働き方改革に欠けている「労働生産性<働きぶり改革>」の視点

働き方改革に欠けている「労働生産性<働きぶり改革>」の視点

本当に必要なのは「働きぶり=労働生産性」の改革

昨年あたりから過度な残業問題を機に「働き方改革」が大きな注目を集め、一気に労働時間の短縮が進んでいます。結果として現場に負担がかかるだけだという声がありますが、残業をカットした分、生み出した付加価値の質や量は下がったのでしょうか。もし同じ付加価値を残業なしで実現できているならば、今までの残業の生産性は極めて悪かったということになります。「働き方改革」で軽視されている視点は「働きぶり改革」、つまり労働生産性ではないかと考えています。

「働きぶり改革」なしに「働き方改革」を優先してしまいますと、仕事のアウトプットは質量ともに低下します。もし、何も仕事の進め方にメスを入れることなく残業規制で仕事が回っているとすれば、それはもともと生産性の低い仕事しかできていなかったと言わざるを得ません。例えば100時間もの残業を強いられているというような問題が取り上げられますが、もし強制的に50時間以上の残業禁止となったときには、今まで100時間の残業で何とかこなしていた仕事を50時間残業でやるわけですから、通常勤務と残業を含め、ほぼ2割の生産性を上げないとこなせません。もしそれで問題がなければ、本人が頑張って2割の生産性を上げたか、もしくは2割の無駄な仕事をしていたかのどちらかになります。

日本の労働生産性を客観的に見てみると…

「日本人の働きは悪い!」と言われると納得できないでしょう。欧米人などはほとんどが定時で帰宅していますし、海外拠点でも毎日遅くまで残業しているのはだいたい日本人です。しかし、海外の現地スタッフの目からは、いくら日本人の残業時間が長いからといっても評価しません。ある意味、残業してまでこなせないのは仕事のやり方が悪いというようにも見られるのです。あくまでアウトプットの質と量が全てです。同じアウトプットであれば残業しないほうが良い働きぶりと思われるのは当然です。

「労働生産性」は一人あたりの付加価値額を意味しますが、ほぼ粗利額に近いものと考えても良いでしょう。2014年のOECD加盟34か国の労働生産性に関するデータによりますと、日本の生産性は一人当たり$72,994で、一時間あたりでは$41.3(約4,349円)です。パート労働者が多いことを考えると、平均ではそんなレベルかとも思えますが、諸外国を比較しますと、なんとOECD34か国中では21位つまり中位以下です。しかもG7先進7か国中では長年最下位を続けています。多くの日本人労働者は、心身を擦り減らして朝から晩遅くまで働いています。しかし、一人あたりが創出する付加価値は先進国の最下位という事実をどう受け止めれば良いのでしょうか。

日本経営では付加価値をどう高めるかという発想はあまりありません。どうしても売上げや占有率に重きを置いた経営の価値観から抜け切れず、赤字さえ出さなければ継続できるという甘えもあるように思います。外国企業は経営成果に対しての評価が極めて厳しく、投資に対するアウトプット、つまりどれだけの付加価値をいかに効率よく生み出せたかという資本収益性を重視します。利益を出していても生産性効率の低い事業は再編の対象になります。「働き方改革?」それって経営指標にどう反映されてるのかと単純な疑問を持たれるのです。

これまで日本の強みだった要素が機能しなくなってきた?

海外からの日本企業に対する評価は。だいたい決定が遅い、アクションが遅いというものです。和を大切にする日本的な経営風土が、結果的に共同体の一体感や人と人のつながりから情報の流れを作り出し、新たな知恵を生んできたことが強みでありました。一方、総意がないとなかなか決められず、問題が起きたときにも責任をあいまいにして問題を棚上げする傾向があります。本来なら時代と環境の変化に柔軟かつ機動的に対応し、人間が本質的に持っている個性や創造性を発揮して問題解決に立ち向かうことにより、付加価値を生み出し、一人あたりの労働生産性を高めることにつなげることができるはずです。

常に海外との比較において、自らの姿を鏡に映してみることも「働き方改革」に求められているのではないでしょうか。

(杉浦直樹/中小企業診断士)

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