働き方改革のテーマでもある「裁量労働制」、対象は拡大すべき?安易な適用はデメリットも
裁量労働制の対象拡大は働き方改革の目玉の一つ
ここ数年、労働者の多様な働き方を実現するために、働き方改革が進められています。
働き方改革は、一億総活躍社会を実現するために必要な改革です。日本では少子高齢化が進んでいますが、総人口の減少以上に労働力人口が減少しています。このままでは国全体の生産の低下・国力の低下は避けられません。
労働市場に参加していない女性や高齢者の活躍により働き手を増やすことも必要ですし、出生率の上昇により将来の働き手を増やすことも必要です。また、労働力が減少しても国全体の生産を維持できるようにするために、労働生産性の向上も不可欠になります。
労働力不足を解消して一億総活躍社会を実現するために、
長時間労働の解消
非正規と正社員の格差是正
女性や高齢者の就労促進
に取り組むことが、働き方改革です。
裁量労働制の拡大は働き方改革の目玉の一つでしたが、最近のニュースでは厚生労働省のデータ改ざんが問題になり、改めて働く人の裁量が広く認められる裁量労働制とは何かが注目されています。また、目玉の一つだけに、近い将来に裁量労働制の拡大を盛り込んだ労基法改正案について、再び議論される可能性は高いものと考えられます。
すでに会社で働く人でも裁量労働制を利用して働くことがありますので、自分に合った働き方を選ぶためにも、ここで裁量労働制によりどのような働き方ができるのか、裁量労働制のメリットや課題には何があるのかを押さえておきましょう。
裁量労働制とは?2種類の定義を確認
裁量労働制には、専門業務型と企画業務型の2種類があります。
1. 専門業務型は、研究開発、情報処理システムの設計・分析、取材・編集、デザイナー、プロデューサー・ディレクター、その他、厚生労働大臣が中央労働委員会によって定めた業務など、一定の専門職に限って認められる裁量労働制です。
2. 企画業務型は、企業の中核を担う部門で企画立案などを自律的に行う、いわゆるホワイトカラーの労働者に対して認められる裁量労働制です。
今国会に提出される予定だった労基法改正案では、2の企画業務型裁量労働制の対象業務に、「課題解決型提案営業」「裁量的にPDCAを回す業務」が加えられ拡大される予定でした。
本来の裁量労働制では、労働時間の管理は個人の裁量によります。つまり、勤務時間帯も決められず出退勤も自由ということになります。
労働時間の概念が無いわけではありませんので、実際にはあらかじめ月に○◯時間働いたことにしておく、みなし労働時間制が取り入れられることになります。例えば、みなし労働時間が1日8時間だとすると、実際に働いた時間が5時間でも、10時間でも、「8時間働いた」とみなされます。
裁量労働制の導入には労使協定を結ぶ必要があり、労働者本人の同意も必要です。また、労働基準法の規制により、みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える場合は36協定を結ぶ必要があります。
この場合は割増賃金を支払う必要がありますので、みなし労働時間が法定労働時間を超えて設定している企業では、一般的には定額の裁量労働手当などの名目で固定残業代を支払い対応するケースが多いでしょう。
裁量労働制を取り入れた場合の従業員のメリット3つ
それでは、本来の目的で裁量労働制を取り入れた場合の、働く人にとってのメリットは何でしょうか。
1.多様な働き方を実現することができる
一般の労働者のように、決まった時間に出社して、決まった時間に休憩を取り、決まった時間まで働かないと帰れないということはありませんので、自分が働きやすい、仕事の成果を出しやすいタイミングで、働く時間を設定することができます。
2.自分の裁量で仕事ができる
一般の労働者は会社の指揮命令系統の中で仕事をしますが、裁量労働制では仕事の段取りや手順についても会社から指示を受けることがありません。通常の業務の範囲では、自分の考えや判断により仕事を進めることができるので、自分のペースで効率的に働くことができます。
3.ワークとライフのバランスを取ることができる
裁量労働制では働く時間や進め方を自分の裁量で決めることができますが、仕事をしなくても、成果を出さなくても良いということではありません。ときには「みなし労働時間」以上に働くこともあるでしょう。
逆に、与えられた役割を果たし、成果を出すことができれば、「みなし労働時間」より早く帰ることもできるわけです。自由な時間を生み出すことができれば、家族と過ごす時間を大切にすることもできますし、趣味やスポーツなどに打ち込むことも可能になります。
自分の裁量でコントロールできることが多いことは、労働生産性の向上につながり、多様な働き方やワークライフバランスの面でも大きなメリットといえます。
裁量労働制の課題は「長時間労働の温床になる危険性」
しかしながら、課題がないわけではありません。
一番の課題は、裁量労働制が本来の目的ではなく、「みなし残業制度」的に取り入れられ、長時間労働の温床になる危険性があることです。
裁量労働制になじまない業務まで対象にしようとする企業も?
残業代を押さえることを目的として裁量労働制の導入を検討する会社では、本来は裁量労働制になじまない仕事まで裁量労働制の対象にしようとするケースもあるそうです。実際には、前述のとおり裁量労働制には対象業務が決まっています。
裁量労働制では残業代という概念がありませんので、実際に働く労働時間とあまりにもかけ離れていて、長時間労働が常態化しているような場合は、労働者にはデメリットの方が大きくなります。
(みなし労働時間が法定労働時間を超える場合、深夜労働や休日出勤などの場合は、割増賃金の支払いが必要です。)
会社の「暗黙のルール」で「裁量が狭い裁量労働」になるおそれも
裁量労働制で働く人は労働時間の概念が希薄になり、長時間労働に陥りやすいともいわれています。また、本来は自分の裁量で働く時間や方法を決めることができるはずなのに、実際には暗黙のルールで出退勤時間が決められていたり、みなし労働時間以上に大きな役割や成果を求められていたりするケースも要注意です。
裁量労働制を本来の目的で運用することができれば、働く人にとってもメリットが大きい働き方といえます。
多様な働き方の実現のために、近い将来、より多くの働く人が裁量労働制による働き方を選択できるようになっていく可能性が考えられますので、今後の法改正の動向に注目です。効果的に制度を活用できるためには、裁量労働制の制度の理解が必要です。そして、その機会が巡ってきたときには、メリットと課題を踏まえた上で検討するようにしましょう。
(折山 旭/ライフキャリアカウンセラー)
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