残念な人は「本当のところ」を“問う”ことすらしない――マンガ『インベスターZ』に学ぶビジネス

残念な人は「本当のところ」を“問う”ことすらしない――マンガ『インベスターZ』に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『インベスターZ』の第7回目です。

『インベスターZ』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

名作マンガは、読むリラックスタイムですら学びの時間に変えることができます。私が強くお勧めする選りすぐりのマンガの名シーンの1コマを解説することで、より多くの方に名作の良さを知っていただけたら幸いです。

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©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「このメーカーは消費量を増やすために容器の形状を変えていた!」

(『インベスターZ』第2巻credit.13より)

大人気マンガの『インベスターZ』より。創立130年の超進学校・道塾学園にトップで入学した主人公・財前孝史は、各学年の成績トップで構成される秘密の部活「投資部」に入部します。そこでは学校の資産3000億円を6名で運用し、年8%以上の利回りを上げることによって学費を無料にする、という極秘の任務が課されているのでした。

過去の事例だけを見ていては「未来を予測できない」

先輩から「幸運は1度しかこない。以後は投資についてイチから謙虚に学べ」と言われた財前。その言葉を受けて、徹夜で過去の株について調べます。ところがキャプテンの神代(かみしろ)は、一目見るなり財前のレポートをゴミ箱の中に放り込んでしまいます。

努力を認めてもらえず、意気消沈する財前。神代の行動の真意もつかめず、モヤモヤとした気持ちのまま家に帰ります。食事時になって、財前はあることに気づきます。それはいつも使っているマヨネーズでした。なぜかマヨネーズが、いつもより出がよくなっていたのです。

財前がよく見ると、メーカーはマヨネーズが出る星型形状の口の部分を、7角形から8角形に変えていました。それに気づかない一般ユーザーは、いつも通りにマヨネーズを使います。同じ力でマヨネーズを押し出せば、口の面積が広くなっている分、マヨネーズの出がよくなり、それだけ消費量が早くなります。

「これはメーカーが売り上げアップのために行なっている」。計算によって、この仮説が正しいことを知った財前。株価をチェックしたところ、すでにこのメーカーの株価は、対前年比で20%アップしていました。

それまで、過去の株価の動きから成功事例を割り出し、投資に活かそうとしていた財前。けれど投資とは「未来を予測し、そこにお金を投じる」もの。よって、見るべきなのは「過去ではなく未来」だということに、財前はようやく気づいたのでした。

「企業努力」にはいろいろな方法がある

マヨネーズの話は、「企業努力」のことを言っています。これを聞いて、あなたは「企業努力って、商品をよくすることでしょ?これって、ユーザーをダマしているだけじゃないの?」と思われるかもしれません。しかしこれも、「いかに売り上げを伸ばすか?」という企業努力の一つに違いありません。

企業努力には、いろいろな方法があります。たとえば「味の改良」「新商品の投入」「広告宣伝」「パッケージデザインの改良」等々。マヨネーズの例で言うなら、最近はフタが二重になっていて、好みで大きな口を使ったり、小さな口で節約できるように切り替えられるものも出ています。これなどは「ユーザーの利便性を考えたサービス」を打ち出している例だと言えるでしょう。

たとえメーカーがユーザーに気づかれないように、こっそりマヨネーズの口を大きくしたからといって、それで「ユーザーをダマしている」とは言えません。ユーザーは自分の好みで力を加減できますし、嫌なら他のメーカーの商品を買うこともできます。

ユーザーは、常に潜在意識に商品を刷り込まれている

「企業努力」について、他の事例を挙げてみましょう。こちらをご覧ください。

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歯科医に直接聞いた話なのですが、本来、「歯磨き粉は付ける必要はない」のだそうです。実際、歯磨き粉は主に爽快感を出すために使っているのであって、機能的には「使っても使わなくてもあまり効果は変わらない」というのです。

だったら、この歯ブラシにたっぷりと乗せた歯磨き粉の写真は何かと言うと、メーカーからのメッセージです。ユーザーはテレビCMや雑誌の広告などを通して「歯磨き粉とはこれくらいつけて使うものだ」ということを、潜在意識に刷り込まれています。つまりこれは、メーカーがユーザーを“教育”することによって消費量を上げる企業努力をしていることに他なりません。

「本当のところはどうなのか?」という疑問を持つ

歯磨き粉もマヨネーズと同じく、使う量はユーザーが自由に決められ、種類も豊富にありますから、「歯磨き粉メーカーの手段は姑息だ」と言うことはできません。それよりも、むしろここは「こうしたことも含めて企業努力なのだ」ということを知り、自分でも「他に方法はないか?」と考えてみることではないでしょうか。

知っていただきたいのは、普段の私たちがいかに「先入観に捉われているか?」ということです。先入観は、多くのものを私たちの目から隠してしまいます。人はたいてい、“自分というフィルター”を通してものごとを見ています。それは自分の固定概念であったり、過去の成功体験や思い込みなどによって形成されたものです。

「本当のところはどうなのだろう?」という疑問を持つこと。それこそが変化の始まりなのです。

俣野成敏(またの・なるとし)

大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』が11刷となっている。著作累計は34万部超。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。

俣野成敏 公式サイト

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