窪美澄、新刊『アニバーサリー』を語る(2)
出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!49回目の今回は、3月に発売された新刊『アニバーサリー』(新潮社/刊)が好評の窪美澄さんです。
『ふがいない僕は空を見た』で第24回山本周五郎賞、『晴天の迷いクジラ』で第3回山田風太郎賞を受賞した窪さんは今最も勢いのある作家。そんな窪さんに、新刊について、読書について、さらには創作者としての才能についてと、さまざまなテーマでお話を伺いました。今回は中編です。
■「感性だけで書き散らしていくと長生きはできないかな、という感じはする」
―窪さんもお子さんがいらっしゃって、子育ても経験されているかと思いますが、窪さんの子育てのスタイルはやはり晶子のものに近かったのでしょうか。
窪「全然違います(笑)そもそも晶子のように料理が得意じゃないですからね。料理の描写をすると、料理が上手なんじゃないかと思われがちですけど、まったく違います! 炊事がとにかく苦手で、どちらかというと作ってもらいたいタイプなんですけど、それでも子育ての時はがんばってはいましたよ」
―子育てでどんなことを心がけていましたか?
窪「“そんなことまで話すの?”ということまで子どもには話していましたね。うちの息子はこの春から家を出て大学のそばで下宿しているんですけど、高校生の頃から“ちゃんと避妊してよね”とか、ごはんを食べながら普通にしていました。特にうちは二人家族なので、お金のこととか、割と大事な話はしてるかな…。
うちの息子は、『ふがいない僕は空を見た』が売れてなかったら大学に行けてなかったと思うんですよ。だから荷造りしてるところでしつこく『みなさんが本を買ってくださったおかげであなたは大学行けるんだよ』と(笑) 相当、本人は嫌だったと思いますけど」
―そういう時、息子さんはどんな反応をするんですか?
窪「大体黙ってますね。高校生の時は“うるさい”って言っていましたけど。ただ、お金のことはやっぱり大事なので、“どうやって我が家の生活は成り立ってるのか”っていうのはしつこいくらいに言っています。特に、自営業だと家に入ってくるお金の流れが見えますからね」
―地震のお話しに戻りますが、東日本大震災の前と後で窪さんご自身に変化はありましたか?
窪「私は1965年生まれなんですけど、小さい頃から地球が終わる終わるって言われていたんですよ」
―「ノストラダムスの大予言」などですか?
窪「それもありましたし、冷戦があったりチェルノブイリの原発事故があったりして、その度に“地球が終わる”って言われていたんですけど、結局は終わらなかった。
そんな経験もあって、東日本大震災がきた時に、“ああ、これで終わるな”って感じたんですよね。その感覚は今もあって、一日一日がぎゅっと詰まる感じがします」
―登場人物の絵莉花は地球の滅亡を信じていて、それが彼女を刹那的な行動に駆り立て手いるところがあります。今おっしゃったような窪さんの感覚は彼女にも投影されているのでしょうか。
窪「そうですね。自分の友達を見ても、それこそ絵莉花のように刹那的になってしまう人もいましたし」
―作中で、カメラマンの岸本が写真の道に進もうとしている真菜に「感性だけでは行き詰まる」と言う場面があります。小説に置き換えてお聞きしたいのですが、窪さんが小説を書く時、感性や技術といった構成要素はどれくらいの割合になっているのでしょうか。
窪「前々作の『晴天の迷いクジラ』の中で『表現型の可塑性』という言葉を使って書いたんですけど、才能を持っているだけでは世の中渡っていけないと思っていて、自分が持っているものをある程度周りの環境に合わせて変えていくっていうことも大事だと思います。
小説にしても、感性だけで書き散らしていくと長生きはできないかな、という感じがしますね。
物書きなんてみんなある程度感性は持っていて、キラリとしたものはあるんですけど、大事なのはそこじゃないかもしれないっていう視点は持っておいた方がいい気がします。刀を作る時って、熱くなった鉄を水に浸けて冷やすことで強度を高めますよね。感性が光っている時っていうのは刀が熱く燃えている状態。だけど、それを収める鞘の方も大事なんじゃないかと」
―「鞘」というのが周りの環境を見る力ということでしょうか。
窪「そうですね。感性だけあっても、次々やってくる締切に間に合わないとダメですし、打ち合わせなどもしないといけません。だから、ある程度のコミュニケーション能力は必要です。自分のやりたいことや、自分に求められていることについて、そんなに強く意識する必要はないですけど、長くやっていきたいのであれば、どこかでそういう目を持っていた方がいいんじゃないかと思いますね」
―才能がある人は、人がやっていない分野を上手に見つけるって言いますよね。
窪「そういうのはきっと本能的なものですよね。本当に才能がある人は、どこに根を伸ばせるかっていうのを意識せずに探していると思います。単に文章がうまいとかではなくて、どこに根を張る場所を見出すか、自分が生きていける場所を見つけるということも含めて才能ではないでしょうか」
(新刊JP編集部)
・第3回「『アニバーサリー』は、しんどさの先にちょっとした光が見えてくる」につづく
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