一緒に逃げられる? 飼い主が知っておきたいペットとの避難
防災月間の9月は、全国各地で防災訓練などのイベントが実施された。そんななかで近年関心が高まっているのは“ペット同行避難”。子どもの数より犬猫ペットの数が多い時代、「いざ被災したときに、この子はどうなるのか?」と不安を感じている飼い主も多いはず。その一人でもある筆者が、人と動物の防災を調査研究し、被災地の現状を知るNPO代表にお話を伺ってきた。
ペットとの同行避難を推進する自治体が増加
東京港区に本部を置く特定非営利活動法人アナイス(Animal Navigation In Case of Emergency)は、2003年にNPO法人として活動を開始した“人と動物”の災害時避難と避難生活をサポートする団体。
2000年三宅島噴火の後、2001年に設置された「三宅島噴火災害動物救援センター」にボランティアとして参加していた平井潤子さんがセンターで保護した動物のお世話をしながら感じたのは、被災動物救護はその飼い主様の支援につながるということで、人と動物の防災をサポートするアナイス設立に至ったと言う。
【画像1】三宅島噴火災害動物救援センターには68頭の犬猫が収容されていた。その1頭1頭に飼い主との絆にかかわる物語がある(写真提供/アナイス)
【画像2】アナイス発行の冊子「動物防災の3R—準備と避難と責任とー」を手に、平井潤子アナイス理事長(写真撮影/藤井繁子)
「各自治体の防災ガイドラインでも、ペットとの同行避難を推進しているケースが増えてきました」(平井さん、以下同)
「ペットが避難所に受け入れられないことで、飼い主が危険な場所に残ったり、ペットとともに車中で過ごした結果、エコノミークラス症候群等の健康被害にあったりすることを懸念し、避難所でのペット受け入れ対策を検討し始めています」
“ペットとの同行避難”が推進されていると聞き、安心した筆者だったが……
「ただし、『同行避難』とは飼い主がペットとともに安全な場所に避難することを言い、避難所室内でペットと一緒に過ごせることとは異なります。避難所にはアレルギーをもつ方やペットが苦手な方もいらっしゃいますので、避難所内の状況によって室内同居できるとは限らないのです」
なるほど、避難所の中には入れないんだ……ウチは犬猫共に室内飼いだけど、猫をケージに入れっぱなしは可哀想だなぁ。
「一方で、避難所内に共同の飼育スペースを用意したり、避難者の方々がオリジナル・ルールを決めて柔軟に対応する事例も増えてきています」
災害は一つとして同じものはなく、地域の人間関係や住環境によっても被害の状況が大きく違い、全てが初めての非常事態。その避難所で、人々がどう理解し合って助け合えるかがペット防災のキモのようだ。
また、今年4月に発生した熊本地震のように、震度7を超える地震が同じ地域を2度も襲うような事態のなかでは、耐震対策さえしておけば万全とは言えないが、少しでも被害を減らすために、その心得を教えていただいた。
「動物防災の3R」、ハードと共にソフトの準備を
アナイスが提唱している「動物防災の3R」とは、
・Ready(備え)
・Refuge(避難生活)
・Responsibility(責任)
「Readyには、ハード(物)の備えと、ソフト(方法や考え方)の備えが必要であることを知っていただきたいです」と、平井さん。
ハード面ではまず、安全が確保できる自宅の耐震化などを行うこと。飼い主が無事でなければ同行避難もできないので、まずは人の安全を確保することが重要だという。その上で、
「留守番中の震災に備え、ペットの安全を確保できるスペースをつくり、そういったスペースになじませておくことも必要」
もし飼い主が外出中に災害が起こったら、犬や猫が自力で隠れてくれる場所があるか。家が倒壊しても、頑丈な家具を配置し、倒れないように固定しておくことで生存空間(逃げ込む場所)ができ、助かる可能性が高まる。
「トイレは柱と壁で囲まれた構造で比較的頑丈です。ドアを少し開け、逃げ込めるように固定しておくのも一案です」
自宅から一緒に避難するケースでは、
「猫や小型犬用キャリーバッグは必須アイテムです。ただ、プラスチック製は非常時の混雑で衝撃を受けて壊れることも多く、ガムテープで補強して運び出すといいでしょう」 【画像3】避難所で怯えている猫は、逃げ出さないよう注意が必要。大きなタオルなどでキャリーを覆うと視線や音を遮ることができ、落ち着く場合も(写真提供/アナイス)【画像4】アナイスが開発にかかわったリュックサック型ペットキャリー「GRAMP」。リュックを担いで避難し、避難所では背面から引っぱり出したネットがケージになる。4万5000円(税抜)(写真提供/ドリーム)
「ペットが迷子になったときにペットの顔や、全身、柄や首輪の色を撮影した写真を準備しておけば、いざというときすぐに捜索ポスターをつくることができます」
生き別れたときの準備……リアルだ。携帯電話に写真などペット情報を保存しておくのが良いとのこと。
筆者はさらに携帯を失くした場合に備えて、クラウドにもデータをUPしておこうと思った。【画像5】飼い主とペットが生き別れ、保護されたペットも少なくない。そんなとき、マイクロチップの装着も飼い主探しに効果的(写真提供/アナイス)
「加えて重要なのはソフトの備え。日常的なしつけやご近所とのコミュニケーションが、防災の備えとして大変重要です」
人なつこい、他の犬にも友好的でいられる、たくさんの人が集まっている場所で落ち着いていられる等、社会化されたペットであることや、無駄吠えをしない、トイレは決めた場所でできる、ケージなどで静かにしていられることが避難所での問題を軽減してくれるのだ。
また、ペットを飼うご近所同士がお互いのペット事情を理解していることで、いざというときの助けになるのは間違いない。そんなコミュニティの構築が防災の備えになるという。
家族間でも、被災時には誰がペットと、どこへ避難するかを話し合っておくのも備え。ペット同行避難がOKの避難所かどうかも確認しておきたい。
環境省からも「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」が、飼い主向けにも紹介されているので一度は読んで備えてほしい。
【画像6】「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」には、具体的な備え&行動が示されている。要Check!(環境省ホームページより抜粋)
Refuge(避難生活)、互いに思いやる、配慮で乗り切る!
「ペットと同行避難した直後は、避難所も混乱してルールどころではありませんので、まずは動物嫌いやアレルギーのある方と棲み分けをすること。動線も分離して問題の起こらないように配慮しましょう」
避難所が落ち着いてきたら、ペット共生ゾーンをつくるなど避難者が話し合いながらルールをつくっていけると望ましいという。 【画像7】同行避難した後、人と動物にとって何がベターな方法かを選択する(資料提供/アナイス)【画像8】新潟県中越大震災時にできたペット飼育者専用のテント村避難所(写真提供/アナイス)
「共生のルール決めも、やはりご近所のコミュニティが長く続いている田舎と、関係性が薄い都会とでは許せる内容も違ってくるものです。首都圏直下型地震が来たら、どうなるのか?本当に恐ろしいです」
確かに、マンション管理組合でも課題が多い都市部住民。エゴがぶつかり合わないよう普段以上に思いやりを大切にしたい。
Responsibility(責任)は、ペットに対して+社会に対して
アナイスが15年携わってきた災害現場は、地震のほかに台風や水害も。その活動記録を調査研究に活かすのも、次への備えと言える。
「災害対応や防災にベストの回答はなく、基本的なルールを前提に、その現場ごとで“今のベスト”な対応を話し合いながら柔軟に対応できることが重要だと感じています」
そんな現場を経験しての気付き、「従来は避難所での注意点として動物嫌いな方への配慮を考えていましたが、避難所には動物が好きな人もいらっしゃり、それが事故につながることもあります」
犬に触りたい子どもたちが、怯えていることが分からず犬に手を出して咬まれてしまったり、飼い主が知らないところで配給のパンやお菓子を犬にたくさん与えてしまってお腹をこわす……という事態も想定されるのだとか。【画像9】犬も環境が変わってストレスが高まっている。子どもに分かるよう、大きくひらがなで注意書き!(写真提供/アナイス)
「犬や猫も避難所でストレスを抱え、逆に何も食べなくなる子もいます。繊細な動物のために、これなら食べるという大好物を避難グッズに用意しておくことも、飼い主としての責任の一つです」
東日本大震災では、被災地が広すぎてペットフードの支援物資が届かなかった所も多かったようだ。
平井さんは、「備えをして、まずは“自助”努力をすること。その次にお互いさまの“共助”。最後に“公助”を頼るという考えはペット防災においても同じです」と語る。
「“公助”があることを当然のこととして、”自助”を怠っている飼い主さんには、大規模広域災害発生時は公助の手が届くまで何日もかかることと、ペットを守るには、まずあなたが備えておくことが一番大切だと伝えたい。
『この子を守るために頑張ります』とおっしゃる飼い主さんには、『ペットや家族のために、この災害を乗り越えるぞ』、という強い意志を感じます。そんな飼い主さんをわれわれボランティアはサポートしていきたいと思います」と、東奔⻄⾛。
私たちは被災者としての備えとともに、支援者としても何ができるのかを考えさせられるお話だった。●取材協力
・特定非営利活動法人アナイス(Animal Navigation In Case of Emergency)●参考
・災害時におけるペットの救護対策ガイドライン(環境省)
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