豪華作家陣のひとひねりしたクリスマスアンソロジー

豪華作家陣のひとひねりしたクリスマスアンソロジー

 クリスマスの甘い思い出。20年ほど前、バイト先の先輩が「これすっごくよかったから貸してあげる!」と手渡された『クリスマス・ストーリー 四つの愛の物語』(ハーレクイン ハーパーコリンズ)なる本を読んだこと。震えが来るほどの甘さだった。先輩、ロマンチストっすね…(これと、某有名和菓子店の羊羹を食べたら虫歯でもないのに歯がしみるように甘かったことが、私の人生における二大「甘い思い出」と言えよう)。

 そんなわけで、クリスマス本にはかなり抵抗があったのだが、この作家陣を見たら読まないわけにいかないでしょ! アンソロジーは作家のラインナップが最重要といってもいいのではないか。本書に関しては、トランプ氏のクリスマス会だってこんなに豪華な顔ぶれを揃えられないのではないかと思うほどだ。

 そんな作家たちが書くのはやはり、ひとひねりしてある作品ばかりだった。いや、もちろんストレートな変愛小説などでもいいわけだ、クリスマスがテーマなのだから(それこそハーレクインとか。いや、決してディスっているわけではない。前述の『四つの愛の物語』だが、なんと毎年違うバージョンが刊行されているようではないか! 多くの乙女たちに愛されているシリーズなのだ)。しかし、そういう作品が読みたいなら、この本でなくても他にたくさんある。「リア充爆発しろ!」とやさぐれたり、昨今では11月初めにはもう始まっている商戦に疲れたり、キリスト教以外の宗教の敬虔な信者だったりと、クリスマスに辟易している方々にも心静かにお読みいただける内容になっているのが本書だ。

 私がいちばん目当てにしていたのが三浦しをん氏、読んで最も「やられた!」と思ったのが白河三兎氏の作品だった。三浦氏の「荒野の果てに」は時代劇風味…もある。嘉永六年の世からやって来た卯野助と弥五郎がとにかくかわいい。微笑みながら読み進むと、最後には泣かされる。ミニマリズムや草食系といった欲望控えめな層に属する人々も現れはしたが、おおむね現代人の注文には限りがない。もっと便利に、もっといい生活を、もっともっと…。でも昔の人々から見たら、「現代は自分の信じたい者を信じ」ることが叶う世の中なのだ。私たちは何世紀も前の人が夢見た自由を手にしている。彼らの思いに恥じないように生きているだろうか? 白河氏の「子の心、サンタ知らず」は、題名からも想像できるように親子の物語だ。白河氏の作品においては、それまで見えていた世界が一瞬にして姿を変えるさまが見事。なるべくまっさらな状態でお読みいただきたいので、今すぐにでも書店に急がれますよう。

 バレンタインやハロウィンがいくら市民権を得るようになったといっても、やはりクリスマスほどの揺るぎなさを獲得するのは難しいだろう。そう思う最大の理由は、クリスマスソングが人気を博することはあっても、バレンタインソングやハロウィンソングといったものがエバーグリーンになるとは思えないからだ。先日TBS系のTV番組「マツコの知らない世界」のクリスマスソング特集を見ていて思いついた推論だが。あれ以来、ワム!とマライア・キャリーと辛島美登里をついつい口ずさんでしまう(私が最も好きな曲、佐野元春「クリスマス・タイム・イン・ブルー」が、「500人に聞いた好きなクリスマスソングランキング」でかすりもしていなかったのは不満だが)。そんな曲がバレンタインやハロウィン関連で出て来ることがあったら、私も潔くシャッポを脱ごうと思う。メリークリスマス!

(松井ゆかり)

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