第53回 『キリング・バード』

 2017年は酉年ということで、まったくおめでたくない『キリング・バード』でスタートだ。20数年前、中古ビデオ店で「イタリア作品ならヒッチコック『鳥』のパチモン?」と勘違いして980円で購入したこの作品は、当初『アクエリアス』(86年)で鮮烈デビューを果たしたミケーレ・ソアヴィが監督に予定されていた。だがソアヴィは、師匠のダリオ・アルジェントがプロデュースしていた『デモンズ3』(89年)の監督に引き抜かれてしまう。そこで、ソアヴィが監督を務めた『鮮血のイリュージョン』(87年)の助監督クラウディオ・ラタンツィ(本作ではクロード・ミリケン名義)が抜擢されたのだ。ということで今年も、誰も観たくならないツマラナイ映画を必死に紹介していくぞ!

 1965年、アーミーブーツを穿いた1人の男が故郷ルイジアナ州に戻る。ベトナム戦争の帰還兵だ。男は懐かしい自宅に帰ると、鳥籠だらけの部屋に入り1羽の猛禽を撫でる。愛鳥家のようだ。だがベッドには妻と見知らぬ男が! 男はアーミーナイフでゲス男の喉をスパッ! ベトナムから生還し愛妻との再会を楽しみにしていた男は、容赦なく不貞妻の喉もスパッ! そこへ運悪く赤ん坊を抱いて訪れた妻の両親もスパッ! 男は「自由になりな」と鳥籠から鳥を逃がし始める。すると馴れているはずの猛禽がいきなり男を襲い鋭いカギ爪で両目玉をえぐり出す! 赤ん坊は施設に預けられ、事件は迷宮入りする。

 それから22年後、シカゴの大学生スティーブ(ティモシー・W・ワッツ)をリーダーとする学生6人のバード・ウォッチング部が、絶滅が危惧されるハシジロキツツキ(ウッドペッカーのモデル)を見つけるため、最後に目撃されたルイジアナ州にやってくる。その目撃者ブラウン(ロバート・ヴォーン)は、ベトナム帰還兵で盲人の野鳥観察家だった。

 ブラウン邸(冒頭の家ではない)を訪問するスティーブと雑誌記者アン(ララ・ウェンデル)。すると背後から「何をしている?」と声を掛けられギクッと驚く2人。見るとブラウンが立っていて「驚かそうと思ってね。うまくいった」とニコリともせず言うが、その顔は左右の義眼の向きがアッチコッチに向いていて、2度驚く2人。オチャメなブラウンは黒グラサンをかけて2人を安心させ、なぜかスティーブの顔を愛でるように触る。ブラウンは2人に野鳥の声を録音したテープを聞かせ「この声は湿度が92.5%以上の時だけに起こる」とオタクぶりを発揮。盲人だけに目撃者というよりは鳴き声で種を同定していたのだ。ブラウンは貴重なハシジロキツツキの資料を、惜しげもなくスティーブに譲渡する。

 森でバード・ウォッチングをする学生達はミイラ化した死体を発見し、鳥籠が放置してある廃屋にたどり着く。あの家だ! ひとりでに閉まるドア、ひとりでに揺れるロッキングチェアとお約束の後、スティーブは「スティーブ、ミルクよ」と話しかける顔も知らない母親(顔はゾンビ)や、両手首を壁に打ち付け磔にされたアンの幻覚を見る。

 日も暮れ、一行は家に泊まることにするが、メガネ女子のジェニファーが鳥籠部屋でゾンビのような怪人に襲われ、顔面を壁に何度も叩き付けられ殺される。数十分後、州の森林警備官は地面を伝って迫る火によって、メンバー達の目前で火ダルマとなる。

 残された5人は庭にある車で逃げようとするがキーがなく、ロブがエンジン直結をトライ。突然リアガラスが割れ、後部座席にいたメアリーがゾンビ怪人に襲われる。メアリーがゾンビ怪人に頭を掴まれ車外へ持っていかれそうになるので、皆はメアリーの足を掴む。やっとエンジンが掛かり車はソロソロと前進するものだから、メアリーの首が抜けそうになる。ピーンと張っていた首の皮膚がパチンと裂け、ゾンビ怪人が「あっ」と思わず手を離してしまい、首は抜けないですむ(なーんだ、抜けないのか)。

 メアリーも死に、残り4人は屋敷に逃げ込む。だが発電機を修理するロブのネックチェーンがモーターに絡んで巻き取られていく。喉に食い込んでいくチェーン。師匠アルジェントの『サスペリア2』のようにロブの首がちぎれ……ちぎれないのかよ!

 部屋ではパソコンのモニターに「おかえり、スティーブ」。そう、ここはスティーブの生家だったのだ。そしてゾンビ怪人の手が、今度は天井を破ってポールの頭を掴む! 学習能力のない2人(笑)がポールの足を押さえると、ビキビキとポールの首が軋んで今度こそ……抜けなかった! ホラーなんだから、首は威勢よくブチッて行かないとダメ!

 夜が明けるとブラウンがやって来て「間に合ってよかった」と、5人も死んでいるのに息子の心配だけをする子煩悩なブラウン。ゾンビ怪人は、かつてブラウンに殺された4人の地縛霊だった。ブラウンは「復讐を受けよう」と息子のスティーブとアンを外へ出す。すると無数の鳥が屋敷内に突入し、やがてブラウンの悲鳴が森に響く。確かにラストはキリング・バードだったが、鳥が直接ブラウンを襲うシーンが省かれガッカリした。

『死霊の盆踊り』や『首狩り農場 地獄の大豊作』(本コラム第26回)など、至高のネーミングセンスでビデオ時代を牽引した映画評論家の江戸木純氏。彼はビデオ会社の邦題決定会議で、この作品に絶対的な自信をもって『地獄のバード・ウォッチング 襲われた野鳥の会』を提案した。だが残念ながらそれは却下され、原題をカタカナにしただけの平凡なタイトルでリリースされた。なんで? 絶対そっちの方がよかったよ!

(文/天野ミチヒロ)

***
『キリング・バード』
原題『KILLING BIRDS』
1987年・イタリア・93分
監督/クロード・ミリケン(クラウディオ・ラタンツィ)
脚本/ダニエル・ロス(ダニエレ・ストッパ)
出演/ララ・ウェンデル、ティモシー・W・ワッツ、ロバート・ヴォーンほか
※ビデオ廃盤

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