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岡電バス路線大幅廃止で問われる、地域の公共交通機関のありかたと未来

岡電バス路線大幅廃止で問われる、地域の公共交通機関のありかたと未来

両備ホールディングスが31路線の廃止届を出した背景

2月8日岡山県を中心にバス事業を行う両備ホールディングスが、グループ2社の赤字31路線廃止を国土交通省中国運輸局に届け出ました。今回の動きの裏には、格安運賃を掲げる他社が、両備グループの黒字路線への参入を国交省が認めようとしていることへの抗議という意味合いがあり、また地域の公共交通維持へ議論の場を設けようとしない岡山市に対する不満の表明という意図もあります。

この報道内容だけを見ると、両備ホールディングスが既得権益を守ることを優先して、経営努力を怠っている企業だと感じる人もいるかもしれません。しかし、2012年に岡山県の井笠鉄道バスが、1ヵ月後に会社清算を行うという突然の発表をした際には、生活に必要な交通手段が失われる不安が広がる地域住民のことを考え、両備ホールディングスは緊急対応を行っています。

急遽設立した別会社によって、多くの路線を引き継ぎ、沿線住民の生活の足は確保するとともに、井笠鉄道バスの従業員の雇用も一部引き継ぐことで、地方の公共交通機関の担い手として、損得を越えて責務を果たした自負が両備ホールディングスにはあったはずです。

「儲かる路線」ばかりを重視すると地域の足を守る「公共性」が失われる危険性

このように地方の公共交通機関が衰退している状況は、岡山県だけに限った話ではなく、全国的に広がっています。経営破綻した乗合バス会社は20社以上あり、また赤字を理由に廃止された路線の総距離数は1万㎞を超えています。

地方の乗合バス事業が経営的に苦況に立っている背景には、マイカー利用によるバス離れに加え、少子高齢化による過疎化の進行があります。さらに、2002年から実施された規制緩和が、路線バスの廃止を加速させています。

それまで、バス事業は、「公共性」の観点から、赤字路線だからといってすぐに廃止することなく、黒字路線や長距離バス路線、貸切りバスなどの収益で穴埋めすることで、赤字路線を支えるという収益構造をとっていました。

しかし、規制緩和により新規参入してきた事業者は、当然利益を見込めるドル箱路線に集中し、運賃の低価格競争を招く結果となりました。その結果、体力が弱っていた既存のバス会社は、「公共性」を捨て赤字路線の整理に出ているという状況です。

長年地域に貢献した路線バスが消え、一方で新規参入の貸切りバス業者が次々と認可されていく状況が、岡山県に限らず日本の多くの地域で起きています。地域の足を守るという「公共性」か、これ以上赤字は続けられないという「経営の効率化」か、規制緩和がもたらしたバス事業に突き付けられている課題が、岡山県の両備ホールディングスの今回の一件が象徴しています。

公共交通機関における「公共」とは何かをあらためて考察する

町中にあるスーパーマーケットやドラッグストアなどは、生活必需品を提供してくれるという意味で、私たちの暮らしの中に不可欠な存在です。

しかし、経営が行き詰まり店を畳むことになった場合、地域住民から「残念だ」と言われることはあっても、「無責任だ」とか「明日からの生活をどうしてくれるのか」といった非難めいた言葉を投げ掛けられることは少ないでしょう。こうした違いが生まれる理由は、交通機関の頭に「公共」という言葉が付いているからです。

Public Carrier(パブリック・キャリア)とCommon Carrier(コモン・キャリア)

では「公共」とは、具体的に何を意味するのでしょうか。公共交通機関を文字通り英語に置き換えれば、Public Carrier(パブリック・キャリア)になりますが、実際に英語ではCommon Carrier(コモン・キャリア)と言います。Commonにも「公の」という意味は含まれますが、Publicに比べると「一般的な」あるいは「共有の」というニュアンスが強いという特徴があります。

交通機関には、コモン・キャリア以外に、私的なPrivate Carrier(プライベート・キャリア)があるので、コモン・キャリアは不特定多数の人に同一の対価で運輸サービスを提供する事業者や手段を指し、プライベート・キャリアはもっぱら自分のために輸送を行う手段を指すという違いがあることになります。

この「不特定多数の人の利用可能性」という点に着目すると、交通機関だけに特有なものではなく、昔から電話や浴場があり、最近では無線LANなどもあります。

ただし、これらのサービスは「公衆電話」「公衆浴場」「公衆無線LAN」と呼ばれていて、公共電話や公共浴場という言葉は一般的ではありません。その意味では、交通機関だけが特殊な理由はなく、本来は「公衆交通機関」と言うべきです。

「公共=損得を越えて社会的に有意義な役割を果たすべき」なのか?

日本社会の中で、「公衆」は個人の集合体と捉えることが多いので、「私」と同一ではないけれど、相容れない反対概念とは考えられていません。一方、「公共の利益=公益」と「私益」は相反するものと捉えられることが多いように、「公共」は「私」とは対置されるものであり、公衆交通機関ではなく公共交通機関と呼ぶことで、損得を越えて社会的に有意義な役割を果たすべきだと受け取る人が多くなっています。

そこには、経済学における「私的財」と「公共財」の考え方が無意識に反映されている可能性があります。道路、公園、消防、警察は一般的に公共財とされています。公共財とされるためには、2つの条件を満たしている必要があります。

一つ目は「排除不可能性」(特定の消費者をその財の消費から排除することが不可能であること)で、二つ目は「消費の集団性」(ある財が同時に多数の人々により等量消費され、消費者間で財の消費をめぐって競争の余地がないこと)になります。

交通機関が「公共性」を強く求められている理由は昔からの流れだった

しかし、輸送業者が提供する移動手段は、上記の公共財の2つの性格を共に満たしていないので、本質的に交通機関は公衆のために供されているとしても「私的財」なのです。

それにも関わらず、交通機関に公共性が強く求められていることには理由があります。江戸時代までは、人々の移動手段の主流は徒歩でした。

歩いて移動するという方法は、「もっぱら自分のために供される」という点で、最も私的な性格を持っています。そこに、明治時代に入り鉄道という不特定多数の人が利用可能な交通機関が出現したために、運送事業者が独占的な立場を濫用して利用者に不利益を与えることがないように、営利を目的として行う輸送事業に免許制度を導入し、権利を有した事業者に差別なく均一のサービスを提供する義務を課す必要が出ました。

つまり、輸送サービス市場において独占的な企業が存在する場合、不当な利得行為を規制することが、公共の利益のために必要だったのです。

現代では輸送業者に求められる「公共性」は小さくなり「公衆性」の性質が強くなっている

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