「大企業病」につけるクスリはあるのか?
面と向ってだと言えないこともある。だったら面と向かわずにインタビューしてみてはどうだろうか。好きな人に対面で告白はできないけど、メールなら告白できる現代人ならではの背中越しのインタビュー。二人目の背中は大手精密機器メーカーに所属する大川陽介さん。社内では有志活動である「秘密結社わるだ組」を運営し、今年は組織の枠を超えて大手企業同士が繋がる有志団体「One JAPAN」の設立にも携わる。背景には、保守的で新しいことが前に進まない、いわゆる「大企業病」と呼ばれる組織改善がある。果たして有志活動は大企業病を治すクスリとなるのか。
「大企業病」を治すための漢方薬がある?
ハブチン:大川さん、背中越しではありますが、本日はよろしくお願いいたします。
大川:よろしくおねがいします。背中越しだと、インタビュー受けてる感じじゃないですね。独り言でしゃべってる感じがする。
ハブチン:ゆっくり考えて話せる感じがしません?
大川:うん、そんな気がする。目から入る情報量が少ないからかな。
ハブチン:そうかもしれませんね。こんな感じで進めていきたいですが、本日のテーマは「大企業病につけるクスリはあるのか」です。大川さんは本業とは別に有志活動として、様々なイベントやワークショップを開催して、組織の枠を超えたネットワークを形成されています。
かつて私も会社員時代に大川さんともイベントの企画をご一緒させていただきました。それから私は独立して、一方で大川さんは今年「One JAPAN」という大手企業の若手がイノベーションに限定せず働き方などまでも政府に提言し、実践する団体を立ち上げました。
視点や立場が異なる私たちが「大企業病」について語ることで気づきが生まれるのではないかと思い、今回インタビューさせていただくお時間をいただきました。
大川:わかりました。よろしくお願いいたします。
ハブチン:大川さんの有志活動「わるだ組」はいつから始められたんですか?
大川:2012年の4月23日ですね。
ハブチン:日付まで覚えていらっしゃるんですね。2012年か。
有志活動の取り組みとして早いですよね。その当時に有志活動みたいなものは他にあったんですか?
大川:あまり他には聞かなかったですね。自分たちの活動が合っているかどうかもよくわからないままやっていました。一年後くらいにパナソニックにも「One Panasonic」っていう有志の団体があるということを、社内の教育・研修担当から聞きました。
ハブチン:「One JAPAN」を一緒に立ち上げられた濱松さんが立ち上げられたパナソニック社内の有志活動ですね。
大川:向こうも「わるだ組」の活動に興味を持ってもらって、わるだ組×パナソニックで「わるパナ」というイベントを横浜で開催したんですよ。
ハブチン:なんか悪いパナソニックみたいですね笑。それでどうだったんですか?
大川:パナソニックの若手社員が15人くらい来たんですけど、東京在住者はほとんどいなくて、みんな福岡や大阪など、地方から来るんですよ。もちろん有志活動だから自腹で。
ハブチン:おぉなんか熱いですね。
大川:マジかよ、どんだけの熱量だと思って。そこから他社との交流も始まり、マイクロソフトさんも交えて三社祭ってイベントをやりました。最初は社内の部署をつなげる活動からやっていたけど、段々社外へ目を向けて社外との交流が進んでいった感じです。
ハブチン:それから「ボトムアップジャパン」や「しんびじ」など、いろんな有志活動が誕生していきます。そして今年は「One Japan」で、26社100人以上の大手企業の方々が設立総会に参加されたということで。大手企業中心にムーブメントが巻き起こっているのではないかと感じます。
大川:熱量が高い人たちが集まってきました。
ハブチン:この現象は一体なんなんでしょう。僕は「白血球」みたいだと思ったんです。
大川:白血球?
ハブチン:病気になると熱が出るじゃないですか。その熱は白血球が病原菌と戦っているから出てくるそうなんです。みんな「大企業病」という病と戦っているんじゃないかって。
大川:そういう例えでいうと、大企業病に対する特効薬ではないけれど、僕たちがやっている有志活動は漢方薬みたいなものかもしれないですね。
ハブチン:ほぅ、漢方薬ですか!
大川:漢方薬は、身体が本来持っている働きや自然治癒力を高めることで、病気を治すという考えで。言うなれば免疫力を高める感覚です。
ハブチン:うまい例えですね。
大川:大企業病の特徴は、個人の意思を阻害してしまって、ものごとが前に進まなくなることです。その対策として、個人の意思を出せる環境を社内につくる、その結果として会社としての免疫力も高まっていくのではないか思います。…これは今話しながら気づきました(笑)
「漢方薬」を巡らせるための血液の流れを変える
ハブチン:それで最近感じるのが、薬が組織内にいきとどくためには、「血液の流れ」が大事なんじゃないかということです。
大川:ほぉ、血液!?
ハブチン:組織における血液は、ズバリ「お金」です。なぜ新規事業が進まないかというと、儲かるどうかわからないのに、お金が垂れ流しになるからです。出血多量になると、企業も存続できないから、活動を止めようとしますよね。
大川:確かにそうですね。弊社の元会長の言葉に「お金は企業にとっての血・血流みたいなものである」という名言があります。血が回らないと企業っていう人格は続かないんですよね。
ハブチン:まさにそれです。
大川:地方創生やボランティア活動にも同じことがいえますね。お金をきちんと回す仕組みを作らないとそれっきりになってしまう。私達も地方に行って色々活動しましたけど、やっぱりコストが出る一方だと続かなくなる。結果的にお互い不幸になってしまいますね。
ハブチン:僕も前職で有志活動だった「ハッカソン芸人」というファシリテーションの仕事を、本業としてさせてもらえたのは、自分の給与分くらいは売り上げをつくれたからだと思います。全体の売り上げからすると微々たるもので、広報・PRの一環にしかならなかったもしれませんが。
大川:ハッカソン芸人で飯食ってたのはすごいですよね。私は今でもまだ有償で何かをしたことがないんです。「わるだ組」や「One JAPAN」の活動として、いつかはそういうこともあるんだろうな、とは思っていても、いつまでたっても自信がない感がちょっとありますね。
ハブチン:まぁ私も不安でしたけどね。今は独立して、お金を稼ぐことよりも、お金を回すことが大切と思っています。仕事の一部をクラウドソーシングに発注しているんですが、子育て中の主婦の方にお願いしています。自宅で子供のそばにいながら働くことができたら幸せじゃないですか。
クラウドソーシングって今本当に価格破壊が起きていて、最低賃金を下回る様な業務もあるんですが、自分のできる限りで適切な単価で発注しています。『もしクラウドソーシングの先にいる主婦の方が、自分の妻だったら。』と考えると、安けりゃいいって思えないですよね。
大川:そのとおりですね。
ハブチン:ちゃんとお金が回って生活ができる循環をつくっていく。好きな人のために働いて好きな人にお仕事を渡す、そういうつながりを作っていくことで、自然といい世界観が作られていくんじゃないかと感じています。だから「稼ぎ方」じゃなくて、お金の「回し方」が重要じゃないかと思うんです。
大川:そうですね、回し方ですね。確かにその表現がしっくりきますね。
有志活動でも、お金を回す仕組みをつくるべき。
ハブチン:だから有志活動も、ちゃんとお金を回していく仕組みが必要だと思うんです。ちなみに「One JAPAN」は法人格を取られているんですか?
大川:法人格は取ろうとしていますが、まだこれからですね。活動内容や定款とかもこれから詰めていく感じです。
ハブチン:法人格を取って、「One JAPAN」で活動することを有志活動ではなく仕事にする人を増やすことで、さらに良い活動になるんじゃないですかね。
大川:そうですね。「One JAPAN」はきちんと法人格を取って、社会的信用も得る必要があると思っています。
ハブチン:メディアを巻き込んだ広報的なアプローチや、新しい仕組みを提言する政治的なアプローチを行うのは、コミュニティ活動の価値の出し方のひとつだとと思います。それ単体が新しいビジネスを生むというより、社団法人の形式で客観的に発言する活動形態がいいなと。
大川:そういった意味では、「One JAPAN」はいかに上を巻き込むか、ということを意識して提言・実践していく活動ですね。
ハブチン:社員が提言できる仕組み・プラットフォームを作るとう役割は、今まで労働組合のような団体が担ってきましたよね。しかし社会が停滞している時に「給料を上げろ、待遇改善!」と訴えても、簡単に変わらないことはみんな気づいている。
でも本当に求められているのは、給料アップなんかじゃなく、仕事に自分たちの「意思」を反映できる様な環境や働き方かもしれない。その役割を有志団体が担おうとし始めているのではないでしょうか。
大川:そうですね。「One JAPAN」の方がイノベーションと、働き方や組織論を大きな軸としてやっていこうとしています。そのために「One JAPAN」はきちんと力を付けて、みんなが利用しやすく、影響力を作るものにしないといけないと思っています。
新たなお金が回る仕組みを社内に取り入れていく。
大川:一方で「わるだ組」は、企業や政治への提言活動とかはせず、個々人が楽しいって思える人生とか仕事を過ごすためのプラットフォームづくりを行っていきたいと思ってます。
ただ、「わるだ組」の活動をしていても、若い優秀な社員は辞めてスタートアップに転職したりしますね。そういう人達から後日連絡が来て大企業との共創案件が始まったりするケースも起きています。
ハブチン:おぉその関係性はいいですね。
大川:今までは、大企業とスタートアップ系はお互いの文化が違うからなかなか合わないっていうのがありましたよね。住む世界が断絶されていたというか。スタートアップ村と中小企業の商工会議所村と。大企業は大企業同士だけの村がありました。
羽渕;たしかに。組もうと思っても与信やなんかとかで難しかったと思います。
大川:そこが今、人間レベル、人格レベルで自然につながっているというのが大きな価値なんだと思います。SNSで気軽に連絡がとれるようになってきたという時代背景もあるでしょうね。Eメールじゃ仰々しくて気軽にアプローチできないじゃないですか。
ハブチン:僕も仕事のほとんどがメールではなくSNSのチャットですね。
社内でも同様に、そうやって組織の行き来が柔軟にできるようになるといいですよね。
大川:純粋に「行動することが楽しい」という文化を広めていきたいなと思います。大企業病につけるクスリとして「お金が回る新たな仕組み」が生まれれば、変革はできそうですね。
ハブチン:なんかお金の話ばっかりになってしまったな。でもお金大事!
大川:大事!
【大川陽介】
1980年、千葉県生まれ。富士ゼロックス株式会社勤務。経済産業大臣登録 中小企業診断士。「秘密結社わるだ組」を運営。
【羽渕 彰博(ハブチン】
1986年、大阪府生まれ。2008年パソナキャリア入社。転職者のキャリア支援業務、自社の新卒採用業務、新規事業立ち上げに従事し、ファシリテーターとしてIT、テレビ、新聞、音楽、家電、自動車など様々な業界のアイデア創出や人材育成に従事。2016年4月株式会社オムスビ設立。
ハブチン (@habchin3) | Twitter
撮影:鈴木健介
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