高橋名人 | ミスを恐れず仕事を楽しむべし!ファミコンのように

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さまざまなシーンで活躍しているビジネスパーソンや著名人に、ファミコンにまつわる思い出から今につながる仕事の哲学や人生観についてうかがっていく本連載「思い出のファミコン – The Human Side –」。

これまではファミコンを少年時代にプレイヤーとして親しんだ方々にエピソードをきいてきたが、今回ご登場いただくのは、当時の子どもたちを熱狂の渦に巻き込み、カリスマ的な人気で一世を風靡した「高橋名人」。ファミコンブームを創り出したビジネスの当事者のひとりとして、またゲームメーカー「ハドソン」の社員・高橋利幸氏として、当時を振り返っていただきつつ、今を生きるかつてのファミコン少年たちへのメッセージをいただいた――

イケイケで働いたファミコンブーム黎明期

―― 高橋名人(以下「名人」)がハドソンに入社されたのはファミコン発売前の1982年だそうですね。当初はどのようなお仕事をされていたのですか?

私自身は文系なんで、それまでプログラムの勉強なんかしたこと無かったんです。だから独学で勉強をしました。ハドソンは当時パソコンゲームを手がけていましたから、パソコンの機種毎で方言のように異なるプログラム言語を解読して、移植作業を手伝うくらいのことまではやっていました。小さな会社でしたから販売営業もしていましたよ。

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その後、ハドソン初のファミコンカセットである『ナッツ&ミルク』と『ロードランナー』が1984年の7月に発売されるのですが、そのタイミングに合わせるように宣伝部へ異動になりました。でもそのとき最初に与えられた仕事は、「『ファミリーベーシック』の攻略本を書いてくれ」というもので、ファミコンと関わるようになったのは、もう少し後です。

―― 『ナッツ&ミルク』と『ロードランナー』は、任天堂以外のいわゆる“サードパーティー”から発売された初めてのゲームでもありましたよね。

そうなんです。当初は任天堂さんとしてもサードパーティーというのは頭になかったようで、ゲームソフトはすべて任天堂ファーストブランドでした。外部委託で作ったとしても、任天堂が発売するっていう形。じつはファミコン初期の『F1レース』とか『ピンボール』あたりはHAL研究所が作っていたんですよ。

ただ、ハドソンがやりたかったのは、ハドソンの名前で自社開発ゲームを発売したい、というもの。それならロイヤリティとかもなく、自社で利益構造を決められる。ただし、カセットを生産する工場のライン取りだったり、販売網や宣伝だったり、っていう一切をすべて自社で固めないといけなかったから、ハードルはかなり高かったんです。

販路開拓のために問屋さんへ足を運ぶことも我々自身がやるしかなかったですから。任天堂さんからは「こういう流通がある」っていう情報は教えてもらえるんですけど、「話を通しておくから」っていうところまではない(苦笑)。だから自分たちでイチから話をつけに行くしかなかった。あの頃は営業の専務と私の二人だけで、それこそ全国で売り込みにまわりました。

―― 結果的に『ロードランナー』は100万本以上が売れる大ヒットになりました。

ただね、もう生産が追い付かなくてね……品切れになったら次を出荷するまで、「なんで作るのに3ヵ月もかかるんだ!」って感じの苦情の電話が毎日くるわけです。とにかく出せば売れるけど、売れるのは嬉しいけど、「もっと早く作ってくれ!」ってこっちももどかしくって。最初の出荷から3日で品切れでしたからね、たしか。

ただ、『ロードランナー』の大成功で、社内の雰囲気はとてもよかった。当時はバブル絶頂期でしたし、まあとにかくイケイケでしたよ。とにかく売れるものは売って、盛り上げるものは盛り上げて、失敗することは考えず、前に突き進むだけ!と。

仕事で大切なのは「小さな失敗」をたくさん経験すること

―― そんな社内の上昇気流のなか、名人ブームがやってきます。

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100万本以上売れるファミコンカセットが次々に出てきた1984年から、「スーパーマリオ」が発売された1985年にかけて、TVや雑誌等のマスコミでもファミコンの話題が登場するようになってきて、CMも打つようになりました。しかし、それまで世間はファミコンというのをよくわかっていなくて、単なるオモチャのひとつくらいの認識でしかなかったんです。「じゃあ、誰がファミコンについて語れるんだ?」ってなった時に、たまたま私が「名人」として活動し始めていたので……一極集中ですよね。

―― 一躍ファミコン界のアイコンになったわけですね。当時はかなりのハードワーキングだったとか。

そうですね。でもイケイケな雰囲気のなかの忙しさだったし、若かったのでなんとかこなせていましたね。「ファミコン名人」の第一人者としての自負もありましたし、何をやれば失敗なのかもわかってなかったです。怖いもの知らずの状態でしたね。

当時のゲームイベントで一番大事にしていたのは、じつは「成功させること」ではなくて、「事故を起こさないこと」でした。そのためには「小さい失敗」っていうのを数多くして、改善していくってことが大事なんです。イベントだけではなくてどんな仕事でもそうですよね。

例えば、何かマニュアルを作る場合にしても、文字校正で「ここは直していたはずなのに直ってない!」とか、印刷後だとアウトじゃないですか。でも印刷前だったら、間違いの一つや二つだったらちょっと怒られて終わり。そのちっちゃい「怒られ」があるから、次はこうしてみよう、二回読み直してみようとか、ミスをしないように工夫していきますよね。

最初から大きい仕事を失敗しないでできる方が珍しいんですよ。だから20代や30代前半くらいまでのビジネスパーソンは、数多くの失敗を経験させてもらう、そのチャンスっていうのは若い時にしかないわけですから。50歳にもなってまだ小さい失敗してんのかってなると、バカにされちゃいますからね。新しい仕事だったら別ですけど。

失敗イコール自分の経験値ですよ。それは人に教えられても、自分でやるにしても、失敗というのは必ずついてくるものなので、それを糧にして、次に変な失敗はしないようにするっていうのを経験するだけで、すごい成長になると思いますね。

ファミコンに燃えたあの感覚は、仕事でも活かせる

――今の若い世代について、名人はどのように見ていますか?

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今どきの子たちは、「失敗するのが恥ずかしいと思っている」ところがありますよね。最初からミスしないことがわかっている仕事しかしなかったら、上司には褒められるでしょうけど、社会人としての成長は小さいと思うんです。

一方で、無茶なオーダーというか、自分で抱えきれないと思った仕事はちゃんと断りましょう、ということも大事です。基本的に若い頃は、できそうだったらなんでも受けていいんですよ。ただ、受け入れ過ぎてしまった時に、自分だけでなく周りにも迷惑かけたり、会社にも迷惑が出たりする。それをオーバーして、「全部やります!やります!」だと、きっとどっかで破綻しちゃうので、自分のキャパシティを超えちゃったなと思ったら、そこははっきり「できません」と言うべきですね。

―― 少年時代をファミコンで遊んでた世代は、名人が名人だったときの年齢を超えて、すでに社会でも中堅どころになっています。彼らに向けてメッセージをいただけますか?

子どもの時にファミコンに熱狂していた時間、その瞬間に燃えていた心っていうのはおそらく絶対に忘れないと思うんです。仕事を楽しくするには、そういう心を自分の中にもう一回見出す…というより、どうしたら周りの人がそういう状態になるのかを考えると良いと思いますね。

とくに30代40代は、役職名はそれぞれだと思いますが、社内でもディレクターとかプロデューサーの立場になっているわけで、あんまり変な仕事でなければ、社内でも新しいことを通しやすいと思うんです。こんなことをやったら、「あの時の俺みたいにみんなが熱狂してくれるんじゃないか」っていうのを目標にしてみると良いと思います。

自分が体験した心が燃え上がる感覚は、ぜったい他の人にも与えられるはずなんですよね。もちろん誰でもできるわけではないけど、与えられる可能性はみんなにある、ということは忘れないでほしいです。

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取材・文:深田洋介

1975年生まれ、編集者。2003年に開設した投稿型サイト『思い出のファミコン』は、1600本を超える思い出コラムが寄せられる。2012年には同サイトを元にした書籍『ファミコンの思い出』(ナナロク社)を刊行。

http://famicom.memorial/

撮影・編集:鈴木健介

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