中古の悪印象を払拭する「安心R住宅」。家の買い方を変える起爆剤に?
中古住宅のマイナスイメージを払しょくする「安心R住宅」
中古住宅(既存住宅)と聞くと、多くの方が「品質が不安」「汚そう」「どのように家が使われてきたかわかりにくい」といったネガティブなイメージを連想するのではないでしょうか。
確かにこのようなイメージ通りの中古住宅は存在します。
しかし、適切にメンテナンスされた優良な住宅も数多くあるのです。
そして中古には「安い」「リフォームで自分好みの間取りにできる」「実際に建物や周辺環境を調べられる」などのメリットもあります。
問題は、価値ある中古住宅であっても、品質の悪い中古と同じようにみられてしまい、取引が敬遠されてしまうことです。これは、売主にとっても買主にとっても、もったいない状況です。
そこで国交省は、これらマイナスイメージを払拭すべく、一定の基準を満たす中古住宅を「安心R住宅」と定め、安心して取引できる環境を整えようとしています。
この新たな制度は、国交省において昨年12月から検討を重ねてきたもので、3~4月にはパブリックコメントの募集も実施しました。
今後、夏ごろに詳細な制度内容が告示され、準備が整い次第、運用が開始される見通しです。
耐震性やインスペクションが必須。履歴情報などの有無も事前調査して開示
安心R住宅は、「不安」「汚いイメージ」「わからないイメージ」の3つを払拭し、住みたい・買いたいと思えるような中古住宅を指します。
具体的には、「不安」を払拭するために、①耐震性(新耐震基準)を有すること、②インスペクション(建物状況調査)を実施し、構造上の不具合および雨漏りが認められないこと、③購入予定者の求めに応じて「既存住宅売買瑕疵保険」を付保できる用意がなされていることを求めます。
また、「汚いイメージ」を払拭するため、④一定基準に合致したリフォームを実施していること(実施していない場合は、参考価格を含むリフォームプランを示すこと)、⑤外装・内装、水廻りの写真等を情報提供することも求めます。
さらに、「わからないイメージ」を払拭するため、⑥各種情報を事前に調べ、広告時点においてそれら情報が「有る」「無い」「不明」の3段階で開示することを求めます。購入検討者が求めれば、詳細な情報も開示しなければなりません。
尚、各種情報とは、(1)住宅性能や設計図書など新築時の情報、(2)維持管理の履歴、(3)保険・保証に関する情報、(4)省エネに関する情報、(5)共用部分の管理に関する情報です。
以上のような項目をすべて調査・確認し、情報提供している住宅を「安心R住宅」と定めます。
これによって、適正な中古住宅を消費者(買主)が選びやすくなることが期待されます。
今後、物件情報ポータルサイトでも、掲載されている中古物件が「安心R住宅」かどうかが一目でわかるようになる見通しです。
「消費者の声」を制度に反映し続けることを前提としてスタート
このように、安心R住宅は一定の品質をクリアした中古住宅をわかりやすく周知する利点があるものの、複数の課題も指摘されています。
例えば、中古物件を「安心R住宅」という商標をつけて売り出すには、あらかじめインスペクションを実施する必要があり、そのコストを売主または仲介業者が負担することになります。
また、その他にも各種情報を調査する手間暇が急増します。
安心R住宅が求める調査を抜け漏れなく完璧に行うことと引き換えに、これら追加コストが中古住宅の価格に転嫁されてしまえば、中古本来の魅力である安さが薄れてしまうというという指摘があります。
その他にも、「⑥各種情報の開示」において、すべての項目を「無し」「不明」としてもそれで基準を満たすことや、インスペクションは違法住宅かどうか見抜くことを目的としていないため、購入後に増改築を行った住宅が容積率をオーバーしていてもその事実を見落とす可能性も懸念されています。
これらに対して国交省は、制度を運用して実際の消費者の反応をみながら継続的に改善していく姿勢を打ち出しています。
例えば、情報開示において実際に「無」「不明」ばかりがついた安心R住宅が何戸くらい発生するのか、消費者にどう映るのか、それらは売買が成立したのかなど、実際の状況をフィードバックして改善させるのです。
こういう情報が足りない・これはいらない、などといった現場の声を聴きながら制度をブラッシュアップしていくことで、必然的に最適な制度になっていくでしょう。
実際に新たな制度を運用する前から細かな要件をガチガチに決めすぎても、制度が広まらずに終わってしまいます。
一度決めたら終わりではなく、ここをスタートとして最適な制度へと育てていくのです。
マイホームの買い方そのものを変えていく起爆剤になる?
これらの課題はあるものの、安心R住宅の制度が周知・普及されること自体に意義があるともいえます。
国が中古住宅の調査ポイントやその方法を明確に示すことで、買主が視野を広げて「見えない部分」を積極的に確認する買い方が当たり前になっていくことが期待されるためです。
例えば、外観や内装の写真など表面的な物件情報だけでなんとなく購入判断していた買主が、この制度を通じて「躯体に不具合がないか確認できるんだ」と知ることで、検討物件すべてにインスペクションを行うよう求めるなど、購入プロセスを自ら変化させるでしょう。
このように物件情報ではなく買い方そのものを見直す動きが強まれば、その先には「物件選びの前に不動産会社選び」という意識変化が生まれるかもしれません。
「物件紹介屋」や「契約代行業者」としての仲介会社は意味をなさず、物件のリスク洗い出しや将来にわたる資産価値の検証などを行える「不動産のプロ」を介して取引を行う重要性が認識されるためです。
そうなれば、国が定める「安心R住宅」かどうかということはもはや大きな問題ではなく、どの物件であれ、しっかり調査しプロとしての目利き力を生かす不動産会社を通じた取引で、住宅の安全性を担保するようになるでしょう。
不動産業者の手間やコストがかかるという指摘も、むしろそれを行わない買い方(業者)こそ問題ではないのか、という前向きな批判に様変わりするかもしれません。
2018年から始まるインスペクションを促す改正宅建業法とも相まって、中古住宅の買い方そのものを変えていく起爆剤となり得る「安心R住宅」。不動産業界に新たなうねりが起き始めています。
(加藤 豊/不動産コンサルタント)
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