余命10年 死期を悟った女性が恋人にとった行動とは

余命10年 死期を悟った女性が恋人にとった行動とは

「病気で余命10年のヒロイン」「その事実を隠して交際している恋人」

想像力豊かな人であれば、この二つの要素だけで頭にストーリーが浮かぶはずだ。そして、それぞれのストーリーを比べたら、きっと大まかな展開は似通っているのではないか。

その意味で、小坂流加さんの小説『余命10年』(文芸社刊)に意外性はないかもしれない。しかし、読み終えた後まちがいなく、はじめに想像していたストーリーは、強烈な読後感の前に霞んでしまうか、すっかり忘れてしまっているはずだ。

主人公の茉莉(まつり)は20歳のとき、遺伝性の難病を発症し、医師から余命10年だと宣告される。10年とは、残された人生に何かを期待するには短すぎ、しかしすべてに絶望するには長すぎた。

楽しむことはできるが、しかし未来を夢見ることはできない。そんな10年を運命として課された茉莉は、得意だった画の才能を同人活動に注ぐが、友人の結婚や妊娠といった「未来」を意識させる出来事は、容赦なく彼女を傷つけた。彼女はそう遠くない自分の死を受容れていたが、「タイムリミット」のない友人たちの近況は、その諦念に似た思いをかき乱すものばかりだった。

命に執着を持っちゃダメよ。

死ぬのが怖くなったら、わたしはもう笑えなくなるんだから。(P173より引用)

だからこそ、恋は茉莉がもっとも避けていたことだったが、同窓会で再会した茉莉と

真部和人は互いに惹かれあっていく。そして、茉莉は自分の病気を打ち明けることも、

「もう会わない」という決心を貫くこともできなかった。

死ぬことだけが安息だったわたしをあなたが生きさせてくれた。

だから私は死ぬことが怖くなったの。(P302より引用)

ページの端々から語りかけてくる茉莉の心情吐露は切実で、単なる恋愛小説という以上の迫力がある。圧し殺した生への渇望、確実に迫ってくる死の瞬間への、決してなかったことにはできない恐れ、人生を謳歌できる友人たちへの嫉妬、そして、もう手に入らないと思っていた愛への未練。

これらは、ことによると作者の小坂さん自身が感じていたことでもあったかもしれない。難病「原発性肺高血圧症」を患っていた小坂さんは、この本の文庫化編集を終えた直後に他界した。

読み進めるうちに、そして読み終えた後、人間の死生観に付着するありとあらゆる感情が押し寄せて、胸が詰まる感覚を味わった。人によってはそれを「感動」と呼ぶのだろうし、別の人は「切ない」と感じるのだろう。しかし、どの人であっても、心の奥深くを揺さぶられる感覚だけは共通するのではないか。

何年後か、何十年後かに必ず訪れる自分の死に際して、家族や友人にどんな思いを抱くのか。そして、死が間近に迫った家族や友人、そして愛する人にどんな言葉をかけられるのか。あまりにありふれた問いだが、考えずにはいられなかった。

(新刊JP編集部・山本はじめ)

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