サイトを利用して1億円の節約を実現、マンション大規模修繕の見直し術

大規模修繕

マンションも築10年が近づいてくると、そろそろ初めての大規模修繕を考えなければならない。しかし「大規模修繕はどこに頼めばいいのか」、「そもそも相場が分からない」等々、マンションの管理組合の悩みは尽きない。今回、大規模修繕を比べられる「マンション修繕入札サイト」を活用して、1億円もの節約を実現した管理組合があると聞き、その実情を聞いてみた。

そもそも大規模修繕は誰がどのように行うのか

管理組合に建築の専門家がいればいいが、おそらくいない場合が多いはずだ。また組合員に建設会社に勤めている人がいても改修部門に携わる方でないと知識は十分ではない。おそらく最初は委託している管理会社に頼むことが多いだろう。しかしそれが正解なのだろうか。

大規模修繕の依頼方法として、現在は大きく2つの方法がある。責任施工方式と設計監理方式だ。

「責任施工方式」とは、マンション管理組合と工事施工会社が工事請負契約を直に結ぶ方式。この場合は、調査診断、改修設計、資金計画から実際の工事までの全てを1社がおこなう。

「設計監理方式」とは、第三者(専門家)である設計コンサルタント会社に、調査診断、改修設計、工事施工会社選定補助、資金計画、工事監理などを委託する方法だ。「管理」ではなく「監理」ということばを使う意味は、単に工事を管理するのではなく、工事の内容自体も現場で監督するということで使われている。

最近では「チェック機能が働く」と、設計監理方式が人気を集めている。工事費以外に、設計監理業務費用として専門家の費用が発生するが、建物診断から始まり、工事の仕様決定、施工会社選定の補助、工事が始まってからは現場巡回や施工内容のチェックも委託できるので注目されている。

しかし国土交通省住宅局からの「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」(平成29年1月27日)という通知でも示されたように、設計会社と施工会社の談合があったり、一部の設計コンサルタントがバックマージンをもらうなどの事例があり、設計コンサルタント選びも注意が必要だ。

それではどうやって適切なパートナーを選べばいいのか。紆余曲折しながら、実際に大規模修繕に取り組んだ例を聞くのが一番早い。ということで、あるマンションの事例について取材してみた。

修繕積立金の予算額とぴったり。見積もり額に不信感…

築14年、約280戸のAマンションは首都圏の郊外に位置するマンションだ。修繕委員会としてかかわっているAさんにお話を伺った。

「2014年2月、築10年を越えたところで大規模修繕に取り組むことになりました。まず管理を委託していたX管理会社自身が、自社と自分たちの推薦する2社の合計3社での設計監理の相見積もりを出してきました。結局、総会では最安値のX管理会社を設計監理者として可決しましたが、X管理会社主導の不透明な決め方にすっきりしませんでした」とAさん。

そのX管理会社が設計監理者として算出した当初の大規模修繕工事の設計見積もりは3億8000万円という提示だった。「当時、修繕積立金の額がちょうど同額程度貯まっていたので、どうも金額ありきの見積もりではないかと不信感が生まれました」

翌年の3月に修繕委員会が発足。委員会の中には、X管理会社を信用する人たちと、X管理会社に不信感を持つ人たちに分かれていた。修繕委員会の中でX管理会社の見積もりに不信感を持つ委員が「1戸80万円位が相場だと聞いている」という話が出ると、管理会社派の委員が「それなら1戸80万円の見積もりを作ればいい」と言い出す人もいた。実際それに応じてX管理会社は2億2000万円の設計見積もりを提示してきたそうだ。

サイトを利用して最終的に1億円の節約を実現できた

いったい見積もりとは何のためにあるのかと不安感を持つようになったAさんたちは、8月に「マンション修繕入札サイト」を知り、客観的な判断を求めて相談することにしたそうだ。「単なるマッチングサイトではなく、コンサルティングもしてくれるということで信頼できそうだと思いました」とA さん。

「入札サイトの担当者から、同じX管理会社が管理し設計監理も請け負った埼玉のBマンションの事例を聞いたのですが、X管理会社が仕様や数量を作成、計算した統一の見積内訳書について、Zという設計事務所に検証してもらったところ、たとえば塗装面積がマンションの面積より広くなっているなど、不透明に4000万円ほど増額されていたことがあったというのです」

そこで、Aマンションでも、Bマンションで設計検証をしたというZ設計事務所に頼むことにしたそうだ。

結局Z設計事務所にX管理会社の設計見積もりの設計検証をしてもらったところ、同じ工事内容で3億8000万円から3億2000万円へと設計見積もりが下がったそうだ。

X管理会社に不信感を抱いた修繕委員会と理事会は2016年7月には臨時総会を開き、設計監理をZ設計事務所に引き継いでもらうことに決定した。12月には入札サイトや住民紹介、業界新聞を使っての公募など、幅広く募集して、工事会社15社が応募してきた。

「その間も反対派の住民からはかなりの抵抗にあいました。X管理会社と結びついている住民がビラを配るなど、臨時総会は大荒れに荒れましたが、結局X管理会社を設計監理者から外すことができました」

修繕委員会としてはオーバースペックである工事を取りやめるなどZ設計事務所とともに工事内容も精査し、結局入札サイトの会員である新工事会社が2億6000万円で請け負うことが決まった。追加工事の2000万円を含めて合計2億8000万円に工事費が決定。最初の見積もりから1億円も節約できることになった。

一連の事態を鑑みて、Aマンションは管理の委託自体も他の管理会社に変更した。そのため年間の委託料も300万円下がったそうだ。

公平・客観的な情報を得るためには外部組織を上手く活用するべき

ほとんどのマンションでは、管理を管理会社に委託している場合が多く何の疑問も持たず、大規模修繕も管理会社におまかせという例も多いだろう。

管理会社自身が施工会社として大規模修繕工事に手を挙げる場合以外でも、管理会社と関係のある工事会社を紹介されることも多く、適正利益以外のマージンが上乗せされる事もあるようだ。

そもそも見積もりが上がってきても、それが劣化具合に応じた必要な工事のものかどうか判断するのは管理組合側では難しい。そのとき、どんな点をチェックするべきだろうか。

「責任施工方式で工事会社から見積書を取得した場合、各社がバラバラな仕様項目や数量を入れてくる事が多いです。その場合、マンションの劣化具合に対してどの仕様項目が必要か、またその仕様のグレードは適正か、数量は正しいのか、という判断を管理組合側でしなくてはいけません。その際、工事金額が安いというだけで施工会社を決めてしまうと、手抜き工事をされたり、その結果大規模修繕工事が終わってまだそれほど月日が経っていないのに修繕箇所が再度劣化したりする事もあります。このような事を念頭にいれて信用のおける会社を吟味することが大切です」と入札サイトの担当者。

「設計監理方式の場合では、大規模修繕工事の経験豊富な一級建築士が理事会、修繕委員会の意見をくみ取りながら、今行うべき工事が何かを教えてくれます。劣化具合からして先送りできる工事内容と今手を打つべき工事内容を見極めてくれますし、例えば使い勝手が悪い箇所の改良や、住民の多くが希望する駐輪場の増設工事なども、資金面を含めてアドバイスしてもらえるため、管理組合としては必要な工事と適正金額の判断がしやすく安心です」(同上)

見積もりを取る前に、管理組合が建物・設備の劣化を把握する

正しい見積もりを取るためには、まずマンションが実際にどのような状態になっているかの現況把握が第一歩だ。建物や設備の各箇所について劣化度をランク付けして、実際の工事の必要性・緊急度を明確にする必要がある。そのために、まずは簡易建物調査診断を無料でやってくれるところ(設計事務所・施工会社・入札サイトなど)があるので、そのようなところを利用して複数の診断資料を得るのも1つの手だ。

簡易版の調査診断で、ある程度の概要を把握し、より詳細な状況を知るために正式な調査診断を有料で依頼するのがよいだろう。いずれにしても、管理会社にお任せすればいいというものではなく、管理組合自体がマンションの現状をきちんと把握しておくことが大切だ。

自分たちが納得した工事内容を基本に見積もりを取れば、高すぎる費用や安すぎる費用は排除できる。また自ずと相場観も養えるはずだ。そのためにも工事費の見積もりは項目ごとにきちんと出してもらおう。素人でもわかる見積もりを作ってもらうのは当然のことである。

大規模修繕はあくまでも管理組合が主導権を握り、必要な工事を適切な費用で実施するべきだ。そして公平・客観的な情報を得るためには外部組織を上手く活用するべきだろう。●取材協力

日本システムマネジメント株式会社 「マンション修繕入札サイト

●参考

国土交通省:設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について
元画像url http://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2017/12/146258_main.jpg
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