地方で生活するならクルマは必要か?東京湾の向こうで感じたこと —渡り鳥プロジェクト—
暑い季節は涼しいところへ、寒い季節は暖かいところへ。快適な環境を求めて移動しながら、どこでも同じように働けることをめざす「渡り鳥プロジェクト」。
連載第4回(前回はこちら)は、海を越えて「プチ渡り鳥」になってきたこの夏の体験記。「海を越えた」と言っても国境をまたいだわけではなく、東京から千葉まで東京湾を越えたに過ぎませんが、その延長線上に本格的な渡り鳥生活が見えてくるだろうと考えた上での実験、あるいは前哨戦といったところ。今回、何ができて、何ができなかったのか、そして見つけた意外な落とし穴とは。リオ五輪が終わっても心はまだまだ地球の裏側、フリーライター兼デザイン会社経営の松岡厚志がお届けします。
アクアラインの先でプチ渡り鳥生活
この夏は海に行きたいと思っていました。去年は息子が1歳になったばかりで遠出をしぶしぶ諦めたのですが、2歳になった今年は自由に歩けるどころか存分に走りまわれるほどに成長したため、そろそろ大きな海を見せてあげたかったからです。
そんな折、東京湾の真ん中に浮かぶパーキングエリア「海ほたる」にたまたま仕事で行くことに。そのまま東京湾を越えて千葉方面に抜ければ、内房や外房の海岸で遊べるチャンスが到来しました。以前、撮影の仕事で行ったことのある富津海岸なら砂浜も広いし、アクアラインの終点である木更津からもバスで行けます。きっと子供も連れて行きやすい。よし決めた、千葉に行こう。家族と休みを過ごしつつ、そのまま滞在先のホテルで仕事もしてしまおう。そんな思いつきで「プチ渡り鳥2016夏」がスタートしました。
まずは川崎駅からバスに乗って、海底トンネルへ。映画『シン・ゴジラ』で、のちにゴジラと命名される巨大生物が出没し、崩落のち浸水するあのトンネルです。青森と函館を結ぶ青函トンネルを抜けたときも興奮しましたが、東京湾の底を走るというのもなかなかワクワクするものです。そうこうしているうちにバスは洋上に顔を出し、海ほたるに到着。とある式典を取材した仕事はほんの一時間ほどで終わり、ゴジラの足跡の上を歩いたり、「ポケモンGO」でピカチュウをゲットしたりと満喫しました。フードコートで食べたあさり丼も美味しかったです。その後、陽が落ちる前にふたたびバスに乗り、アクアラインを千葉方面に進んで木更津に上陸。近くのホテルにチェックインしました。
iPad一台で仕事のほとんどができた
今回、持参した仕事道具はAppleの大型タブレット端末「iPad Pro」と専用スタイラスペン「Apple Pencil」、それから取材時の撮影用としてSonyの「レンズスタイルカメラ」。iPhoneに取りつけて一眼レフ並みの奥行きがある写真を撮影できる無線接続のカメラです。あとは充電器やアナログ手帳(ほぼ日WEEKS)なども持参しました。
特に「iPad Pro」は万能でした。普段はプライベートで利用することが多いですが、滞在先に持参すると、このわずか7mmの薄い板が僕の仕事場になります。仕事の内容にもよりますが、個人的にはほとんどこれ一台で仕事ができます。iPhoneでテザリングしてネットに接続できますし、原稿を書いたり、写真を編集したり、ネットショップの受注処理もできます。ちなみに本連載のイラストも「iPad Pro」で描いており、「Apple Pencil」を持参したのはそのためです。この「板一枚でシンプルに仕事している感」がたまりません。
文字入力については物理キーボードを外付けした方が、慣れもあって入力も早いのですが、今回は荷物を増やしたくないという理由で持参しませんでした。子連れの旅行も兼ねており、できるだけ身軽にしたかったからです。
たとえば今後、荷物がかさむ冬場に移動するとしたら、そのときも物理キーボードは荷物から除外するでしょう。でも、長期滞在を目的とした仕事メインの移動になるなら必須と考えます。そんな感じで「どの季節に」「どこへ」「どのくらいの期間」滞在するかによって荷物の種類と量が変わるなあと、今回実感しました。
ノートPCに頼らないといけない場面もあった
厚さ7mmの有能マシン「iPad Pro」。仕事目的で使用している主なアプリは次の通りです。
メール:Inbox
原稿作成:iテキスト
イラスト描画:Procreate
FAXデータ閲覧:Evernote
写真サイズ変更:バッチリサイズ2
BGM用ラジオ:TuneIn Radio
参考サイト閲覧:Pocket
ネットショップの受注処理:カラーミー(iPhone版のみ)
ブログ更新:Wordpress
その他、Word、Excel、PowerPointなど。
探せばほかにもっと良いアプリがあるかもしれませんが、今のところはこのくらいで満足しています。
今回、唯一困ったのは、iPadのExcelアプリが「マクロ非対応」であったこと。ライター業の傍ら、文房具などの自社商品を販売するメーカー業を行っており、納品書や請求書はExcelで作成しているのですが、注文があるたびに商品名や品番、金額を何度も入力するのは面倒なので、あらかじめマクロ(プログラム)を組んで、納品数を入力するだけで納品書が完成するようにしてあるんですね。しかしアプリが非対応であるため、この作業だけはiPad上ではできませんでした。
今後の対策としては、Excelじゃない方法で納品書を作成すること。外出先で帳票類を作成できるクラウド帳票サービスがいくつかあるので、それらに切り替えることを検討しています。あるいは素直にノートPCを持参するか。いま手元にあるのが15インチの「Macbook Pro」のみで、サイズといい重量といい携帯するには不向きなのですが、やはり仕事をする上ではノートPCの方が生産性は高く効率的です。
また、今回は行いませんでしたが、HTMLを書いてFTPでアップして、といった「ウェブサイトの構築・更新」もノートPCじゃないと難しそうです。ブログの更新程度なら対応アプリで簡単にできますが、何かを作る、組み立てる、といった作業をタブレットに求めるのは限界があるように思いました。
灼熱の太陽、どこまでも見えない海岸線
さて、ホテルで仕事もさくさく済ませ、朝から海に行くことに。木更津駅から富津海岸までバスが出ており、40分ほどで到着しました。バス停から海水浴場までは少し距離があり、Googleマップを頼りに徒歩で向かいました。ここで問題発生。子供が「ベビーカーから降りたい」「抱っこしてほしい」「ママの抱っこじゃないとヤダ」と駄々をこね始めたのです。
外は炎天下。太陽が真上にあって、影が伸びない灼熱の時間帯。屋根のある休憩所もありません。クーラーの効いたコンビニもありません。しかも途中で道を間違えていたらしく、迷って迷ってようやく海水浴場に着いたと思ったら、人っ子ひとりいない、海の家も見当たらない砂漠のような海岸でした。そのときの絶望感といったら。
まわりを見渡すと、はるか彼方に海の家や人だかりが見つかりました。ゆらゆらと揺れて、まるで蜃気楼のようでした。「あそこまでまた歩くのか……」。くたびれた妻に代わって、嫌がる子供を無理やり抱っこしたのですが、ほとんど砂浜トレーニング状態。汗だくになりながら海の家までたどり着いた頃には、海で泳ぐ気力はほとんど残っていませんでした。
それもこれもクルマさえあれば、駅から海水浴場まで歌でも唱いながら来られたのに。マイカーさえあれば、もっとラクな旅になったのに。昨日乗ったタクシーの運転手さんがこんなことを言っていたのを思い出しました。
「千葉を満喫するならクルマがないとね」
羽の前にクルマという名の足が要る
おかげさまで海は満喫できましたが、地方で渡り鳥生活を送るなら「クルマが要る」と確信しました。クルマがなくても快適に生活できるのは交通網が発達し、徒歩圏内に何でも揃う都市部だけで、それ以外の場所で移動するならクルマが欠かせません。ちょっとスーパーに買い出しに行くのにも、家族が不意に倒れて病院に行くのにも、クルマという足がなければ何もできないのです。地方出身者の僕には、身に染みてわかります。
とはいえ、いま住んでいる都内でクルマを持つのは贅沢です。駐車代の高さを思えば、ほとんど嗜好品と言えるでしょう。わが家は都内の駅近物件で、それこそ贅沢に思われるのですが、そうじゃないんです。家賃の高くない、駅から離れた不便な場所に住んでクルマを所有するよりも、たとえ家賃が上がってもクルマのない生活の方が「トータルで安くあがる」という計算があるのです。クルマを所有しない分、暮らしやすい場所に住む、という選択をしているんですね。
ただ、子供ができれば話は別。親の言うことを聞かない子供と遠出するなら、やはりクルマは必要に思います。オムツや着替え、ベビーカーなど荷物も多いですからね。もちろんレンタカーやシェアカーで十分な場面もありますが、基本的にチャイルドシートを自前で用意して、その都度取りつける必要があり、子持ちにとっては便利とは言いがたい現実があります。やっぱり必要なのはマイカーです。
まさか、渡り鳥になろうと「羽を生やす」方法を模索するうち、羽の前に「足」の必要性に気づくとは、思わぬ落とし穴でした。そして今、おそろしいことを思い出しました。僕は無事故、無違反、無運転のペーパードライバーであることを。嗚呼、まやかしのゴールド免許。教習所に行って初心者講習を受けるのが先決かもしれません。
渡り鳥生活への道は、まだまだ続く。今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
文:松岡厚志
1978年生まれ、ライター。デザイン会社「ハイモジモジ」代表。主な移動手段は電車と自転車。バイク並にタイヤが太い「FAT BIKE」で保育園の送り迎えを担当し、通りすがりの小学生に「タイヤでっか!」と後ろ指をさされる日々。
イラスト:Mazzo Kattusi
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