【ここは法廷だゼ!】「死刑になりたい」は強がりか?渋谷ライブハウス放火未遂事件【後編】被告人質問

渋谷の街

渋谷ライブハウス放火未遂事件【前編】はこちら

昨年8月に東京・渋谷のライブハウスにガソリンを撒いたとして、殺人予備、現住建造物等放火予備などの罪に問われたS(24)の第2回公判。Sは初公判と同じくグレーのスエット上下、初公判と同じくムスッと膨れっ面で登場した。

この日は被告人質問。Sは事件直前、上司の叱責を受けて会社を無断欠勤し、上京したが、これについて「日頃の虚無感、厭世観、孤立感……自殺願望を我慢して生きるのはつまらなくて、しんどい。だったらいっその事、破滅してやろうと。社会で生きていく事に意義を見いだせなかった」と、早口で語る。あくまでも上司の叱責は単なるキッカケだったようである。

また上京の際は夜行バスの中で、どんな犯罪を犯すかあれこれ想像を巡らせていたようだ。

「現職の法務大臣を殺す事、考えました。テロとして大きく報道されるんじゃないかと。あと、死刑囚にあこがれる気持ちもありました。でも法務大臣を殺す事は空想じみてるから、ランクを落として、同じ生年月日の人を殺そうかと考えました。あとはバスの中で、恨みに思っている人がいないか考えたが、いなかった」

どうやら“死刑になること”前提の犯行であり、特にこれといった強いポリシーを持って犯罪に走ったわけではないようだ。さらに上京後は包丁も購入し、道行く人を刺そうと考えた事もあるらしいが、できなかったという。これについては

「ボクが臆病者だったからです!」

と、ただでさえ早口なのに、さらに早口で、しかも声も荒げてこう述べた。ほかにも「(放火殺人は)インパクトがあっていい」「未遂が一番イヤだったが、未遂に終わった」「本当は2時間強の大作映画にしたかったが、実際は(今回起こした事件は)10分弱のコメディだったと思う」などなど、刺激的な発言のオンパレード。「更生して何のメリットがあるんだ、真面目に生きて何のメリットがあるんだ」「社会で生きる値打ちのないクズだ」とも言ってはみているものの、

弁護人「大量殺人という事件を起こして死刑になるのがベストなんですか?それとも、うまくやっていけるなら、やっていきたい。どちら?」
S「……後者のほうです。被害者のことを考えたら前者はベストではない」

大量殺人によって他人の人生を奪う事の重大さは十分認識しているようなのだ。“コメディだった”とか“ボクが臆病者だったから”などの、いかにも『ちょっと拘置所で考えてきました』感のある台詞の数々は、多分に強がりやカッコつけが入っている気がしないでもない。家族についても「家族ごっこを演じていた。もともと家族なんか愛してなかった。ありのままの自分を出せない」などと言っていたが、母親が法廷にいるのが分かっていて敢えてこう述べることに、家族への甘えも感じさせる。

未成年時、少年院に入っていたSはこの時期のことを「教官が親身になってくれたし、楽しかった」と語っており、実際、出所直後は気持ちも前向きだったようだ。Sが次に犯罪を犯すかどうかは、今後、身を置く環境が大きく影響しそうである。

求刑は懲役5年。判決はまもなく言い渡される。

画像引用元:flickr from YAHOO
http://www.flickr.com/photos/15848030@N07/1798767648/

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高橋 ユキ

傍聴人。近著『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)ほか古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)『あなたが猟奇殺人犯を裁く日』(扶桑社)など。好きな食べ物は氷。

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TwitterID: tk84yuki

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