イギリス不動産株下落は日本の不動産市場にどのような影響を及ぼすか?
Brexitの実態不動産の影響は当面限定的
2016年6月23日のBrexitの国民投票から1か月が経過しようとしています。
イギリスがEUから離脱する国民投票の結果を受けて、早速不動産価格にも影響が出てきました。
どうなるイギリス、どうなるEU?日本の不動産価格への影響は?といった疑問が出てきます。
「あまりない」というのが結論ですが、理由を簡単に解説したいと思います。
実物不動産と金融不動産の違いに注目
イギリスにとっては国を揺るがす決定です。
イギリスの不動産業界でも、不動産ファンドの解約殺到で解約の受付を停止したとか、証券市場でも不動産株が大きく値を下げたとか報道されています。
その背景は、イギリスがEUから離脱すると、EU域内で経済活動を行ないたい企業が、イギリスから撤退しドイツやフランスなどに転居し、オフィスの空室率が上昇するから、今のうちに解約しておこう、そして、オフィスの空室率が上がれば、不動産価値が下落するだろうから、不動産株も売られるわけです。
そのことが報道されると、イギリスの不動産市場全体が崩壊するような印象もありますが、そう判断するにはまだ早い。
その理由を説明する前に、不動産市場には「不動産『実物』市場」「不動産『金融』市場」の2種類あることを知っておきましょう。
不動産市場には2種類ある
まず、「不動産『実物』市場」とは、不動産を実際に売ったり買ったりする市場のことを指します。
一般に私たちがイメージする不動産の市場です。
次に「不動産『金融』市場」とは、大雑把に言うと、不動産を所有するための証券を発行して、その証券をやりとりする市場になります。
実物の不動産を所有するのは大変ですが、権利を細かく分割して証券という紙切れに変換して所有すると、それはもう紙切れですから売買がとても簡単にできるようになります。
不動産を紙切れに変換するという考えはあまり聞き慣れませんが、会社経営の世界では古くから行なわれています。
1つの企業を保有するのは不動産と同様に大変ですが、会社の財産を細かく分けて株券にして証券市場で売買するのと簡単に売買できます。
この「所有と経営の分離」と言われる近代資本主義を形成した思想が、1990年代から不動産にも応用されているのです。
この方法では、多数の投資家から資金を集めて不動産を購入できますから、数千億の大規模な不動産投資も行ないやすくなるというメリットがあります。
そして、買いやすいと言うことは、同時に売りやすいと言うことですから、一方、今回のBrexitのような出来事が起きると、一斉に、我先にと売却圧力がかかってしまうことにもなります。
しかし、売られるのは「証券」であって「実物の不動産」でないことには注意する必要があります。
不動産の証券市場でいくら売られていても、実物の不動産が売られるわけではありませんし、お金はほとんどすべて不動産の購入に使われてしまっていますから、解約即返金と言うわけにも行きません。
だから、「解約停止」となってしまうのです。
そして、実物の不動産を売却するにも時間がかかりますから、不動産金融市場での混乱が、すぐに不動産実物市場の混乱につながるわけではないのです。
過熱気味の報道に惑わされないためのポイント
経済の世界でも実体経済と金融経済という言葉があります。
リーマンショックは金融経済の話、中国バブル崩壊は実体経済の話といわれます。
不動産でも、実物不動産のことか、金融不動産のことか区別できると、より客観的に、冷静に考えることができるのではないでしょうか?
(中山 聡/一級建築士・不動産鑑定士)
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