上沢直之よ、俺は簡単に気持ちの整理なんかつけられないよ。
上沢直之が福岡ソフトバンクホークスに移籍することを決めた。
昨オフに夢を追いかけてポスティングシステムでアメリカに渡り、メジャーリーグに挑戦し、メジャーのマウンドにも立った。しかし故障もあり、今季終盤に日本に帰国。ファイターズの2軍施設である鎌ヶ谷スタジアムでリハビリをし、鍵谷投手の引退セレモニーや球団主催の野球教室にも参加していた。
そんな上沢直之が福岡ソフトバンクホークスに移籍することを決めた。
「ルールの範囲内だから問題ない。」「ビジネスなのだから、ファンの感情など関係ない。」
確かにそうだろう。しかし、プロ野球を応援する、選手を応援する行為には感情的な理由以外存在しない。元々プロ野球ファンなんて感情の塊みたいな存在なのだ。
気持ちの整理などつかない。でも区切りを付けなければいけない。こんな感情は、背番号6番が急に空き番になった時以来だ。
這い上がってきた苦労人が歓喜の輪の中心にいる姿が見たかった
上沢直之は千葉県松戸市出身。小学生のときは野球ではなくサッカーに打ち込んだ。兄の影響で中学から野球をはじめ、専大松戸高校に進学した。プロ入り後のある取材で、「プロ野球選手になりよりも、とにかく甲子園に出たかった」と語っているが、その夢は結局叶わずに高校野球生活を終える。
ドラフト指名は6位。この年、ファイターズは1位指名で後の巨人・菅野智之投手を指名(入団拒否)。2位は2022年首位打者を獲得した松本剛選手、4位に同じくファイターズからホークスに移籍した近藤健介選手と豊作な年だった。
甲子園未出場、ドラフト6位、与えられた背番号は63。1年目は身体を作りながらファームで10試合に登板して0勝4敗、防御率5.20。この投手に後のエースとしての姿を想像できたファンは多くなかったと思う。
2014年に8勝を挙げて頭角を現すも、チームがリーグ優勝・日本一になった2016年は故障の影響で1軍登板はゼロ。上沢直之はあの歓喜の輪に入ることができなかった。上沢直之本人が一番感じているだろうが、我々ファンも感じていた。「上沢直之と一緒に優勝したい」。2019年には打球が左膝に直撃するという選手生命を絶たれてもおかしくない大怪我を負った。そんなバックボーンもあり、上沢直之がビールかけでぐしゃぐしゃになっている姿を待ち望んでいた。
だがその姿を見られないまま、上沢直之はアメリカに行ってしまった。
そしてたった1年、いや数カ月で日本に戻ってきた。
その挑戦や結果を笑うつもりはない。夢を追いかける姿はカッコよかった。いろいろな選択の中で日本に戻って来ることだって否定しない。
ただ、ホークスへの移籍だけは飲み込めない。
ルールだから、何も悪くないから、そんな簡単に整理がつかない。
上沢直之、君は俺たちのエースだったんだ。
その日、彼は間違いなく俺たちのエースだった
2022年4月17日、前回登板で完全試合を達成した佐々木朗希投手の前に立ちふさがったのが上沢直之だった。佐々木投手が8回まで一人の走者も許さない14奪三振の2試合連続の完全試合を継続する一方で、上沢直之も7回4安打無失点8奪三振の投球で点を与えなかった。この試合は上沢直之とリリーフ陣の好投もあり、延長10回に万波中正選手のチーム初ヒットとなるホームランで1-0で勝利した。まだコロナ禍ルールでどんちゃん騒ぎができなかったが、この試合をスタンドで観戦していたことは筆者の生涯の自慢である。
その試合後、上沢直之のXアカウントにアンチから「空気を読んでください」という書き込みがあった。その書き込みに対し、上沢直之は「僕にも応援してくれるファンがいます」と珍しく応戦していた。グラウンド外の言動にも、エースの風格を感じさせてくれていた。
そんな上沢直之が、福岡ソフトバンクホークスに移籍することを決めた。
2025年4月1日、マウンドに立て!!!
同じパリーグ、嫌でも数試合は対戦する機会はあるだろう。何なら、2025年のファイターズのホーム開幕戦は4月1日のホークス戦である。
ホーム開幕戦の先発が明言されている伊藤大海投手は
「僕のホーム開幕戦に来るんじゃないですか。志願してでも来るんだろうな、と僕は思っていますね。それぐらいはしてくれないと、ファイターズファンも納得いかないかなと」とコメント。現エースと旧エース対決が、4月のホーム開幕戦から見られるかもしれない。そうなれば、全力で伊藤投手を、ファイターズを応援するしかない。上沢直之、お前はもううちの選手じゃない。ボコボコに打ち込むんだ。ファイターズファンが歓喜する声を背中に受けながら、三塁ベンチにうなだれて帰っていく。その姿を見て初めて「さようなら」が言えるんだ。逃げるな。絶対に4月1日のエスコンのマウンドに立て。
そしてその引導を渡すのが、かつての恋女房だった背番号10番だったら……
というのはちょっと出来過ぎかもしれない。
(Written by 大井川鉄朗)
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