今の時代だったら完全にアウト!盗みだした少女を抱きしめて~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~

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マザコンをこじらせた男、光源氏。顔も知らない母への想いが、そっくりさんの藤壺の宮(以下、宮)への恋愛感情に変わり、それが彼を「理想の女性探し」や「困難がつきまとう面倒くさい恋愛」に駆り立てます。六条御息所、夕顔、空蝉などの女性との関係も、全てはそこを出発点とした恋でした。

宮とすんなり結婚できていたら、源氏がここまでハデに女性を渡り歩いたかはわかりません。しかし宮とはどうやっても一緒になれない運命。そこで源氏が目をつけたのが、宮の姪・紫の君でした。

いろいろ素行の良くない源氏ですが、今の時代だったら完全にアウトな行動に出ます。

周囲も唖然、無理やり少女を抱きしめてベッドの中へ!

秋が深まるころ、紫の君とおばあちゃんの尼君は北山から京に戻っていました。源氏は惟光を通じてコンタクトをとり、お見舞いにも行きますが、返事は変わらず。しばらくして尼君が死去し、源氏は母や祖母を亡くしたことを思い出して、弔問にでかけます。

紫の君は荒れ果てた屋敷に寂しく取り残されていました。ご飯も喉を通らず、暗くなると特に精神的に不安定になります。乳母の少納言は、これでは病気になってしまうのではないかと心配です。

「父君の兵部卿宮さまが、ご本宅に引き取りたいと仰っていますが、あちらには奥様もお子様もいらっしゃいます。物心つかない赤ちゃんというわけでもないし、かと言って大人扱いもできない、中途半端なお年ごろで。年よりも幼いところがありますし…。お母様は奥様にいじめられて亡くなられましたし、姫さまもつらい思いをされるのでは。尼君もずっと避けておいででした」。

源氏は「だから何度も言ってるじゃないか、なんの心配もいらないよ。私が姫君を大切にするから」。そこへ紫の君が登場。乳母の少納言の側で「お父様が来てるの?」という声が可愛い。

「お父様ではないけど、こっちへおいで」。紫の君は違う人だった!とびっくりしますが、源氏は御簾の下から手を握り、中へ入り込みます。「どうして隠れたりするの?これからは私があなたのお父様の代わりだよ。仲良くしてね」。

紫の君は手を引っ込めて怖がり、乳母に必死に「少納言、眠いから一緒に寝てよう」。乳母の少納言は呆れ返って「こんなにお子様なんですよ」。いやー、変なお兄さん気持ち悪い!

そのうちにみぞれが降り、荒れた空模様になりました。嵐の夜は女所帯だと心細いだろう、というので源氏は宿直をすることに。「女房たちは姫の部屋に集まりなさい」と言いながら、自分は紫の君を抱いて帳台に入ってしまいました!ひー。女房たちも乳母の少納言も唖然です。

帳台は中が見えないように、四方に上からカーテン(帳)が巡らせてある天蓋付きベッド。中でどうなってるのか心配ですが、かといって覗きこむわけにもいかない。すぐ下で様子をうかがっています。相手が身分高い源氏なので、正面から阻止することができない。もどかしい状況です。

さすがの源氏も、10歳の少女に手を出してはいません。源氏の腕の中で紫の君は震え、鳥肌が立っています。そんな様子も源氏には可愛い。「ねえ、私の家においで。面白い絵もいっぱいあるし、お人形遊びもたくさんできるよ」。

優しく話しかけてくる源氏にだんだん怖さは薄れたものの、やっぱり落ち着かず、身じろぎばかりの紫の君。女房たちもハラハラしつつ「こんな夜に男の方が居てくれてホッとした」「もしカップル成立出来るお年ごろなら…」と勝手に思います。

源氏は帰宅すると早速、女の子が喜びそうな絵をつけた手紙を出し、「早く手元に」と思うのでした。

のちのち毒親と化す、残念なお父さん・兵部卿宮

翌日、紫の君のところに父・兵部卿宮がやって来ました。「子どもがこんな寂しい所にところにいてはいけない。やっぱり一緒に暮らそう」。紫の君からは妙にいい香りがします。源氏の移り香です。「いい匂いだね、着物はクタクタなのに」。乳母の少納言は源氏が来たことがばれないかヒヤヒヤ。

この兵部卿宮というひとは、どうにも残念な人です。「尼君はうちの妻を嫌っていたし、うちの妻もよく思っていなかったが、以前から交流があればスムーズに引き取れたのに。ともかく、うちにも子どもたちがいるから、楽しく遊んで過ごせると思う」

娘がいじめ殺された本妻のもとに、孫を預けたらどうなるかを常に案じて避けていた尼君の気持ちが、全然わかってない様子。因縁づくの微妙な問題なのに「子どもは遊んでいれば仲良くなる」とでも思っているのか?10歳くらいの女の子って、もう相当複雑なのに…。

紫の君はお父さんが帰ると聞いて悲しそうです。たまにしか来ないお父さんになついてないのですが、おばあちゃんがいない今、心細くて仕方ないといったところ。「かわいそうに。やっぱり明日にでもうちに引き取ろう」。急な展開で、乳母の少納言や女房たちはバタバタと引っ越しの準備に追われます。

これを惟光が源氏に報告。「兵部卿宮が迎えに来る前に引き取りたい。でも親元のはっきりしている少女を盗みだしたと噂になると……」。狭い貴族社会、たどれば何らかの親類縁者であるような濃い世界です。悪い噂が広まると社会的に死ぬことになるのは自明。ためらったものの、この機会を逃すと後がないと踏んだ源氏は決行します。

押しかけて略奪!それなのに開き直る源氏

源氏は早朝に惟光と押しかけ、乳母の少納言の制止も聞かず、部屋にどんどん入って紫の君を抱き上げ「お父様のお使いで来たんだよ。一緒に行こう」。強引すぎ!しかもまた嘘ついてる!!紫の君は寝ぼけていましたが、気がついてびっくり。お父さんの代わりに来たとか、誘拐犯の常套句だよ!

驚いたのは乳母の少納言と惟光もでした。「これから二条院に連れて行く」という源氏に、惟光は「はぁ?」乳母の少納言は「ええ?今日はお父様が引き取りにいらっしゃるのに!」。押し問答のうちに紫の君は泣き出し、しょうがないので乳母の少納言だけが付き添います。

源氏は普段使っていない、二条院の対屋を紫の君の住まいにしました。乳母の少納言はいろいろ気が引けて「本当にいいのでしょうか」とためらいますが、源氏は「嫌ならお前だけ送り返してあげてもいいよ」と強気。なんと開き直った連れ去り犯か。

源氏は紫の君をなつかせようと、数日は仕事も休んで、お絵かきをしたり、お人形遊びをしたりしてご機嫌取りに必死。事情を知らない女房たちは「対の方にお気に入りの女性を連れてきたみたい」と噂しています。

急展開で連れてこられた紫の君ですが、残してきたお付きの人たちも徐々に揃い、この暮らしになじんでいきます。でも「私を紫のゆかりとおっしゃるけど、一体どういうご縁なの?」。源氏がなぜ自分をここへ連れてきたのか、どうして大事にしてくれるのか、わからないまま。

源氏は「藤壺の宮の身代わりに」と思っていますが、単に純粋な自分のテリトリーである、自宅の二条院にいてくれる家族が欲しかったのかなあという気もします。だからって連れ去っていいわけではないし、というか、今の時代だったら、全面的に完全にアウトですけど。さすがにここまで来ると、危ない人を通り越してもうイタい、いたたまれない感じすらあります。

ともあれ、こうして奇妙な生活が始まりました。母親はいじめで死に、育ての祖母には死別という共通点を持つ2人。まだ夫婦としては成立せず、源氏は今は父親でもあり兄でもあり、紫の君は妹でもあり娘でもある。不思議な関係です。

肉親でも恋愛関係でもない、イレギュラーな関係は、あとあと紫の君の立場に大きな影を落とします。そして、実父の兵部卿宮と意地悪な継母は、要所要所で足を引っ張る『毒親』と化していきます。

3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/

(画像は筆者作成)

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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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