’91 ALFA ROMEO S.Z.【EDGE/~名車への道~】
▲1989年にコンセプトカー「ES-30」として発表され、同年にクーペを「Sprint Zagato」の略であるS.Z.、オープンモデルを「Roadster Zagato」の略であるR.Z.として発売。ES-30はザガートがデザインを担当したが、最終的にはフィアット・デザインセンターのものを採用した。ベースはアルファ75で、駆動方式はFR。S.Z.が1991年まで、R.Z.は1993年までと生産期間も非常に短い。
この年代で最も個性的なデザインだと思うよ
EDGE:さて、今号ですが特集が1980年から2000年ぐらいの車なので、同年代のものにしてみました。
松本:その当時を知っている人間からすると新しい車の印象が強いけど、今となっては80年代の車もクラシックカーに近づきつつあるからね。日本の80年代はバブルに向かって邁進していたから、自動車メーカーもビッグプロジェクトを立ち上げている時だったんだよ。弩級のクラシックカーが日本へ輸入されたりもしてたね。
EDGE:魅力的な車、実は多いんですよね?
松本:BMWのE30 M3とかメルセデスの190E2.3-16V、デルタHFインテグラーレなんかが分かりやすいよね。
EDGE:今回ですが前にそのデルタHFインテグラーレを取材させてもらったコレツィオーネさんでアルファロメオ
S.Z.があったので、それにしてみました。
松本:アルミボディの初代じゃないよね?(笑)
EDGE:はい。80年代後半に作られたモデルですね。
松本:いいんじゃないかな。デザインはフィアットかアルファロメオのチェントロスティーレだったんじゃないかな。まずはカロッツェリア・ザガートデザインのES30というコンセプトカーが発表されて、そっちの方がずっとエレガントな雰囲気だったけど、市販される時にはこの押し出しのあるデザインが採用されたんだ。限定1000台だから、希少といえば希少だね。
EDGE:あ、こちらの車両ですね。
松本:やっぱり今見てもデザインは素晴らしいね。このザガートロッソとマットなネロがザガート唯一のアイデンティティだと思うんだ。ザガートはデザインには関与していないって言う方もいらっしゃるけど、僕はキャビンの作り方はザガートらしいと思うんだよね。傾きをつけたAピラーから弧を描いてクオーターパネルまで繋がってるあたりとか。これは1993年に作られたランチア・ハイエナ ザガートにとても類似するんだ。でも70年代初めのアルファロメオのウエッジシェイプのコンセプトカーの流れも見え隠れしているよね。
EDGE:他に追随を許さないデザインであることは間違いないですね。ところで松本さんは乗ったことあるんですか?
松本:もちろん。オリジナルの1960年式のS.Z.に乗ったことがあるよ。ジュリエッタスプリントに比べて着座位置が低くて、ステアリングもユニバーサルジョイントで低くなっているんだ。凝っているよね。軽快なハンドリングとエグゾーストノートが最高だったよ。このS.Z.もサスペンションがちゃんとしていればコーナリングはなかなか軽快なはずだよ。あとエグゾーストノートはやっぱりアルファロメオだね。凄くいいよ。
EDGE:このS.Z.ってベース車両は何だったんですかね。
松本:これは有名な話だけど、アルファロメオ 75ミラノという4ドアセダンだったよ。S.Z.だけを見るとショートホイールベースに見えるんだけど、75ミラノと同じなんだ。特徴的なのはこのV型6気筒エンジンだね。ただのSOHCエンジンなんて思ってる人もいるけどとんでもないよ。これはSOHCだけどプッシュロッドとロッカーアームを返して開閉させるシステムなんだ。驚くことにこのエンジンを設計したのがフルシュカという技術者で、元々はポルシェの設計事務所のエンジニアなんだよ。だからアウトウニオンのグランプリレーサーと同じ方式を採用しているんだ。エンジンだけじゃないよ。サスペンションだってリアがド・ディオンアクスルで、これもグランプリカーと同じなんだ。そう考えるとS.Z.は他国ではあるけど世界でも最も有名なグランプリカーのDNAが入っているという見方もできるんだ。
EDGE:松本さんは当時見てるんですよね? 塗装の影響かもしれませんが、こんなに角が取れた柔らかいボディだったんですか? S.Z.ってカクカクした印象なんですけど……。
松本:当時、塗装を見た印象としては車の樹脂ボディはお世辞にも面がしっかりしてるとは言えなくて凸凹している印象だったね。それが新車の状態なんだと思ってたけど、今目の前にあるのを見て、ちょっと考えが変わったね。これはかなりきれいになっているよ。再塗装の時にボディの面をもう一度出したんじゃないかな。当時よりもシャープでカッコ良くなってると思う。
EDGE:なるほど……。
松本:それとこの革シートはいいね。今ではこの手の革は使われなくなっているんだ。育てることのできる革だね。名実ともにこの年代で最も個性的なデザインであると言っていいと思うよ。
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コレツィオーネtext/松本英雄
photo/岡村昌宏
※カーセンサーEDGE 2016年9月号(2016年7月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
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