Parcels『Hide Out』Interview
〈Kitsuné〉が送り出すブライテスト・ホープ。それがこのオーストラリアはバイロンベイ出身の5人組、パーセルズだ。シックやビージーズ直系のディスコ/ファンク、さらにはAORやソフト・ロックの要素……スティーリー・ダンやフリートウッド・マックの面影も覗かせるダンサブルでソングオリエンテッドなサウンド。〈Kitsuné〉が見初めたのも頷ける洗練されたポップ・センスに加えて、音の端々に漂うサイケデリックなテイストは、地元オーストラリアのインディ・アクトともシェアするかれらのチャーミング・ポイントかもしれない。現在はベルリンを拠点に活動するかれらは先頃、最新作のEP『Hideout』をリリース。前後して〈Kitsuné〉の音楽イベント「Kitsuné Afterwork」に出演のため来日したバンドを代表して、ルイ(キーボード)とアナトール(ドラム)に話を訊いた。
―パーセルズを始めたのはいつですか。
ルイ「13歳くらいのときから一緒にバンドをやってたんだけど、パーセルズ自体は3年くらい前から。ちょうど高校卒業と同時にね」
―パーセルズを結成する前は、メタルやフォーク系のバンドを組んでいたそうですね。
ルイ「そうそう、内輪であれこれ色んなプロジェクトをやっていて。よそからメンバーが入ったり、5人のうち何人かが参加するとか、そういう緩い感じでやってたんだ。フォークをやったり、サイケデリック・ロックをやったり」
アナトール「とりあえず興味のあることには片っ端から手をつけて、しかも、日々興味の対象が移り変わっていくって感じだったからね」
―そこから今のパーセルズを始めるにあたって、どんなふうに音楽性は変わっていったんですか。
ルイ「今まで自分達がやってきた色んな音楽の要素を受け継ぎつつ……ただまあ、それも自然に今のプロジェクトに繋がっている感じだよね。パーセルズ自体は、もともとエレクトロニック・ミュージックがやりたくて始めたプロジェクトで、そのうちダンスっぽいノリをライヴでも表現したいってことになり、それで80年代のディスコとかを取り入れるようになったんだ」
―その上で参考にしたアーティストとなると、どのあたりが挙げられますか?
ルイ「80年代、90年代のディスコ全般と……あとはダフト・パンクみたいな、もっとエレクトロニック寄りなものも聴いていたね」
アナトール「初期の頃のプロダクションに関して言えば、最近のヒップホップ系のプロデューサーにも影響を受けてたよ。それと同時に、ナイル・ロジャースとか、シックやビージーズなんかの一昔前のものも聴いてたし。あとはジャングルなんかからも影響を受けてるしね」
―〈Kitsuné〉と出会うことになったのは、どんなきっかけだったんですか。
ルイ「ベルリンに引っ越してからの縁だよね。〈Kitsuné〉のコンピレーションに参加しないかっていうオファーがあって」
アナトール「ネットか何かで音源を聴いてくれて、連絡をくれたんじゃなかったかな。そこからやりとりをするようになって、シングル(『Herefore』、2016年)を1枚出すことになり、今みたいな密な関係性が始まったっていう感じだね」
―それ以前から〈Kitsuné〉のことはチェックしていたんですか。
アナトール「実は、声をかけられるまで〈Kitsuné〉の存在について知らなかったんだ(笑)。そこから、ファッションなんかとも繋がりがあることを知り、そっち方面にも色々と目を向けるようになって」
ルイ「〈Kitsuné〉はスタッフのチームワークが最高だよね。こうして東京まで呼んでもらって、しかも着いたらスタッフ全員で歓迎してくれて、ものすごい感激したしさ。本当に家族みたいな雰囲気で、1つのチームみたいなこじんまりとしたところが気に入ってるよ」
―ただ、オーストラリア出身で、しかも今のパーセルズの音楽性からすると、普通に行けば地元の〈Modular〉からデビューしそうなものですよね。それが〈Kitsuné〉から、っていうのが面白いなって。
アナトール「そう、最高でしょ(笑)。ベルリンを拠点にしたオーストラリア出身のバンドがフランスのレーベルからデビューするという、世界がマッシュアップされたようなことになってる(笑)」
―そもそもベルリンに移ったのは、どういうきっかけだったんですか。
ルイ「天からの導きでヨーロッパに呼ばれたんだよ(笑)。ベルリンを選んだ理由は、アート・シーンが盛り上がってるって聞いていたからで。しかも物価が安くて暮らしやすいという経済的な理由もあり、両方の意味で完璧だと思って。ベルリンってヨーロッパを繋ぐ中継地点みたいな、自分を表現したい人間がヨーロッパ中から集まってくるような場所なんだよね」
―ベルリンと言えばテクノやダンス/エレクトロニック・ミュージックが盛んですが、そうした音楽シーンに引かれたところもあったんじゃないですか。
ルイ「それはあるよね」
アナトール「最初、ベルリンに住んだときにはテクノにまったく興味なかったんだ。だけど、向こうで暮らしていくうちに徐々に生活の中に浸透していくようになって、そこから好きになって聴くようになったって感じかな」
―ただ、例えばミニマル・テクノに代表されるベルリンの音楽シーンのイメージと、パーセルズのグルーヴィーでウォーミーなサウンドの感じって、対照的なところもありますよね。
ルイ「そうだね。たしかにベルリンで音楽を作っているけど、今まで自分達がやってきたことが全部積み重なった上で、今の自分達の音楽に至っているという。だから、その意味で言うと、自分達の音楽にはオーストラリアの空気感も反映されているんだろうしね。ベルリンに住んで、確実にベルリンからも影響を受けているけど、音としてまだはっきり現れてはいないというか」
アナトール「今はベルリンに住んでるから、逆に暖かい音楽にフォーカスがいってるのかもね。自分達のまわりをちょっと暖かくしようみたいな(笑)。でも、ベルリンだって暖かくなることもあるんだよ(笑)」
―今のベルリンで自分達と音楽性をシェアできるバンドはいますか。
ルイ「友達のバンドでハッシュ・モスとか、80年代っぽい感覚があって近いかな。〈Kitsuné〉のコンピレーションにも入ってるよ。あと、プライヴェート・アジェンダっていうバンドにも似たような空気を感じるよね」
―パーセルズは5人全員が楽器を演奏し、またヴォーカルもとりますが、曲作りはどんなふうに進めているんですか。
アナトール「常に流動的ではあるんだけど……たとえば去年やっていたのは、1人がラップトップで作った曲をもとにスタジオで全員で作り上げていく、っていうやり方だったね」
ルイ「自分の場合、最近になってようやくそのやり方に馴れた感じだけどね。他のプロジェクトでは、始めにバンドで普通に曲を書いて、あとからコンピューターで仕上げるって形だったんで。だから、最初はちょっと違和感というか、演奏する前から曲ができているのが拍子抜けな感じでさ。ただ、ラップトップで作った曲を再現するのって、実際にやってみるとものすごく大変なんだけど(笑)」
アナトール「理想と現実のギャップが大きすぎて(笑)。ラップトップで作った音を実際にライヴでどう演奏していくのか。そのプロセスを踏まえることで、曲作りに関してはもっと学習できることがあるような気がするね」
―では、今度出るニューEP『Hideout』について、手ごたえはどんな感じですか。
ルイ「ベルリンのスタジオで作った曲で、バンドの今の最新の状態があのEPの中に集約されている。これで世界に打って出ていくんだって思うと、テンションが上がるね(笑)」
アナトール「プロダクション面で色々学んだし、単純にずっと一緒に演奏してきたことで、ミュージシャンとして成長したってこともある。だから、あらゆる面で成長してるっていう感じかな。以前のEPと比べると実験的な要素も少ないし」
―実験的な要素が少ない?
アナトール「そう、今回のEPには自分達の学びや経験が活かされている。ただ闇雲に色々試してみるんじゃなくて、ちゃんとしたアイディアがあって、それに向かって作品を作ってるからね」
ルイ「それと、エレクトロニックな要素とライヴの要素をうまくミックスできるようになったよね。1年間、ずっとフェスやライヴで演奏してきた経験が活きてるというか。スタジオで作った曲をライヴでやって、そのライヴのノリをまたスタジオの作品に持ち込むっていう新たな要素が加わってるからね。だから、最初のEP(『’Clockscared』、2014年)とはかなり趣向が違う」
―ベルリンのダンス/エレクトロニック・ミュージック・シーンからの影響もあったりしますか。
アナトール「今回、ドラムとベースがかなり効いてるんだけど、それとかもしかしたらテクノからの影響かもしれないよ」
ルイ「まあ、けっしてテクノみたいな音にはなってないけど(笑)。ただ、サウンド面に限らず、曲を作る上で確実にベルリンっていう土地から影響は受けてるよね」
―プロダクションの面で一番こだわったポイントはどこですか。
アナトール「あんまりパソコンで作りすぎた感じの音になるのは避けたかったんで、できるだけ自然でライヴっぽい質感を大切にしたってことかな」
ルイ「前は自分達がポップ・ミュージックをやってるという意識はなかったんだけど、今回はメロディに力を入れてるんだよね。より幅広いオーディエンスに視野を向けてるというか、それは前回までにはなかった意識だよね。最初のEPのときは、メロディもヴォーカルも演奏も全部同時進行で混在してる感じだったけど、今回はもっとこう……」
アナトール「まず、メロディを主役として立てている。あと、ポップ・ミュージックとして聴かせるってことに対して、より意識的になってるよね」
―たしかに、去年の音楽シーンを見ても、音楽的にも今一番面白いのはポップ・ミュージックだと思うんですよね。
2人「うんうん」
―ビヨンセやフランク・オーシャンのアルバムを聴けばわかるように、今一番ポップな音楽が最も実験的で、今一番実験的な音楽が最もポップである、みたいな。
ルイ「アーティストが売れたあとに前とは違う方向性の作品を出したときに、昔だったら『あいつは売れて変わった』みたいな拒絶反応が起きていたのが、今は『今回は新しくていいね』っていう反応に変わっているよね。あと、最近のポップ・ミュージックの傾向として、一昔前のフィーリングを取り上げているんだけど、それを最新のプロダクションと組み合わせて、まったく新しいものとして表現していたり。そういう意味でも、ポップ・ミュージックって今ものすごく面白い時期に来てるんじゃないかな」
―ちなみに、今回のEPもセルフ・プロデュースなんですか。
アナトール「そうなんだよ。最初、プロデューサーを呼んでやってみたんだけど、やっぱりうまくいかなくて。そもそも5人もメンバーがいて、すでに意見が多すぎてまとまらないのに、その上プロデューサーの意見まで追加したらどうにもならないっていう(笑)。それで自分達だけで作ってみた結果、レーベル側も作品を気に入ってくれたんで、最終的にはよかったし、自信にもなったよね」
―今回の制作中によく聴いてたレコードは何かありましたか。
アナトール「えーっと……テーム・インパラの最新作(『カレンツ』)は確実に入るだろうね。プロダクションに影響を受けてるし。あとはベニー・シングスとか」
ルイ「えーっと、あれ、何だったっけ? 思い出せないんだけど……あ、サイキック・ミラーズ!」
アナトール「そうそう、サイキック・ミラーズだよ」
―最近って、いわゆる「バンド」よりも、フットワークが軽くて様々なアーティストともコラボレーションができる「ソロ・アーティスト」の方が、サウンドの面でも音楽シーンを牽引しているところがありますよね。さっき「そもそも5人もメンバーがいて、すでに意見が多すぎてまとまらない」と話していましたけど、これだけ個性のあるメンバーが一緒に活動していくとなると、色々と大変な部分もあったりするのではないですか。
ルイ「ベルリンに来てよかったなと思うのは、5人が一体になってこのプロジェクトに賭けてやるっていう気持ちになれたことだよ。余計な邪魔が入らないというか、わざわざベルリンに来たからにはやることをやろうぜって、バンドに集中することができるしね。だから、5人でやることのデメリットみたいなものはそんなに感じないかな。そりゃまあ、100%自分の好きなようにやるってわけにはいかないけど。ただ、逆にお互いに刺激して高め合えるっていう良い面もあるからね」
アナトール「そうやってお互いに挑戦し合う関係が心地いいんだよ」
ルイ「そうそう、自分1人で全部やるとなると、よっぽど自制心が強くないとさ。自分もたまにサボりたくなるときもあるけど、残りの4人が『お前、サボってんじゃねえよ』ってケツを叩いてくれるから有り難い(笑)」
アナトール「それと、これだけ長いこと一緒にやってるから、馴れてるというのもあるだろうね。お互いの性格も知り尽くしてるし、どうやったら一番うまくいくのかってことがわかってるから」
―今回のリリースはEPでしたが、アルバムの構想もすでにあるのでしょうか。
アナトール「とりあえず、考えてはいるね(笑)」
ルイ「うん、考えてはいる(笑)。ただ、まだ具体的なイメージとかは一切なくて。とりあえず2017年はライヴでスケジュールが一杯なんで。できるだけ早くスタジオに戻って、新曲を作りたいっていう気持ちはあるけどね」
―頭の中にイメージはある?
アナトール「いや、それすらない(笑)。まだ漠然と考えてるだけ(笑)。ただ、中途半端なものは出せないからね。自分達が心から納得いく作品ができるまで、とことんやるつもりだから」
Parcels『Hide Out』
発売中
(Kitsune)
https://parcels.lnk.to/hideout
Parcels
http://www.parcelsmusic.com
http://www.maisonkitsune.fr
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