収益目的で本業以外のビジネスも立ち上げた結果、本来の起業目的を見失い倒産寸前に~株式会社おかん代表取締役CEO 沢木恵太さん【20代の不格好経験】

収益目的で本業以外のビジネスも立ち上げた結果、本来の起業目的を見失い倒産寸前に~株式会社おかん代表取締役CEO 沢木恵太さん【20代の不格好経験】

今、ビジネスシーンで輝いている20代、30代のリーダーたち。そんな彼らにも、大きな失敗をして苦しんだり、壁にぶつかってもがいたりした経験があり、それらを乗り越えたからこそ、今のキャリアがあるのです。この連載記事は、彼らの「失敗談」をリレー形式でご紹介。どんな失敗経験が、どのような糧になったのか、インタビューします。

リレー第27回:株式会社おかん 代表取締役CEO 沢木恵太さん

株式会社Emotion Tech代表取締役 今西良光さんよりご紹介)

1985年生まれ。中央大学商学部卒業後、コンサルティング会社に就職し、主に新規事業開発に携わる。その後、Web開発会社、教育系ベンチャーを経験。2012年12月に株式会社CHISAN(現おかん)を立ち上げ、個人向けお惣菜定期仕送りサービスを開始。2014年に法人向け事業「オフィスおかん」をスタート。

▲健康的で安心・安全なお惣菜をオフィスに常備するという法人向けサービス「オフィスおかん」。 インスタント食品やお菓子中心のオフィスでの食生活を改善する「新しい社食の姿」として注目されているほか、ワーキングマザーからは「持ち帰ることで夕食作り、お弁当作りの負担が軽減できる」と支持されている。「従業員のロイヤリティ・満足度の向上」「社内コミュニケーション活性化」「女性の育休復帰率向上」「アルバイトの応募数向上」など、食のサポートだけにとどまらず利用されており、2014年のサービス開始以来導入企業は右肩上がり。現在ではオフィスだけでなく、クリニックや美容院、また、商業施設や工場など約1000社が導入している。

起業後10カ月で、会社預金も家計も「残高数万円」という危機的状況に

当社は、個人向け惣菜宅配サービスからスタートし、現在は食をきっかけに従業員の抱える課題を解決する「オフィスおかん」をメインに事業展開しています。

現在、約1000社以上の企業に導入いただいていますが、ビジネスが軌道に乗るまでは時間がかかりましたね。会社を立ち上げて10カ月目には、会社の預金残高も、家計の残高も10万円を切る…という状態に追い込まれてしまいました。当時、すでに結婚していて、子どもも2人。妻は出産直後で共働きもできなかったので、「このままでは来月には食べられなくなる」という危機的状況でした。

なぜこのような状況に陥り、どのように軌道に乗せたのか。自身のキャリアを振り返りつつご説明したいと思います。

元同僚との出会いでビジネスアイディアがひらめき、27歳で起業

学生時代から、いつかは起業したいと思っていました。

就活するまで「社会人」になるイメージが持てず、就活するにあたり、始めて「社会人とは何だろう?」と真剣に考えました。

まず、「社会人」を「社会に貢献する人である」と捉えてみました。多くの人に影響を与える仕組みを作ることで社会に貢献したいと考えるようになり、新規事業のビジネスモデルを学ぶためにコンサルティング会社に就職しました。

その後、仕組みを作るうえではITやWebの知識が必要だと考え、Web開発会社に転職してソーシャルゲームのプロデューサーを経験。希望通りのスキルは身に付きましたが、ゲームという非日常の領域ではなく、日常領域で仕組みを作り、人々の生活を豊かにしたいという思いに気づき、「日常領域であり、かつスタートアップが体感できる」教育系ベンチャーの立ち上げに参画。ここで会社の運営や新規事業の立ち上げなどを経験し、30歳までには起業したいと思っていました。

その予定が大幅に前倒しになり、2012年に27歳で起業したのは、ある出会いがきっかけでした。

当時、全国各地へ出張する機会があったのですが、福井県に出張した際に、福井の惣菜会社に婿養子に入った元同僚と会うことになりました。

元同僚の勤務先は、福井で十数店舗を展開する、地元では有名な惣菜店チェーン。そんな彼と飲みながら話しているとき、「うちは添加物を使わずに惣菜を1カ月保存できる技術を持っている。何か活かせる方法はないだろうか?」と相談を受けたのです。そのとき、「これはいける!」とひらめきました。

新卒で入ったコンサルティング会社時代、激務のあまり食事をおろそかにしてしまい、体調を崩したことがあったのです。そのとき、どんなに好きな仕事でも、健康を害してしまっては続けられないと実感しました。こういう惣菜がオフィスに常備されていれば、激務をこなしつつも健康的な食事が取れたはずだ…と思いました。

また、当時2人目の子どもができたばかりで、妊娠しながら小さな子どもを育てる妻の大変さを見ていました。働きながら子供を育てるワーキングマザーも増えている今、惣菜を家庭に届けるサービスは、家事の負担を軽減する一つの方法になると思えました。

ちょうど少子高齢化に伴う労働人口減少が取り沙汰されたタイミングでもあり、「個人向け、法人向け惣菜の配送サービスはマーケットにフィットしている」と確信。その場で元同僚にビジネスアイディアを話し、後日同社の協力を取り付けることに成功。とんとん拍子に起業の運びになったのです。

二兎追うものは一兎も得ず…人材ビジネスに頼りすぎて本来の目的を見失う

たった一人で起業したので、始めは個人向け定期宅配サービスからスタート。製造は惣菜会社、宅配は配送会社に外注するので、個人向ならば一人でも集客できると思ったのです。ただ、マスに向けてのマーケティングを行い、多くの人にサービスを告知するにはある程度の時間が必要です。創業以来着実にお客様は増えていきましたが、一気に伸びるものではありませんでした。

実は、同時期に人材ビジネスを手掛ける会社も立ち上げていました。

惣菜事業がうまく立ち上がらなかった場合のリスクヘッジも兼ねて、パートナーと2人で立ち上げたのですが、こちらはすぐに軌道に乗り、収入を得られるようになっていました。

ただ、より課題感が強く、社会への必要性を感じていたのは惣菜事業のほう。大事な立ち上げ期であり、中長期的に考えればこちらに全力を注がねばならないのに、気づけば収入を得やすい人材ビジネスのほうに時間を割きがちになっていたんです。

このままでは、本来やるべきことを見失ってしまう。意を決して、パートナーに会社を任せ、人材ビジネスから手を引きました。しかし、惣菜事業を軌道に乗せられていなかったがために、冒頭の通り、すぐに資金が底をついてしまったのです。知らず知らずのうちに、目の前の「食べていくこと」にフォーカスしてしまった結果、「二兎追うものは一兎も得ず」になってしまい、会社にもパートナーにも、家族にも迷惑をかけてしまいました。

この危機的状況をどう乗り越えたかというと、根性です(笑)。

自身のリソースを惣菜事業一本に集中できる状態にはなったので、当初やりたかった法人向けサービスの事業戦略を練ることに没頭しました。

退路を断ったことでお金はなくなりましたが、「やるしかない!」という胆力が備わりました。それまでは、借金はリスクだと捉え無借金経営にこだわっていましたが、事業を成長させるには必要不可欠だと考え、金融機関からの借り入れを実施。今となっては「なぜもっと早く借りなかったのか」と思いますが、当時はかなりの決断だったのです。

目の前の危機はどうにかしのぎ、法人向けサービスに本腰を入れるべく、テスト版のサイトを作成。そこで「ヒアリングやテスト導入に協力いただける企業」を募集したところ、メディアに取り上げられたこともあり、約50社から問い合わせをいただきました。予想以上の反響が得られたことでニーズを確信。ヒアリングとテスト導入を進めながらビジネスモデルの細部を詰めて正式ローンチした後は、ベンチャーキャピタルからの出資も得られるようになり、どうにか軌道に乗せることができました。

「食」を軸にソリューションを拡大しながら、労働人口減少という課題に立ち向かう

会社を立ち上げて5年、法人向けサービスを立ち上げて4年が経ちました。

当時はそこまでメジャーではなかった「働き方改革」「健康経営」というキーワードが注目を集めるようになったことも追い風となり、一気にビジネスは拡大。1000社以上のお客様に導入いただくことができ、とても嬉しく思っています。

ただ、これが労働人口減少という課題を解決するための、ベストの方法だとは思っていません。

例えば、スマホアプリ決済にしてデータ化を進めたり、保管する冷蔵庫をIoT化して需要予測をAIで行うなど、最先端のテクノロジーを活用することで、カバーできる課題の範囲を広げたり、サービスのクオリティを上げることができるはず。

もちろん、食だけでは解決できない課題だってさまざまあるはずです。ほかのソリューションと組み合わせることで解決できる領域が広がるかもしれませんし、そもそも課題を認識していない企業へのアプローチも必要です。

我々がやるべきことは、まだまだたくさんあります。今のビジネスを軸に、新しい仕組みを創り出すことで、働く人のライフスタイルをもっと豊かにしたい。心からそう思っています。

一歩踏み出す勇気が出ないならば、まずは同時並行で始めてみよう

「二兎追うものは一兎も得ず」という失敗談を語った後に、すごく矛盾したことを言いますが…。会社員が副業を持つことが認められつつある今、「やりたいことがあるけれど、なかなか一歩が踏み出せない」という人は、いろいろなことを同時並行でやってみることをお勧めします。

やるべきことを1つに絞ると、どうしてもリスクを感じ足がすくんでしまいますが、たとえば今の会社に勤めながらも副業で新しいことにチャレンジするという方法であれば、金銭的にもキャリア的にもリスクはありません。

私は結果として同時並行に失敗し、方向転換しましたが、人材と惣菜の2つがあったから最初の一歩がスムーズに踏み出せたのだと思っています。

一方で、「自分がやりたいのはこれだ!」と確信できるものに出会えたら、他はスパッと止めてリソースを一つに集中させること。これさえ忘れなければ、今の時代、同時並行は大いに賛成。リスクヘッジしながら自分の可能性を広げるいい方法だと思いますよ。 EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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