙げると、会社に勤めながらパラレルワークでコンサルティングをしていたら、「経営者の本気がわかるのか!」と思われるかもしれません。しかし、結局のところ、コンサルタントに求める能力は、その経営者ごとに違うわけですから、これからの時代、パラレルキャリアのコンサルタントが出てきても決しておかしくはありません。

実際、「会社を辞めずに起業する」を実現している人が私のスクールにもいますが、結局、起業も就職も手段でしかありません。まずは「自分がどうありたいか」ということを押さえておけば、どういう手段を選んでも幸せになれますから。 ――次回へ続く

文・小林 義崇 写真・刑部友康

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