【ここは法廷だゼ!】裁判官に学ぶ、話の長い相手の対処法
老人世代の被告人Aは、住んでいたレンタルオフィスの隣室に寝泊まりする男性に対し、早朝、殴る蹴るの暴力を振るった傷害罪と、カラオケ店の看板に石を投げて壊したという器物損壊罪で起訴されていた。
前科10犯。日雇いの仕事を転々としてきたが、犯行時は無職で現場のレンタルオフィスに住んでいた。なぜ、隣人を殴ったのか? Aの言い分はこうだ。
「私、21時くらいに床につくんですが、隣の人は22時から2時くらいまで、ドアをバーンとやって、壁をトコトコと(叩く)……。しばらくして、またやるんだね。そんなもん続いて。(睡眠不足で)クリニック行って50錠ほど睡眠薬を処方してもらって、新年終わると、静かにしてくれると思ってたら4日目くらいから……」
レンタルオフィスのエントランスで犯行に及んだというが、このとき被害者によれば現場にはゴミの仕分けをするおじいさんがいたという。「なんとかしてくれ」と助けを求めたが「オレには関係ねぇ」と知らんぷりされ、15分くらい殴られ続けたそうだ……。
「殴った相手に訴えられ、イライラして繁華街にたどり着いた。カラオケ店が見えて、看板がキラキラしているのを見て、口座のカネもなくなったことを思い出し、よけいイライラしてきた。看板を壊せばイライラが収まると思っていた」
こうして看板を破壊した。
しかしAは話が長かった。刑務所で服役していたときのことを弁護人に尋ねられても、
「故郷が焼けだされて、まぁ、あの~、親が養子に出したんです。全く、あの~、乳離れしてないくらい! 仙台の方に両親が行って、そこで、あのー、家建てて住んでたんですが2年くらいで亡くなりまして……(エンドレスに続く)」
と、分かりづらいマイヒストリーを語り始め、止まらない。話を割愛すると、被告人は前刑での服役中、超ラッキーなことに親戚の遺産を受け取れることとなった。その額1250万円。出所後はそれで山登りをしたり、ホテルを泊まり歩いたり、ギャンブルに明け暮れたりして、あっという間に3分の1に減ってしまったという。
「月10万のとこに住んでギャンブルやって……」「あ~今まではね~、どうしようもない!せっぱつまったときにねぇ~つい泥棒しちゃうんですよね~」などなど、Aは弁護人からの質問にも、検察官からの質問にも脱線して長々と答え、そのたびに「いいですよ!」と注意される場面が目についた。そして裁判官からの質問。
裁判官「あなた、いやがらせの気持ちで被害者が騒音出したと思ってます?」←普段よりも、けっこう声が大きい
A「あ~前と変わりなく、そう思ってます。あの……(何か言いかけようとするところを)」
裁判官「(すかさず割って入り)それ、違うんじゃないですかね! ただ乱暴な人で、あなたに嫌がらせしようとするほど気にしてない可能性あるんですよ!」←やっぱり声が大きい
A「あの……(また何か言いかけるが)」
裁判官「(遮って)何でもね! 嫌がらせとか思うと、思い始めるんですよ! その考え方を変えれば人生変わってくると思うんですけど!」
A「私もね……(また何か言おうとするが)」
裁判官「(また遮って)もういいですよ!」←一段と声が大きい
この問答は非常に参考になった。とにかく声を大きくして、発言をかぶせる。日常生活においても、話の長い相手との会話では、長々と脱線した話を聞かされるハメになり、だんだんと魂が抜けていく……そんな地獄に陥った事はないだろうか? 筆者は数えきれないほどある。そんな困った状況には、この方法を試してみたい。
画像引用元:flickr from YAHOO
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傍聴人。近著『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)ほか古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)『あなたが猟奇殺人犯を裁く日』(扶桑社)など。好きな食べ物は氷。
ウェブサイト: http://tk84.cocolog-nifty.com/
TwitterID: tk84yuki
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