1950年代の人種差別暴動をモチーフとしたシニカルなサスペンス『サバービコン 仮面を被った街』

サバービコン

勤勉で頼りになる夫、美しい妻、元気な息子という絵に描いたような幸せな一家。そしてその全てを象徴するような、手入れの行き届いた庭付きの一軒家。そんな理想的な家族に降りかかったとんでもない出来事をシニカルに描いたサスペンス映画、『サバービコン 仮面を被った街』が公開中です。

舞台は1950年代のアメリカ。各地で新興住宅地が次々に作られ、多くの人が憧れのマイホームを求めて移住しました。小学生のニッキー(ノア・ジュープ)、サラリーマンの父(マット・デイモン)と、母(ジュリアン・ムーア)、脚の不自由な母の代わりに家事を手伝う伯母(ジュリアン・ムーア二役)の4人が住むサバービコンもそんな街。しかし、ある日彼らの隣に黒人家族が越してきたことで、街に衝撃が走ります。なぜならサバービコンには白人だけしか住んでいなかったのです。

誰もが仲良しで明るく健全な街サバービコン。しかしそれはあくまでも住民が白人だけの場合だったのです。偏見まみれの人種差別主義者たちによる常軌を逸した反対運動が始まり、街全体が不穏な空気に包まれます。そんな折、ニッキーの家族に突然の悲劇が訪れます。なんと家に強盗が押し入り、母が殺されてしまったのでした・・・。

監督のジョージ・クルーニーは、1950年代に実際に起きた人種差別事件を元にオリジナルの共同脚本を書いていましたが、盟友のジョエル&イーサン・コーエン兄弟が書いていたブラック・コメディの脚本を思い出し、そのふたつを混ぜて今回の作品に仕上げたとのこと。今回は製作のみに専念したためか、『バーン・アフター・リーディング』のような笑える要素は抑え気味にして、監督作の『グッドナイト&グッドラック』のような社会派の印象が濃いストーリーとなっています。

とはいえ、そこは名だたる芸達者の俳優たちのこと。あと一歩でホラーになりうるような究極の場面でも、「自分たちの演技や表情で笑わせる」という荒技で魅せてくれます。特にマット・デイモンのファンの方は必見! それからオスカー・アイザックにも要注目です。もともとはコーエン兄弟がクルーニーをあて書きしたというキャラクターのせいか、かなりコミカルな人物像で、出番は少なくとも強烈なインパクトを残します。

思わず見入ってしまうオープニングから、こだわりのインテリア、ため息が出そうな素敵な衣装の数々など見所はたくさんありますが、クライマックスの衝撃度は歴代クルーニー作品でダントツ。同じ時代を舞台にしたレオナルド・ディカプリオ主演の映画『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』と見比べてみるのも一興です。登場人物の中で最も怖い思いをするのははたして誰なのか? その答えはぜひ劇場でお確かめください。

【書いた人】♪akira
翻訳ミステリー・映画ライター。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、翻訳ミステリー大賞シンジケートHP、月刊誌「本の雑誌」、「映画秘宝」等で執筆しています。

『サバービコン 仮面を被った街』
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