Theatre劇団子の舞台稽古に潜入! 夢を追う芸術家達の青春物語
11月23日から27日まで舞台『カメコが笑った日』を、11月29日から12月4日まで舞台『トキタ荘の冬』の公演を行うTheatre劇団子の稽古場に行ってきました。本番直前の通し稽古の取材と、両作品に出演する阿部英貴さんと大高雄一郎さん、そして作・演出の石山英憲さんへインタビューを行いました。※すべての写真を見るにはこちらから(https://getnews.jp/archives/153152)
Theatre劇団子は、石山英憲さんを中心とした日本大学芸術学部映画学科演技コースの学生が立ち上げた劇団。“誰にでも楽しめるエンターテインメント”をモットーに、ささやかな日常をテーマとした人情コメディーを作り続けている。活動当初から趣向を凝らしたオープニング映像を用いたり、お笑いコンビやロックバンド、女性ボーカリストらとコラボレーションを重ね、演劇の枠にとらわれない、より質の高いエンターテイメントを目指している。新宿の劇場を拠点に動員を伸ばし、2009年に愛知県で開催された演劇博覧会カラフル3では、グランプリに相当する『パブリックアワード』と『インターネット口コミ賞』をダブル受賞。 2011年にはベストセラー作家・有川浩の小説『シアター!』(メディアワークス文庫刊)を原作とする舞台『もう一つのシアター!』(出演:大和田伸也ほか)を上演し、大きな話題を呼んだ。
今回行われる公演は、2003年に行われた公演の再演、そしてその10年後を描いた作品。両作はトキタ荘という、貧乏アパートを舞台にしている。『カメコが笑った日』は、夢を見てそれに向かって走った事がある人ならば、誰もが感じたであろう悩みや葛藤が散りばめられている。その中で毎日を楽しく過ごす事、夢を追う事、そして“本当の優しさ”について表現している。その10年後のトキタ荘を舞台にした新作『トキタ荘の冬』を書き下ろし、2週に渡って2作品を連続上演する。
今回は、『カメコが笑った日』の通し稽古にお邪魔してきました!
作中のトキタ荘に登場するのは個性的なキャラクターばかり。売れない漫画家、売れない映画監督、売れない画家、売れないパンクミュージシャン、売れない俳優の卵……ここに住む人は、全然売れてないけど、夢を追う日常を生きている。そんな彼らの楽しくも切ない物語。
記者は、売れない映画監督・ハイウェイというキャラクターに酷く共感しました。いつもフラフラしていて、人の彼女にちょっかいを出したり、口が悪かったり。そんなにくまれ役のハイウェイは、一番仲間に成功してほしいと思っている。偽りの優しさで誤魔化したりせず、ひねくれながらも真っ直ぐ他人の作品と向き合っている。ハイウェイは夢を追う人間が好きなのだ、心の底から好きなのだろう。そして彼は夢を追えない自分が嫌いなのだ。この舞台の中で、ハイウェイだけが子供のままのような、大人なのだ。誰よりも自分のことを分かってて、夢を追えなくなってしまって。それでも誰かを応援することで、自分も変われると思っている。そんな風に感じました。
『カメコが笑った日』の最後に、漫画家を目指していた男・四方は夢を諦めて実家に帰る事になります。その10年後、彼は再びトキタ荘に戻ってくる。帰ってきたトキタ荘には、彼の知る人はほとんどおらず、雰囲気も変わり、だけど変わらない物が残っていた。一体彼はどうして戻ってきたのか、10年前の仲間たちは今どうなったのか。そしてトキタ荘で始まる新たな日常……。それが、『トキタ荘の冬』で分かることになるそうです。
キャストの阿部英貴さんと大高雄一郎さん、そして作・演出の石山英憲さんにインタビューを行いました。
大高雄一郎さん
―今回演じる長谷とはどんな役柄ですか?
『カメコが笑った日』という作品では、一番末っ子の売れない劇団員です。上京してきたばかりの世間知らず男の子なのですが、『トキタ荘の冬』という十年後が舞台の作品にも出演します。十年という時間の中で、長谷がどう変化するのかというところが見どころです。『カメコが笑った日』では、がむしゃらで無邪気な19歳の少年ですが、10年後の29歳になってもまだ売れていません。
―長谷は10年間ずっとトキタ荘で暮らしているのですか?
はい。むしろ、それを誇りに思ってしまっています。ここから売れなきゃ意味がないと思っているのです。長谷は10年前の良き思い出に浸ってしまい、周囲の人たちについていけない。そこでねじ曲がってしまうのです。
―この作品の一番の見どころは何ですか?
『カメコが笑った日』は、「本当のやさしさ」がテーマです。相手にはっきりと思いを伝えるのが本当のやさしさなのか、それとも偽ることが本当のやさしさなのか。お客様に感じていただけたら嬉しいです。『トキタ荘の冬』は、2011年の話なので、今を生きる人たちの共感できる点がたくさんあると思います。そして、衝撃のラストが待っています。楽しみにしていてください。お客様がトキタ荘に住みたいなと思ってくれたら、嬉しいです。
僕の初舞台は、19歳の時だったのですが、その時も『カメコが笑った日』で長谷役を演じていました。そういう意味でも思入れがある作品です。初舞台から5年経ち、また同じ役をやる。あの頃よりいらないものが付いていると思うので、そぎ落とす作業をして頑張りたいと思います。
阿部英貴さん
―今回演じる四方とはどんな役柄ですか?
僕は漫画家を目指している四方という役です。2作品ともに出演します。『カメコが笑った日』では、漫画を始めて6年経ち、この先どうしようかと考えている時期です。自分の才能のなさに気付き始め、葛藤し、青春への決別をします。このような青春は、皆さんが経てきていると思うので、僕の姿がチクッと痛く映ればいいと思います。
―『カメコが笑った日』から十年後『トキタ荘の冬』では、四方はどのように変化したのですか?
『トキタ荘の冬』では、漫画家の夢に挫折し、田舎に帰ってしまった四方が、また東京に戻ってきます。そして今度は、トキタ荘に住む若い人たちを見守る側となります。時代も変化し、トキタ荘に住む人の性質も変わります。四方はそれを受け入れて見守ります。四方は10年の間に、親との別れを経験することで、10年前にダメダメだった頃を踏まえて、ちょっと大人になって戻ってきます。10年経った四方の成長がお見せできればと思います。自分が経てきた道を若い人たちが辿り、悩み苦しんでいる姿を見て、どう導いていけばいいのか考えます。そして、自分はやっぱり漫画が好きだと思い、もう一度始めます。もし、僕が役者をやめて、10年後またやり直すことを想像したら、それはとてもエネルギーを使うと思います。10年間で、四方が漫画に対しての向き合い方がどのように変化しているのかを見せていきたいと思います。
―2作品に共通している所で「夢」というキーワードを感じるのですが、この作品見ていただいた方には、夢に対してどのような思いを持って欲しいですか?
夢は見るものじゃなくて、叶えるものだ。と、よく歌の歌詞にありますが、夢はそんな生易しいものではない。僕は役者をやっていますが、それは常に夢を見ているわけではなくて、日々現実を見ています。お客様は普通に生活をされている方が多いと思いますが、その人たちも夢を持っている。表現をする人だけが夢を見ているわけではなくて、みんな一緒だと思います。劇団をやっている僕は、夢とは現実の日々だと思います。夢を追いかけ続けることが夢であり、日々をちゃんと暮らすことが大事なのではないかと思います。日常が夢への一歩一歩ということ。日常と夢は同じことで、分ける必要はないと思います。
―この作品の一番の見どころは何ですか?
作品のテーマでもある「本当のやさしさ」とは何だろうという所だと思います。見終わった後にお客様それぞれの思いを感じ、持ち帰っていただければと思います。
石山英憲さん
―2作品について簡単な説明をお願いします。
『カメコが笑った日』は、映画『トキワ荘の青春』に触発されて書いた作品で、2003年8月に初演されたものです。劇団をずっと続けていたある時、自分の中で疲弊する問題が起き、今回で演劇を最後にしようと思い、作ったのが『カメコが笑った日』の初演でした。何かを続けていくことは、いろいろな人に迷惑をかける。けれども、協力者がいてくれれば、わりと続けられることです。演劇をやめようと思った時に、続けることも大変だけど、やめることもすごく勇気がいることなのだと感じました。それまでの作品は、お客様を意識して書いたりしていたのですが、これが最後だと思い、気取らずに自分が訴えたいことを初めて書いたのがこの作品でした。そんな気持ちの中で生まれた作品です。
―『トキタ荘の冬』は、『カメコが笑った日』の10年後が描かれますが、続編を書くきっかけは何ですか?
ぶっちゃけた話をすると、11月の公演が決まった時、僕はとても忙しくて、新作を書く時間がありませんでした。だからと言って、2週間の公演を単に再演1本でやることに意義を見出せなかったので、スケジュールの合間を縫って続編を書きました。僕は『カメコが笑った日』という作品で、本当に演劇をやめようと思っていました。この作品は当時、評価がとてもよく、その作品によって自分も救われたし、この作品をやったことで劇団としても新しいお客様が付き、救われた。今の劇団があるのは、あの時この作品をやったからだという思いがありました。
準劇団員が8人入ってきて、これからこの劇団をどうしていこうかと考えた時に『カメコが笑った日』という作品が思い浮かびました。新世代がズラッと並び、役者の顔も大分変わりました。次を担う若者にしっかりと居場所を与えてなければいけないということで、劇団を救ってくれた作品+これから劇団を背負っていく人たちが新しいカメコを作ろうという思いがあります。『カメコが笑った日』は劇団の原点、今の基盤となった作品だと思います。
―続編を書こうという構想は以前からあったのですか?
作品を作るという労力は0から1にする労力は並大抵のことではありません。新作を書く時間がなかった僕にとっては、基盤がある作品だと、労力も大分少ない中で作ることができます。また、トキタ荘の世界観をもっと広げられるとは思っていたので、今回続編を書きました。
―再演としての見どころ、新しいキャストとしての見どころは何ですか?
10年という時を通じて、トキワ荘で暮らしているが一人の男がどう変わったのか。いつもの2時間の演劇ではできないことを今回行っているので、2作品を見ていただくことで作品の奥深さが出ると思います。
僕としても初演から8年経って、トキタ荘の世界をふっと戻して書いてみると、今の描き方と違う。同じトキタ荘でも、何か世界が違うことに新鮮さを感じました。昔はこういう若さがあったんだなぁとか、でも今はエッジの効いたことが書けなくなっているんだなぁと、脚本を書きながら自分を振り返ることができた作品です。昔の劇団子と今の劇団子を同時に見ることができるのは貴重だと思いますし、僕としても面白い企画になったのではないかと思います。
―最後に劇場に足を運んでくださるお客様やガジェット通信を見ている方に一言お願いします。
今回は作品ももちろんなのですが、企画としても面白いので、満足していただけると思います。今と昔の劇団子、時代が変わっても色々な楽しみ方が出来る作品になっていると思います。どの世代にも楽しめる作品になっているとおもいますので、是非劇場に足をお運びください。お待ちしています!
Theatre劇団子『カメコが笑った日』・『トキタ荘の冬』は、新宿スペース107にて11月23日から12月4日まで2週連続で上演されます。“夢を追うこと”、“本当の優しさ”について描いた作品。本当の優しさとは一体何なのか。この作品を観て感じてみては如何でしょうか。
Theatre劇団子公式HP:http://gekidango.jp/index.html
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