配偶者控除廃止では主婦のフルタイム就業を実現できない

配偶者控除廃止では主婦のフルタイム就業を実現できない

配偶者控除から税額控除への変更は有効なのでしょうか

配偶者控除は38万円です。
配偶者控除は個人所得税を算定する時の所得控除のひとつです。
つまり、課税所得から差し引く金額であって税額そのものではありません。
中堅サラリーマン世帯(子供二人)を想定し所得税率は10%と想定しますと、配偶者控除を廃止することで夫の個人所得税(国税)の増額は380,000円X10%= 38,000円となります。
したがって、配偶者控除に代わる税額控除を導入するのであれば、38,000円の税額控除を導入すれば経済的には同様の効果ということになります。
もし政府が仮に大判振る舞いで10万円の税額控除を導入してくれれば、実質的に62,000円の手取り増額となります。

ただし、現在のところ、税額控除の具体的な金額について開示された情報はありません。
税額控除の導入効果を測定する一つ目安として考えていただければと思います。
また、税額控除は納付すべき所得税額がある場合には控除可能ですが、もともと納付税額がない場合には控除することができないという点も理解しておくことが必要です。

夫が受給している配偶者手当への影響は?

一般的に妻の課税所得がない場合には、夫の勤務先から配偶者手当が支給されます。平均金額は17,400円(平成27年賃金事情等総合調査:中央労働委員会)ですから、年間では208,800円となります。
現状では配偶者手当の支給条件を税務上の控除対象配偶者に該当するどうかで判定するという社内規定を置いている企業が半数以上と言われています。
したがってこのようなケースでは、主婦がフルタイム就労して控除対象配偶者から外れますと、配偶者手当208,800円は支給されなくなってしまいます。

130万円の壁と不公平な社会保険料負担

主婦の収入が130万円を超えると税務上の控除対象配偶者に該当しないだけでなく、さらに社会保険料の納付義務が発生することになります。
現状ではいわゆる第3号被保険者に該当することから主婦は社会保険料の納付を免除されていますが、この対象から外れてしまうからです。
その場合、妻は扶養対象から外れるので夫が負担する初回保険料は減額されるものと考えてしまいますが、第3号被保険者の保険料は夫が負担しているのではなく、制度として免除されていますので、夫の社会保険料は減額されることはありません。
さらに申し上げれば、実は社会保険料は扶養者の人数に関わらず一定としている定額制となっています。
つまり子供がいなくても5人いても社会保険料は変わらないのです。

つまり、家計単位で見た場合主婦が第3号被保険者から外れることで社会保険料の負担額はそのまま増額するということなのです。
社会保険料は収入に対しておよそ13.6%ですから、年収130万円の場合、年間約176,800円保険料が増加することになります。

主婦のフルタイム就業を促進し不平等感を解消するには?

以上のように、主婦の年収が130万円を超えると、
① 夫の個人所得税の算定において控除対象外配偶者控除となって、38,000円増税(所得税率10%で算定) 
② 夫の会社から支給される扶養手当208,800円の停止 
③ 妻の社会保険料の増額176800円となります。合計で423,600円の負担増となります。(市民税の負担増を含めるとさらに金額は大きくなります。)
現在検討されている税額控除の導入で解消されるのは、あくまで個人所得税のアンバランスの解消として、配偶者控除の所得控除部分(上記①)に相当する部分に限られると思います。本質的な制度改善のためには、むしろ上記②配偶者手当の消滅と③社会保険料の追加納付の問題を解決しなければならないということです。
そのためには、扶養手当を支給している企業等や社会保険の仕組みを抜本的に改善することが必要です。
主婦のフルタイム就業は、税制改革のみでは解決できない問題であることを認識することが重要です。

具体的には、例えば企業が支給する配偶者手当は、税務上の控除対象配偶者に該当するか否を基準とするのではなく、妻が稼得する収入に応じて段階的に低減する方法に改善することが考えられます。
政府は財界に対して協力を要請することが必要と考えられます。
また、社会保険料は第3号被保険者の免除と保険料の定額制を改正し、扶養者数に基づき相応の社会保険料を負担するようにすることが考えられます。

ただし、この案は第3号被保険者の保険料免除制度にメスを入れなければなりません。
これらのメリットを既得権と考えている国民の反発を招くことは必至ですが、この保険料の不足を税金で補っているために、我が国の予算は年金給付金11兆円及び医療給付金11兆円という水準に達していることを忘れてはなりません。
既得権を主張することは、結局将来の自分自身の増税を招くことになります。
課税の公平ばかりを議論するのではなく、社会保険料負担の公平についても抜本的に見直すことが急務ではないでしょうか。

(田村 敏明/ThinkBuzanマインドマップ公認インストラクター)

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