それは、何? 坂本慎太郎『できれば愛を』(Album Review)
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坂本慎太郎というアーティストは、いつでも音楽の共有体験がもたらす全体性と、ひとりで音楽に向き合うときの価値ある孤独との間で大きく揺らぎながら、その活動を続けている人のように思える。彼が所属したゆらゆら帝国は、最終的にロックンロールらしい物語性からかけ離れ、3ピース・アンサンブルの極限と思えるようなミニマル・サウンドのエクスタシーに到達していた。ロックンロールから距離を置くことで、ロックンロールの理想に辿り着いたのである。ゆらゆら帝国ほど、その音によって「この先はない」ことを明確に伝えてしまったバンドを、僕は他に知らない。
ゆらゆら帝国と坂本慎太郎ソロの音楽は、趣を異にしているようで、実は地続きになっていると僕は思っている。ゆらゆら帝国の解散に合点がいくのと同じくらい、坂本慎太郎ソロのサウンドは合点がいくものだった。7月末にリリースされた最新アルバム『できれば愛を』においても、この上なくオーガニックで温もりに満ちたサウンドが、有機的なグルーヴを構築しながら、ミニマルに坂本慎太郎の歌を運ぶ。
まず気になったのは、スタジオ・ライヴ映像も公開されたオープニング曲「できれば愛を(Love If Possible)」と、「動物らしく(Like an Animal)」という2曲についてだ。前作に引き続いてのスティール・ギターや女性コーラスに彩られながら、生命力の神秘に注視するように、彼は個々の人が持つエネルギーについて歌ってゆく。「できれば愛を」という控えめな期待、もはや控えめにしか抱くことのできない期待を伝えながら、より本能的で生理的なエネルギーに強い期待を寄せているわけだ。愛を唱えていたロックンロールが、ミニマリズムの果てにこのメッセージに辿り着いたかと思うと、何とも感慨深い。
児童合唱団を迎えたヴァージョンも発表された、以前の「あなたもロボットになれる」の、楽しげなほどに不気味に響く全体性を越えて、今回の「他人(Others)」では個人の限界を明確に伝え、そして果てしなく優しいクライマックス「いる(Presence)」へと辿り着く。すべての個人を尊重しながら、坂本慎太郎の歌は閉じ篭った個人のドアをノックすることをやめない。彼は知っているからだ。音楽は、分かり合えるワタシやアナタのためだけにあるのではなく、分かり合えないはずのワタシとアナタにさえ同じ方を向かせるものだということを。それこそが愛でなくて、一体何だと言うのだ。(Text: 小池宏和)
◎リリース情報
坂本慎太郎3rdアルバム『できれば愛を』
2016/07/27 RELEASE
2,600円(plus tax)
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