【日曜版】魚が空から降る現象に『1Q84』も影響してる?
5月末の発売から1ヶ月足らずでミリオンセラーになっている、村上春樹さんの最新長編小説『1Q84』の余波がこんなところにも? 6月4日から9日にかけて、石川県の各所で空からオタマジャクシや小魚が降ってくる現象が相次いでいるというのだ。このニュースに対して、村上さんのファンを中心に「まるで『海辺のカフカ』みたいだ」とブログなどで新たな話題を呼んでいる。
『海辺のカフカ』は2002年9月に発売された全2巻の長編小説。15歳の誕生日を迎えると同時に家を出て、遠い知らない街のひっそりとした小さな図書館に暮らすようになる少年と、猫と話すことができ、謎めいた過去を持つ老人ナカタさんのストーリーが交互に語られ、ゆるやかに交錯しながら絡み合って展開する。魚が空から降ってくるシーンが描かれるのは上巻の後半、ナカタさんが住みなれた街を出て行くときだ。
「翌日実際に中野区のその一角にイワシとアジが空から降り注いだとき、その若い警官は真っ青になった。何の前触れもなく、おおよそ2000匹に及ぶ数の魚が、雲のあいだからどっと落ちてきたのだ。多くの魚は地面にぶつかるときに潰れてしまったが、中にはまだ生きているものもいて、商店街の路面をぴちぴちとはねまわっていた。」(村上春樹『海辺のカフカ(上)』新潮社, 2002(P291,L8-11より引用)
ナカタさんは、日本が第二次世界大戦中だった少年時代に「何かの拍子に蓋が開いてこの世界から出て行き、また何かの拍子に戻ってきた」せいで、猫と話をしたり空からモノを降らせたりすることができるようになったとされている。今回、村上さんの『1Q84』が大ベストセラーになったことがきっかけで、その“こちらの世界”と“あちらの世界”の間にある“蓋”が開いたのではないか、というわけだ。
しかし、このような想像はあながち笑い飛ばせるものでもないようだ。空から魚やカエルが降ってくるという現象は“ファフロッキーズ(Fafrotskies)と呼ばれ、過去に世界各地で起きているものだという。ファフロッキーズは「FAlls FROm The SKIES」を略したもので、アメリカの作家で超常現象研究でも知られたチャールズ・フォート(Charles Hoy Fort)が多くの事例を集めている。
その事例によると、1804年にはフランスのトゥールーズ近郊で「雲ひとつなかった空が突然黒雲に覆われ、おびただしい数の小さなヒキガエルが降ってきた」、1859年にはイギリスのグラモーガンシャーで「小魚が生きたまま降ってきた」などのほか、小さなトカゲや石、植物の種などが降ってきたという記録が残っているという。
現象が起きたとされる場所も、ヨーロッパやアメリカだけでなく、シンガポールやインド、グアム島やオーストラリアなど広範囲にわたっている。いずれの現象も、今回の石川県の事件と同様に「竜巻でさらわれた魚が落ちてきた」説や「鳥がえさを運ぶ途中に落とした」説などによる説明が試みられたが、充分には解明されていないことが多いようだ。
この現象を取り上げた作品は『海辺のカフカ』だけではなく、山白朝子さんの『死者のための音楽』に収められている短編作品や、映画『マグノリア(1999年、米)』などがある。ファフロッキーズ現象のような不思議でちょっとしたユーモアさえ感じられることについては、科学のメスで切り刻んで味気なく新聞記事で報じるよりも、映画や小説などで作家(&読者)たちの想像力に扱われるほうがずっと面白い。さて、“現実世界”のほうでは、石川県の事件はどう解明されていくのだろうか?
参考URL
The Charles Fort Files
空から降る降る…オタマや小魚、石川で相次ぐ謎の珍現象
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京都在住の編集・ライター。ガジェット通信では、GoogleとSNS、新製品などを担当していましたが、今は「書店・ブックカフェが選ぶ一冊」京都編を取材執筆中。
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