【お坊さんのお掃除スタイルvol.1】 吉村昇洋さん「典座さんのぴかぴかキッチン」
みなさん、こんにちは!「お寺カフェ 神谷町オープンテラス」の光明寺、僧侶の松本圭介と申します。
昨年末、ディスカヴァー・トゥエンティワンから『お坊さんが教える こころが整う掃除の本』を出版しました。掃除のテクニックに特別詳しいわけでもない私ですが、僧侶としてお寺で過ごす日々から学んだ「こころ磨きとしての掃除」について、一冊の本にまとめさせていただきました。内容は”町のお寺のふつうの掃除”が基本ですが、「掃除といえば道元禅師」ということで、『彼岸寺』の禅僧さんたちから伺ったお話なども盛りだくさんです。
で、本を書いてる途中に気がついたんです。お坊さんそれぞれお掃除観があって、話を聞いてみるとこれが皆、かなり面白い。
というわけで、この特集『お坊さんのお掃除スタイル』では、『彼岸寺』のお坊さんたちにお掃除観をインタビューしていきます。記念すべき一人目は、吉村昇洋さん。永平寺で修行したお坊さんに、「吉村さんと友だちなんです」というと「えっあの吉村さんと?」と驚きと尊敬(と恐れ?)のまなざしが返ってくる、そんな厳しくもお茶目な禅僧の吉村さんに、ご自分のお寺での日頃のお掃除について、改めてお話を伺いました。
ジャージなのに「お坊さんが掃除してる!」と言われる
松本:『お坊さんが教える こころが整う掃除の本』にもご協力いただいた禅僧の吉村さんに、ふだんのお掃除に関してお話を伺います。その前に吉村さん、この写真は何ですか?
吉村:こんにちは、吉村です。私は広島市内にある普門寺という曹洞宗のお寺の僧侶で、精進料理を軸とした活動を行っています。その一方で、臨床心理士の資格も持っていて、平日には某精神病院の運営する福祉施設にも勤務しています。
そこでは自分が僧侶であることを隠しているわけでもないのですが、あえて言うこともないので、普段はふつうの職員として、ふつうの格好をして働いています。その施設では、毎朝1時間くらい掃除をするのですが、職員は皆、ユニフォームのジャージ姿のまま掃除するので、同じように私もジャージで掃除しています。今どき坊主頭の人も多いですし、精神科だとどうしても髪の毛を引っ張られるリスクもありますから、男性の場合、髪の毛を短くしている職員は割と標準なんですよ。なので、見た目は完全に、ふつうの職員です。
そこにある時、メンバーさんが通りがかって、「あ、お坊さんが掃除している!」と言われたんですね。他にも、「なんか雰囲気が違う、一人だけお坊さんっぽい人がいる」とか。「お坊さん?」と聞かれたこともあります。とくに、箒で掃いているときに言われますね。やっぱり、修業時代に身につけた合理的な掃除の仕方、てきぱきとした動き方が自然と出てしまっているのでしょうか。というわけで、普段通りのジャージの掃除姿を撮影してみました。僧服じゃなくても、お坊さんっぽく見えます?
松本:見えますね……。何でしょうね、やっぱりどこからどう見ても、お坊さんですね。さて、吉村さんは永平寺での修行時代は、修行道場の台所である典座寮(てんぞりょう)に配属されていたそうですね。修行僧のために大鍋料理を一手に担う永平寺の典座寮とはまた勝手が違うと思いますが、吉村さんのいらっしゃる普門寺さんの台所はどんな感じなんですか?
お坊さんのキッチンはピカピカである
吉村:昨年、新しく庫裏を建て直して、精進料理のイベントができるように厨房を作ったんですけど、まだあまり使っていないのもあって、とにかくピカピカです。このまま永平寺の台所(典座寮)のようにきれいに整った状態を維持したいですね。典座では調理器具の仕舞い方や置き方が非常に合理的だし、整理整頓がきちっとされていて、道具を置く角度まで必ず決まっている。おかげで、次に使うときにも機能的に動けるんです。
といっても、永平寺は大寺院でスペースもたくさんあるので、家庭でやるならもっと工夫が必要ですね。使われていない空間があれば収納スペースに変えて活用するとか。その結果、本来ものを置かなくていいようなところにものを置くということもなくなる。調理の度に、面倒くさがらず所定の位置にものを戻すことができるか。使いにくいとか人の導線が悪いとか、合理的な作りでなければ片付けも続きません。そもそも無駄なものは置かない、使わないものは置かない、ということが大切なんですよ。
松本:料理も掃除も、どれだけ合理的にやれるかがポイントですよね。私は掃除本を書いておきながら、このところあまりに忙しくて自宅の掃除ができていなかったのですが、今日は掃除機も拭き掃除もできて、気持ちがすっきりです。掃除機をかけるだけだとあまり意識しませんが、拭き掃除などいろいろやるというときは、どうやったら無駄な動きを少なくできるか、まず手順を考えます。
吉村:やっぱり、ゴミやホコリっていうのは上から下へ流れていくものなので、高いところから掃除していくっていうのは基本中の基本。掃除機で掃除しているとわかりませんが、ほうきをつかって合理的に動こうとするとわかる。複数人で掃除するときは、掃除する箇所によっては時間が早く終わったりしますし、そういう意味での段取りもありますね。早く終わったら次はどこ、と予め考えておく。終わったらすぐ他のところに応援にいく。
永平寺のお坊さんは動きがいい
友人に聞いた話で、自分では気づいていなかったのですけど、曹洞宗の坊さんって、超宗派で集まると真っ先に動いているそうなんです。何か片付け終わったらすぐ次の手伝いに行くとか。やっぱり、修行生活で訓練づけられているのですかね。掃除も大切な修行だって言っている宗派だけに、自然と率先して動いてしまうのかも知れません。
松本:でも、段取りが苦手な人っていますよね。
吉村:最初は段取りが悪くても、誰でもだんだん良くなる。悪いと叱られるから(笑)。それが繰り返されていくうちに、だんだんできていく。ひとり足を引っ張っていると、他の人が助けてくれて、申し訳ないなっていう気にもなるし。
松本:でも人によってはそれが苦手分野で、もうどれだけ頑張っても要領を得ないこともあるんじゃないですか?
吉村:どうしようもない人は、いじられキャラに直行ですね(笑)。永平寺でそうだと、娑婆でもそうで。みんなに迷惑かけながら生きているわけだけど、誰だって多かれ少なかれそういう部分はあるものだし。
松本:人間は自分を基準に他人を見てしまうものだけど、みんなそれぞれ違うんだっていうことを学ぶことにもつながりますよね。
吉村:そうだなぁ。連帯責任になったりするということが多いので、仲間同士お互いに理解して、手伝ってあげたりするようになるし、本人なりに頑張っているっていうのが分かったりする。中には、人が手伝っているのをいいことに、楽をしようとするとんでもないやつもいますけど(笑)。
松本:集団生活ならではの楽しみっていうところもありますよね。同じことでも、仲間がいれば頑張れるけど、一人でやるとやっぱりしんどいことってありますよね。
大変な掃除もみんなでやると楽しめる
吉村:山作務とか川作務とか、けっこう大変な掃除もいっぱいあるんだけど、そのときは大変でも、後で「ああ、あのとき大変だったね」って話題に上ることもあって。みんなでやってるから楽しめる。でも、一人だと、そうはならないんですよね。みんなでやったらできるんだけど、一人でやったらできない。実際は掃除って奥さんが一人でやることが多いでしょ。それだと、やりがいを見つけるのは難しいんですよ。
『お坊さんが教えるこころが整う掃除の本』でも言われているように、ときどき内容を変えてみたり、役割分担を変えてみたりすることって大事だと思う。あと、ここは何分以内に終わらせるとか目標を定めて、メリハリをつけるのもいいでしょう。自分のやり方に合わせて掃除道具を自分で作ってしまうのもいいかも。
松本:こだわりの掃除道具とかありますか?
吉村:タオルとか。よく粗品でもらうような、あれです。あのタオルって、ものすごい使い勝手がよい。永平寺の台所だと、だんだんボロくなっていくのに合わせて機能を変えていました。きれいなものは食器拭き、次に台拭きにしたり、まな板の下に滑り止めで置くタオルにしたり。もうちょっと汚くなってきたら、掃除用の雑巾にする。
松本:男女の役割がフラットになってきたといっても、日本ではまだまだ、性別による家事の役割分担ってあると思うんですよ。その点、完全な男社会の永平寺では、どんな感じだったんですか。全員が男でも、そのうち何人かが何となく女房役になったりとか?
吉村:修行に来ているっていう意識があるので、みんなバランスをとってやっていました。後輩の指導は先輩がやるわけですが、厳しめにいく人と、やさしい人、お父さんとお母さんみたいな役割分担はありましたね。僕の場合は思いっきり父性的でしたが…。
松本:ご自分のお寺で、奥さん(これから奥さんになってお寺に入られる)にも父性的に厳しくいきますか?
吉村:いや、奥さんには母性的にやりますよ。特にお寺という全く違う環境に入ってくるわけだから、それ自体がストレス。ストレス自体が父性的なものだから、僕は母性的に関わらないと。
松本:さすが、バランスのいいお坊さん。
吉村:それを目指しているんだけど。でも、つい父性が出ちゃうかもなぁ(笑)。
松本:がんばってください! 今日はありがとうございました(了)。
プロフィール
吉村昇洋/よしむらしょうよう(インタビューされたお坊さん)
1977年3月、広島県生まれ。曹洞宗普門寺副住職・臨床心理士。
大学院(仏教学修士)を修了後、曹洞宗大本山永平寺にて2年2ヶ月間の修行生活を送る。2005年11月より、Webマガジン「虚空山彼岸寺」にて精進料理のコンテンツ【禅僧の台所 ~オトナの精進料理~】を展開し、”食”を通して日常に活かせる禅仏教を伝える他、カルチャーセンターや各種イベントにて精進料理の講師も務めている。現在、料理雑誌『栄養と料理』にて、エッセイ「禅僧の考えごと」を連載中。
松本圭介/まつもとけいすけ(聞き手)
1979年北海道生まれ。浄土真宗本願寺派光明寺僧侶。東京大学文学部哲学科卒業。超宗派仏教徒のウェブサイト『彼岸寺』(higan.net)を設立し、お寺の音楽会『誰そ彼』や、お寺カフェ『神谷町オープンテラス』を運営。ブルータス「真似のできない仕事術」、Tokyo Source「東京発、未来を面白くするクリエイター、31人」に取り上げられる。2010年、南インドのIndian School of BusinessでMBA取得。現在は東京光明寺(komyo.net)に活動の拠点を置く。2012年、若手住職向けにお寺の経営を指南する「未来の住職塾」を開講。著書に『おぼうさん、はじめました。』(ダイヤモンド社)『”こころの静寂”を手に入れる37の方法』(すばる舎)『お坊さん革命』(講談社プラスアルファ新書)『お坊さんがおしえるこころが整う掃除の本』(ディスカヴァー21社)など。
ウェブサイト: http://www.higan.net/
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