『砂の栄冠』作者が語る、キャラクター作りの秘訣
出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
記念すべき50回目の今回は、講談社「ヤングマガジン」で、『砂の栄冠』を連載中の三田紀房さんが登場してくれました。
『砂の栄冠』は、高校野球の爽やかなイメージの裏側に隠された本当の姿に焦点を当て、そのイメージを利用しながらしたたかに甲子園を目指すという、これまでにはなかった野球漫画。
今回は三田さんが本作の取材で知った高校野球の裏側や、『砂の栄冠』の今後など、気になるテーマについてたっぷりお話を伺いました。
野球ファン、野球漫画ファン、必見のインタビュー最終回です。
■『クロカン』と『砂の栄冠』に共通するもの
―次に、三田さんご本人についてお話を伺いたいのですが、漫画家になろうと思ったきっかけは、ご実家の商売の資金繰りのために賞金が欲しかったからだとか。
三田「単純に言うとそうですね。少なくとも、漫画を描いて生きていくということは、もともと考えていませんでした。普通にサラリーマンとか公務員になりたかったです。元々あまり働きたくない性格なので、背広を着てネクタイを締めて、適当に生きられないかなと思っていましたね」
―それで、賞金を稼ぐために書いた作品が見事に賞を取ってデビューというのはすごいですね。
三田「賞を取るように描きましたからね」
―賞を取るというのは、どのように描いたのでしょうか。
三田「こういう漫画に賞をあげたくなるという作品です。日本人が好きなパターンの作品ということなんですけど。みんな寅さんとか好きじゃないですか。あんな風に描けばいいんです」
―三田さんの中で転機となった作品はありますか?
三田「『クロカン』でしょうね。あれを描いたことによって、ある程度周りから見知ってもらえるようになりました」
―『クロカン』は高校生である選手たちが、自分たちで監督にお金を払って野球の指導をしてもらうっていうのが新鮮でした。
三田「やっぱりフックというか、そのキャラクターだとかその作品を象徴する何かが欲しいんですよね。
“『クロカン』の黒木はノックを一本打つのに10円取る人”、みたいに“このキャラクターはこういう人”と一行で言えるようにしたいというのがあって。
それに、画的にも使えるんですよ。『クロカン』に選手たちが黒木に払ったお金が一斗缶にいっぱいになっている画がありますが、この画を入れることで、こんなにお金が貯まったんだからこれだけチームは強くなったんだということが説得力を持つわけです。
『砂の栄冠』は、お金を“使う”方だから『クロカン』とは逆なんですけど、同じことが言えます。
強さは相対的なものだから、人によって判断がバラバラなんですよ。そんな中でも、読者にある程度統一した意識を持ってもらうための材料として、お金が積まれたとか減ったという描写を使っているんです」
―三田さんが人生で影響を受けた本がありましたら、3冊ほどご紹介いただければと思います。
三田「これはおもしろいなと思ったのが、『栄光と狂気』という本です。シングルスカルというボート競技でオリンピックを目指す人々を描いた本なんですけど、人って目的のために、これほどまで一途になれるものなんだなと思いました。
漫画では『あしたのジョー』ですね。さっきお話しした、一斗缶にお金を集めるアイデアの元は丹下段平のハガキかもしれません。矢吹丈が刑務所に入っている時に、丹下段平がジャブの打ち方などをハガキに書いて送り、それを読んだ丈が獄中で練習するんですけど、そのハガキがこれだけ溜まったから丈は強くなったという説得力があります。僕が今そういうことをしたがるのはこれの影響でしょうね。
あとは『あぶさん』。特に南海ホークス時代ですね。あの代打男の時代は大好きでした。漫画のヒーローをどう描くかというところで、あぶさんは画期的でした。代打でたまにしか試合に出ないし、酒飲みだし、生活は破たんしかけている。そのギリギリのバランスをどう取るかというところで、あぶさんはヒーローをどう描くかっていういい教科書でした」
―最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いします。
三田「『砂の栄冠』はここからおもしろくなりますよ、ということは言いたいですね。どこから読んでもおもしろいように作ってはいますが、いよいよここから本格的におもしろくなるので、ぜひ読んでみてほしいと思います」
■取材後記
野球界の裏話を聞くことができて、野球ファンとしてとても楽しい取材でした。
現実の高校野球も、『砂の栄冠』も、夏に向けて走り出したところ。
どんなドラマが生まれるのか、七嶋と樫野高校の夏に注目です。
(取材・記事/山田洋介)
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