【解説】放射性物質の新しい基準はどの程度厳しいのか?

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NHK「かぶん」ブログ

今回は『NHK「かぶん」ブログ』から転載させていただきました。

【解説】放射性物質の新しい基準はどの程度厳しいのか?

食品に含まれる放射性セシウムの基準が、新年度からキログラムあたり100ベクレルなどと大幅に厳しくなりました……というニュースをお伝えすると、「“厳しくなった”というが、海外に比べると甘いのではないか」といったご質問をいただきます。東電福島第一原発の事故後、1年あまりたって導入された新たな基準は果たしてどの程度厳しいのか、科学文化部・稲垣雄也記者が解説します。

新しい基準の“根拠”は?

食品に含まれる放射性セシウムの新しい基準は食品からの被ばくを最大でも1ミリシーベルトに抑えることを前提に作られました。福島第一原発の事故のあと、緊急時の対応として設けられた暫定基準値が上限とした被ばく量が5ミリシーベルトですから、その5分の1です。

NHK「かぶん」ブログ

新しい基準では食品を4つの区分にわけました。
▼野菜や米などの“一般食品” (キログラムあたり100ベクレル)
▼子どもが飲む量が多い“牛乳” (キログラムあたり50ベクレル)
▼摂取量が多い“飲料水” (キログラムあたり10ベクレル)
そして新たに
▼大人よりも放射線の影響を受けやすいとされる“乳児向け” (キログラムあたり50ベクレル)
の区分を設けました。

そして食糧の自給率を考慮しながら、摂取する食品の半分が汚染されていたという想定で1年間の被ばくを年齢などで分けて試算したのです。
その結果、食べる量がもっとも多い13歳から18歳の男性は最大で年間0.8ミリシーベルトになる計算でした。次いで多かったのが19歳以上の男性で0.78ミリシーベルト13歳から18歳の女性で0.68ミリシーベルトでした。食べる量が少ない0歳から6歳の乳幼児では0.35ミリシーベルト前後になる計算でした。

海外と比べると厳しいの?

この新基準を海外の基準と比較すると、例えばアメリカとEUでは、いずれも食品一般でそれぞれ1200ベクレルと1250ベクレルとなっています。原子力事故などの当事国ではなく、流通する食品全体に占める汚染の割合を小さく見積もっているため(日本の50%に対し、アメリカは30%、EUは10%)、高い数値となっているのです。

一方、チェルノブイリ原発事故の影響を受けたベラルーシでは、
▽飲料水が10ベクレル(日本と同じ)
▽パンが40ベクレル(日本では“一般食品”にあたるので100ベクレル)
▽ジャガイモが80ベクレル(同上。日本では“一般食品”にあたるので100ベクレル)
▽牛乳や乳製品が100ベクレル(日本は50ベクレル)

など、食品ごとに基準が設けられています。ちなみにベラルーシは事故後、徐々に基準を厳しくして現在の数値になっているという経緯があります。
一方で、食品を通じて体内に取り込まれたあとの放射性セシウムがどうなるかですが、全身の筋肉に散らばり、その後およそ100日で半分、300日で90パーセント以上が体の外に排出されるということです。ただ、99パーセント以上排出されるまでには2年近くかかると考えられています。

ご質問やご要望への回答

みなさんからいただいたご質問やご要望をふまえまして、上記の記事に追記させていただきます。

まず「記事の例は“一度に汚染物質を取り込んでその後は摂取しない場合”のことだが、日本の食品からの内部被ばくの現状では、減っていかずに蓄積していくのでは」というご質問をいただきました。
記事にあるのは、放射性セシウムを一度に取り込んだケースを想定しています。被ばく医療の専門家などによりますと、毎日一定量の放射性セシウムを食品を通じて取り込み続けた場合、はじめのころは取り込む量が排出される量を上回るので体内に蓄積する量は増え続けるということです。その後、時間の経過とともに排出量も増えてくるので、ある時期に両者が等しくなり、それ以降は体内の蓄積量は変化しなくなるとされています。
ICRP(国際放射線防護委員会)の試算では、例えば食品を通じて毎日10ベクレルを取り込み続けた場合、体内の蓄積量は500日後には1400ベクレルを超え、その後はほぼ一定の量を保つとしています。
複数の専門家によれば一定のレベルに達したあと汚染された食品をまったくとらなくなった場合、その後は記事でお伝えした“およそ100日で半分”というよりも早いスピードで減っていく可能性が高いということです。理由は、体内に蓄積している放射性セシウムのなかには取り込んでからかなり時間が経過しているものも含まれるため、一度に取り込んだ場合に比べて排出が早まると考えられるからです。

続いて、
>アメリカやEUの基準を持ち出すのであれば、今現在アメリカやEUで福島や近隣県の食品が輸入停止になっていることもしっかり伝えてほしいです。

アメリカやEUでは、原子力発電所の事故などを想定してそれぞれ一般食品の基準を定めています。アメリカでは日本の食品に対する特別な基準は設けず、日本で出荷停止になったものなどを対象に産地と品目を指定して輸入規制を行っています。一方EUでは、一般食品に対する基準とは別に、日本からの輸入食品に対して例外的に別の基準を設けて規制をしています(日本の新基準をそのまま適用)。その他の国の対応については、下記農林水産省の資料をご覧ください。
http://www.maff.go.jp/j/export/e_info/hukushima_kakukokukensa.html[リンク](ページの一番上のリンク「諸外国・地域の規制措置」をクリック)

>3日ほど前のNHKニュースで“日本の基準はアメリカとEUの値より厳しい”という説明をしていましたが、汚染された食べ物が日常的に流通していないそれらの国と、日本のように多くの食べ物が汚染された国を、単純に比べるのは誤解を招きます。実際、こうしたニュースを見た多くの人が、“欧米より厳しい基準なのだから食べ物に注意する必要はない”と考えてしまっています。この問題は以前からNHKさんに対して指摘されていると思いますが、ずっと改善されていないのはどうしてなのでしょうか。欧米の基準値は核戦争などに“備えた”数値であることを明示するか、あるいは比較例として出さないようにしてください。

お答えします。アメリカとEUの基準はいずれもチェルノブイリ原発の事故をきっかけに設けられました。これらは日本にとってもっとも身近な国(地域)のひとつであるため言及したものです。また、同じ事故当事国としてベラルーシの例も引用しています。ブログではさらに、「原子力事故などの当事国ではなく、流通する食品全体に占める汚染の割合を小さく見積もっているため(日本の50%に対し、アメリカは30%、EUは10%)、高い数値となっているのです」という解説を加えました。

>ベラルーシの現行基準で、乾燥キノコ(キログラムあたり2500ベクレル)、生キノコ(キログラムあたり370ベクレル)、牛肉(キログラムあたり500ベクレル)という、日本よりはるかに高い数値があえて紹介されていないのはなぜでしょう。現在日本で高濃度のセシウムが検出されているのがキノコと牛肉なので、これを外しているのはおかしいと思うのですが。あえて外されたのであれば理由をお聞かせください。

ベラルーシでは国民の消費量が多い食品の値を低く、少ないものは比較的高い値になっていて、現在の基準は日本と同じくすべての食品で年間1ミリシーベルトを超えないように設定されています。記事では、比較するために日本でも摂取量が多い食品を中心に取り上げました。

>検査体制のほうは万全なのでしょうか? 基準をいくつにしても、検査に漏れがあっては意味がありません。これまで何度も基準を超えたものが市場に出回り、人の口にはいりましたよね。

ご指摘のとおり、基本的にはサンプル検査なので、基準を超えた食品が検査をすり抜けて市場に出回る可能性はあります。それを防ぐには市場に出回るすべての食品を1つ1つ検査する必要がありますが、現在の検査法では莫大(ばくだい)な費用と時間がかかります。検査を行うことによって避けられる被ばくと、検査を行うことでかかるコストや時間を比較して検査の頻度を決めていますが、どの程度行うべきなのかというのは難しい問題です。

>ベラルーシが徐々に基準を厳しくしていった理由はなんですか?
>“根拠は?”の部分、冒頭部分一番重要な根拠が書いてないように思ったのですが。そもそも5ミリの根拠はなんだったのでしたっけ? そして一年経って1ミリに引き下げた根拠は?

ベラルーシの基準は、事故当初は非常に高い値になっていました。これは、基準を低くしてしまうと食べるものがなくなってしまうからです。事故当初、旧ソ連時代の86年の基準は内部被ばくの実効線量で50ミリシーベルト。87年からは8ミリシーベルトとされました。その後、ベラルーシ共和国として独立した後に定めた法律では92年に1ミリシーベルトとされました。基準の引き下げは事故の収束を受けて、国民の生活に与える影響を考慮しながら段階的に行われました。
日本の暫定基準値の放射性セシウムの5ミリシーベルトの根拠は、ICRPやIAEA(国際原子力機関)が緊急時に食品の出荷制限などの措置をとるべき目安の線量として示していた、5~50ミリシーベルトという値の下限を参考に設定されました。また、新しい基準の1ミリシーベルトの根拠は、ICRPが勧告している一般の人の被ばく限度が元になっています。

科学文化部・稲垣雄也

執筆: この記事はNHK科学文化部さんのブログ『NHK「かぶん」ブログ』から転載させていただきました。

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