【私のIターン】地方と都会では求められる仕事の「幅」が違う | 宮崎シーガイア 橘治子
Iターンを選ぶ理由は人それぞれ。行き先は、自分が希望した場所ではないこともあります。今回登場する橘治子(たちばなはるこ)さんは横浜出身、慶応大学卒業後リクルートへ入社。社内の新規事業で立ち上げたオールアバウトへ転籍した後、楽天、マイクロソフトへと転職。マイクロソフト時代にいまのご主人との出会いがあり、結婚を機に退社して宮崎へと移住しました。
傍目から見ると、都会のいわゆる「バリキャリ女子」の橘さん。宮崎に来てはじめて、職を求めてハローワークへ行きました。そこで見つけたフェニックス・シーガイア・リゾート(以下シーガイア)の契約社員募集に応募したところ、Web販促の部署で採用となり4年。結婚という大きな節目に、いわばセットで付いてきたような地方暮らしを、これまでどんな風に過ごしてきたのでしょうか?
結婚はハッピーだけど移住については、どう思った?
リクルート入社以降、常に結果を求められる職場を渡り歩いてきた橘さん。努力と持ち前の明るさで、仕事とプライベートに邁進してきました。そして40代に入った頃、新しいお付合いが始まり、あれよという間に結婚することに。自動的に彼の暮らす宮崎へと引っ越すことになったワケですが…
「まず結婚が重大事項。ワクワク感があまりに大きくて(笑)、移住については深く考えてなかったので、不安も感じませんでした。移住といっても、国内のことですし。飛行機に乗ってしまえば宮崎—東京間も、2時間ほどで行き来することができるので、なんとかなるかなと思いました」
2011年の東日本大震災以降、働き方や暮らし方を変えようとする人々が増え、橘さんも特に働き方をシフトチェンジしたいという思いがあったそう。結婚、そして宮崎への移住は、そういった面でも良いタイミングだったようです。
「友人たちと会いづらくなるのは、寂しいと思いました。とはいえ、今はSNSがあって皆の近況は把握できます。私もそうですが、よく旅行するフットワークの軽い人たちが多いので、会える機会もあるだろうし、あまり心配する必要はないと思いました」
いざ宮崎! 地方暮らし、ってこういうこと
学生時代にアメリカ、ミシガン州に留学経験のある橘さん。当時は買い物をする場所があまりなく、車が不可欠な生活は経験済みでした。宮崎での暮らしも同じようなものになるのでは、と想像していたそうです。
「宮崎にきていちばん不便に感じることは、生活に車が欠かせないことですね。運転免許は、学生時代に実家のある横浜で取得したものの、長くペーパードライバーでした。若い頃にバンパーの中央をぶつけたところを通りがかりの小学生に笑われて以来、もう乗るものか!と思っていたのですが(笑)。しかし地方暮らしでは自分で運転せざるを得ません。しかたなく市内の教習所でペーパードライバー講習を受けました。そこの教官が優しくて…『橘さん、ご自分で思っているほど下手ではないですよ』と励ましてくれたので、なんとか運転できるようになりました」
東京と比べて物が少ない、というのも事前にイメージしていた通りだったそうです。
「東京ではとにかく目から入ってくる情報が多く、買ってくれ、買ってくれと言われ続けて、それに振り回されていた気がします。去年の服が着られない! と思い、服をまとめ買いすることもありました」
今は年に数回、横浜の実家へ帰省する際に、すこし買い物をする程度だそう。物が少ない日常生活に慣れたので、ふだんから物欲が湧かなくなってきたといいます。「おかげで心穏やかに暮らせます(笑)」
宮崎に豊かさを感じるのは、時間と食。仕事を終えて帰宅し、自分で作った夕飯を夫と一緒に食べる。そんな時間に、幸せを感じるといいます。「宮崎は本当に農畜産物が豊かで、美味しいです。素材が良いので、野菜を少し茹でてオリーブオイルと塩をかけただけでも、たいへんなご馳走になります」。東京でさまざまなレストランを食べ歩いてきた女性の言葉には、説得力がありました。
都会のバリキャリ女子が、地方でイキイキ働くために
東京の仕事は刺激も多く面白かったし、選択肢が多いのも魅力。ただその分、競争も激しく、ほかの誰かにいつ代わられるか分からない時もあったといいます。そのため結果を出し続ける必要があり、がんばり続けなければいけない。
「一生懸命努力しないと人並みに仕事ができないと思っていたので、プレッシャーがありました。それでも最初のリクルート時代は楽しかったですね。若さもあったし、ランナーズハイのような状態だったのだろうと思います」。夜は残業か食事に行くかで、ほぼ毎日深夜に帰宅する日々。その生活スタイルをなかなか変えられませんでしたが、これで幸せなの? がんばり続けた先に何かあるの? と考えるようになっていたといいます。
宮崎に来て感じるのは、オープンな人が多く、しっかりしていて明るく、がんばりやの人が多いことだそう。「特に女性が素敵だと思いました。今の職場の女性上司とは年齢が近く、考え方に共感ができ気が合いました。仕事はとてもしやすく、幸運な環境に巡り会えたなと思います」
以前と比べれば裁量が少なく、どうしてもアシスタント的な立ち回りが多くなったそうです。
「それが嫌かといえば、そうでもないです。皆でプロジェクトを動かし、成果を出しています。小さな喜びの積み重ねが、大きなやりがいにつながっていることを感じています」
同じ方向を見て仕事ができる仲間がいることが大切で、まずは職場に同志を見つけることだといいます。
「仕事の“進め方”は地方独特のものがあったとしても、仕事に対する“考え方”“姿勢”は宮崎も東京も関係ありません。日々のコミュニケーションでそれを見つけていけばいい。コミュニケーションって、仕事の基本ですしね」
宮崎で思う、理想の働き方とは?
40代に入るまで東京で多忙な日々を過ごし、結婚を機に初めての地方暮らし。「正直なところ、働くことをやめるわけではないけど、少し引退めいた気分もありました。これからは気楽に、のんびりしようと思っていました。それなのに、気がついたら十二指腸潰瘍になっていました。知らないうちに慣れない環境で無理をしていたところがあり、ストレスを溜めていたんですね」
キャリアダウンしたと思わないのは、同僚たちの姿に、地方の仕事の厳しさを感じるから。ひとりで何役もこなす人が多く、その多才さ、仕事の幅の広さに驚くそうです。都会の大企業における分業を当然と思っていると、地方では追いつかないこともあるようです。
「地方でやっていけるのは、自分で仕事を作り出せる人です。『東京は消費する場所、地方はクリエイトする場所』と言われますが、作ることに関しては雑音が入りにくいし、やりやすいと思います」
情報はどこにいてもキャッチできるし、地域差の垣根は低くなっています。ネットが普及した今だからこそ、住む場所にとらわれずに自分が本当にやりたいこと、世の中の役に立ちそうなことを、志を共有できる仲間とプロジェクトのような形で実現していくのが良いのではといいます。
「東京で働き過ぎて身も心も疲れてしまっているようなら、地方に行って視点を変えてみるのもいいのかもしれません。あるいはデュアルライフを選択し、宮崎と東京の2カ所をベースにして、上質な暮らしと刺激的な仕事の良いとこ取りをすればいいと思います。私は運転は苦手だけど、それより満員電車に乗りたくないですね(笑)」
今、橘さんが考える理想の働き方は、半農半Xなのだとか。マンション暮らしから一戸建てに移り、庭で畑仕事をするのが目標といいます。そしてもう一つ、何かクリエイティブな仕事をしたいと考えているそう。「友人に本を出す人、書く仕事をしている人が多くて影響を受けているからかもしれない。この先も宮崎に暮らし、庭で野菜を育てながら、何かを作る仕事をする。何を作っていくかは今、模索中です」
【プロフィール:橘治子】
神奈川県横浜市出身。慶応大学卒。リクルート、オールアバウト、楽天、マイクロソフトを経て、現在フェニックスリゾート株式会社の営業本部WEB戦略課に勤務。シェラトン・グランデ・オーシャンリゾートの宿泊プランを企画し、2015年航空券と宿泊をセット販売する商品で「楽天トラベルアワード」をチームで受賞。
※今年8月にリニューアルしたシーガイアの運営するホテル、シェラトン・グランデ・オーシャンリゾートの館内を見せていただきながら、お話を伺いました。
【執筆:永田知子】
ライター。福岡県出身。福岡大学人文学部卒。リクルート「九州じゃらん」、All About 等で編集と広告制作を担当。2009年よりフリーのライター・編集者となり、旅行、食、インタビュー等の分野で旅行誌、webメディア、企業広報誌等で執筆。2016年2月、17年の東京生活にピリオドを打ち福岡へUターン。ただいま福岡生活を謳歌中。
撮影:鈴木健介
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