離婚によりわが子と引き離された父親たちの叫び

離婚によりわが子と引き離された父親たちの叫び

 ノンフィクション作家・西牟田靖(にしむた・やすし)さんの最新刊『わが子に会えない 離婚後に漂流する父親たち』は、離婚により、愛するわが子と引き離された父親たち18人へのインタビュー集です。

 「子どもに会えなくなった男たちとはいったいどのような人なのか。別れに至るまでにどのように出会い、子どもをつくり、そして別れたのか。そして別れた後、どんなことを思い、どのような人生を歩んでいるのか」(本書より)

 執筆の契機は、西牟田さん自身の離婚でした。当時3歳の娘と会えなくなった西牟田さんは、2013年に都内の小学校で起きた事件――離婚協議中で子どもに会うことを制限されていた夫が、9歳の息子に灯油をかけて無理心中を図って2人とも焼死した事件――を他人事とは思えない思いだったと明かしています。

 近年、こうした父親たちの声や、子どもの精神的安定のためにも、夫婦関係終了後も親子関係は継続すべきであるとの声を受け、離婚後も親子が定期的に会えるようにする取り組みが推進されています。たとえば、離婚後も親子が交流できるようにする「面会交流」の実施を促進することや、養育費を分担することを目的に、今国会で成立を目指している「親子断絶防止法」。

 とはいえ、この面会交流をすることで、元配偶者からストーカー行為やDV被害を受けてしまう事例も存在するため、法制化に対する懸念の声も存在します。

 実際に今年1月には長崎県で、面会交流で2歳の息子を元夫に会わせるために送って行った元妻が、元夫に刺殺される事件も発生。本書でも、かつて妻子を暴力で支配し、現在は被害者支援団体「ステップ」によるDV加害者更生プログラムを受けているという男性から、以下のような言葉を引き出しています。

 「裁判所から出廷命令があったとき、妻に対して殺意を抱きました。どこに行っても犯罪者扱いですからね。そんなんだったら妻を殺して自分も死んじゃえと思ったんです」(本書より)

 「ステップに行ってなかったら、実際に妻と子を殺しに行っていたかもしれません。探偵やヤクザに頼んだり、義母の車にGPSの発信機をこっそり取りつけたりして居場所を特定した上で、実行しようって本気で考えてましたから。自分の考えがいかにゆがんでいるのか、連れ去られた直後はまったく気がつかなかったんです」(本書より)

 自身も当事者の1人である西牟田さんが取材を重ね、父親たちのリアルな声を丁寧に掬い取った本書は、親子断絶防止法への議論が巻き起こっている今、最愛の「わが子」の利益のためにはどのような制度が必要なのか、現状に一石を投じるルポルタージュと言えるでしょう。

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