ゲーム機でFlashを動かす『Scaleform』セミナー開催――開発者が寄せる期待と現実のギャップ

scaleform

アドビシステムズ(以下アドビ)は6月18日、『Scaleform・Adobe 共同セミナー:Flashコンテンツをゲームプラットフォームへ展開する技術、ビジネス』と題するセミナーを開催しました。『Scaleform』は、汎用のゲームエンジンに統合することにより、『Adobe Flash』で制作したFlashファイルをコンシューマーゲーム機上で再生可能にするミドルウェア。会場にはゲームメーカーの開発者だけでなく、『Flash』のスクリプト言語である『Action Script』の開発者、Flashゲームクリエーターなどが参加し、200名の定員が満席状態。このテーマへの関心の高さがうかがえます。『Scaleform』の紹介から事例紹介へ進み、さらにゲーム業界の構造について話が及ぶと、ゲーム業界の厳しい現実が参加者に突きつけられる結果となりました。

■400タイトルの実績
『Scaleform』の紹介セッションでは、米Scaleform社日本マーケット担当の阿部剛寿氏による製品紹介やデモが実演されました。同製品は米国を中心に採用が進み、現在400タイトル以上の実績を持っています。主にゲーム内のメニュー画面や、画面内にメーターなどを表示するヘッドアップディスプレー(HUD)といったユーザーインタフェースやテキスト表示部分をFlashで制作し、ゲームに組み込むことで成果を上げているとのこと。デザイナーは、使い慣れた『Adobe Flash』の制作環境で書き出したFlashファイルを、そのままゲーム内で使うことができます。

また、3DのオブジェクトにテクスチャとしてFlashムービーを貼り付けたり、Flashゲームそのものをゲームエンジン上で再生することも可能。Flashゲームをゲーム内で再生している事例として、マイクロソフトが『Xbox LIVE アーケード』で提供している『UNO RUSH』『Fable 2 パブ ゲーム』が紹介されました。

技術的には、Flashファイルのベクター形式のグラフィックを、ポリゴン化してゲームエンジン上で再生する仕組み。『Scaleform』は、『Unreal Engine』『CryENGINE』『HeroEngine』といった汎用ゲームエンジンに統合できるので、『Wii』『Xbox 360』『プレイステーション 3』『プレイステーション・ポータブル』それぞれに向けたゲーム開発に利用できます。つまり、Flashをゲーム機上で動作させるには、『Scaleform』だけでなく、これらゲームエンジンが必須となります。

■ゲームエンジンは自前で
続くセッションでは、ホームメディア代表取締役の町田保氏が、日本で『Scaleform』によりFlashコンテンツをゲーム機上で活用した事例を発表しました。同社は、『Wii』向けのダウンロードコンテンツ『Wiiウェア』用ゲーム『こども教育テレビWii あいうえ・おーちゃん』(以下、『あいうえ・おーちゃん』)を『Scaleform』環境で開発し、4月にリリースしています。過去に同社が販売していたCD-ROM用に制作した400以上のコンテンツを『Wiiウェア』に活用するために、『Scaleform』を採用しました。ゲームエンジンは、高価な汎用エンジンを導入するのではなく、自社で開発したとのこと。『あいうえ・おーちゃん』の開発工数のかなりの部分が、この自社ゲームエンジンの開発に割かれたそうです。

『Wiiウェア』の開発は、少ないメモリー容量に対応するために、ファイル容量の削減が大きな課題となります。『Wii』上のデモや具体的な事例を交えて、同社の開発プロセスが紹介されました。ゲームエンジンの自社開発、ファイル容量の削減など、技術的なハードルを乗り越えることによって、ようやくFlashコンテンツを『Wiiウェア』上で動かせたことが分かります。

■“ゲーム業界”のカベ
町田氏のセッションの最後に、「アドビから強い要望があって」(町田氏)、ホームメディアがどのようにしてゲーム業界に参入し、『Wiiウェア』のリリースに至るのかが説明されました。コンシューマーゲーム業界は、任天堂、ソニー・コンピュータエンターテインメント、マイクロソフトの3社がいわゆる“ファーストパーティー”として、ゲーム開発の許諾やライセンスを管理しています。これらファーストパーティー以外の、いわゆる“サードパーティー”がゲームを開発する場合には、ゲームの企画を申請し、ライセンスを受けてゲームを製作するパブリッシャー、パブリッシャーから受注して実際にゲームを開発するデベロッパー(開発会社)が関与します。

ホームメディアは、任天堂から認可されてゲームを開発するデベロッパー。ホームメディアの親会社であるリトルスタジオインクがパブリッシャーの役割を担い、『あいうえ・おーちゃん』が開発されました。詳細は守秘義務から明らかにされませんでしたが、米Nintendo of America社がウェブサイトで公開している、『Wiiウェア』のデベロッパーになる条件をヒントとして発表しました。条件を要約すると「ゲームの開発能力を証明すること」「守秘義務を負うこと」「任天堂から認可を受けること」「開発ツールを購入すること」「パブリッシャーと契約すること」の5条件となります。

■開発者に突きつけられた現実
セミナー参加者のうち、「ゲーム会社からの参加者は2割程度」(アドビ)。残りの多くは、Flashコンテンツの制作に携わる中小や個人の開発者、少なくともゲームメーカー以外の開発者と考えられます。『Scaleform』を使うことにより、「自分たちがコンシューマーゲームの開発に携われるかも」と期待して参加した開発者も多いはず。

これらの参加者は、「汎用のゲームエンジンで開発ができる、もしくは自前でゲームエンジンを開発できる」という技術面のハードルの高さ、「ファーストパーティーに認可され、さらにパブリッシャーと契約する」というビジネス面での敷居の高さを実感することとなりました。

セミナーを企画したアドビも、現在ウェブや携帯電話向けにコンテンツを制作する開発者が、コンシューマーゲーム機という、一般家庭に普及したプラットフォームでも活躍する機会が与えられることを期待しており、質疑応答ではアドビ担当者から発表者に水を向ける質問も投げかけられました。「Flash開発者がコンシューマーゲーム開発に携わるにはどうすればよいか?」という質問に、Scaleform社の阿部氏は「まずゲーム会社に就職すること。しかしゲーム会社に入っても、分業化が進んだゲーム会社ではユーザーインタフェースの制作しかできないかもしれない。自分の企画を製品にしたいなら、パブリッシャーに企画を持ち込むこと」と回答。ゲーム業界の現状の構造が浮き彫りとなりました。

アドビは現在、Flashの仕様をオープン化し、パソコン以外にも携帯電話や家電製品など様々なプラットフォームでFlashコンテンツを動作させる『Open Screen Project』を推進しています。これが実現すれば、現在のコンシューマーゲーム機、あるいは次世代のゲーム機では、もっとFlashとの親和性が高まる可能性はありそうです。『Scaleform』が切り開いたFlashとコンシューマーゲームの融合の道が、どう発展していくのか。今後の動向から目が離せません(この記事の配信元はこちら)。

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宮原俊介(エグゼクティブマネージャー) 酒と音楽とプロレスを愛する、未来検索ブラジルのコンテンツプロデューサー。2010年3月~2019年11月まで2代目編集長、2019年12月~2024年3月に編集主幹を務め現職。ゲームコミュニティ『モゲラ』も担当してます

ウェブサイト: http://mogera.jp/

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