【30万円で始められる!?】“脱サラ農業”が今、人気のワケ

【30万円で始められる!?】“脱サラ農業”が今、人気のワケ
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■給付金の影響で、20代、30代で農業を始める人が増えている

「20代、30代で農業を始める人がここ数年、急増しています。会社員を辞めて農業を始める、いわゆる“脱サラ農業”をする人も多いですよ」。こう語るのは、農業コンサルタントの田中康晃氏。行政書士として農業を始めるための許可申請代行をするかたわら、兵庫県で会社員のための週末農業塾を開いている就農のエキスパートだ。f:id:k_kushida:20160615165442j:plain

▲行政書士・農業コンサルタント 田中康晃氏

大学卒業後、1996年に電機メーカーに就職。営業職として働く傍ら、市民農園で農業を始める。その後、行政書士の資格を取り、33歳で退職。2006年に農業専門の行政書士として独立。就農コンサルティングも始める。兵庫県神戸市にある就農のための学校(農業塾)「合同会社エースクール」代表。同文館出版より農起業マニュアル書籍刊行予定。http://aschool.info

農林水産省の「農家就農動向調査」によると、39歳以下で自ら土地を調達し新規で農業を始めた人の数は、6年前の2010年には600人だったにもかかわらず、2012年、2013年には1500人、2014年には2000人と、ここ数年で増加している。

なぜ、今農業なのか。前出の田中氏に聞くと、一番大きな理由は、2012年から「青年就農給付金」がスタートしたことだとか。「青年就農給付金」とは、農林水産省が青年の就農意欲の喚起と就農後の生活の安定を目的に作った制度で、就農前の研修期間と経営が不安定な就農直後に給付金が支給されるというもの。対象は45歳未満の就農希望者。最長2年間の研修期間は年間最大150万円が給付され、新しく農業を始めた際は経営が安定するまでの最長5年間、年間最大150万円が給付される。ただし、研修後一年以内に就農すること、最低でも5年間農業を続けることなど、いくつか制約がある。しかし、年間最大150万円の給付は、資金が乏しい20代30代にとって、非常にありがたい制度であることに変わりはない。

■1000平米の畑でナスを作ると、年間収入は約180万円

もうひとつ忘れてはならないのが、この制度には350万円(平成27年度より)の所得制限があること。つまり、ある程度農業で生計が建てられるようになったら、援助が受けられなくなるのだ。所得とは収入からタネ代、肥料代、トラクター代など諸経費を引いた額のこと。会社員の年収と一概には比べられないが、所得350万円で食べていくのはちょっと厳しいのでは?

「田舎暮らしだと空き家も多いので家賃はかなり安く借りられます。食費も近所の農家から野菜や果物を分けてもらえることも多いので、生活費は少なくともやっていけると思います。畑も農家から安く借りられますしね」(田中氏)

実際にどのくらいの畑を持てば所得350万円が実現できるのだろうか。初期費用がさほどかからず、初心者にも作りやすいナスを例にあげて計算してもらった。

「例えば、1000平米の畑でナスを作ったとして、年間の収入が全国平均で約180万円。そこから諸経費を引くと、所得は約120万円くらいです(農水省の統計より)。一人ではじめてナス専業の農業をするとなると1000平米が限度かと思いますが、奥さんや親など家族が手伝ってくれるなら、3000平米くらいはいけると思います。そうすると、単純計算ですが所得約240万円になります。それに加えて、ナスの時期以外に他の作物を組み合わせるなどの工夫をしていけば更に上積みは可能だと思います」(田中氏)

うーん。家族総出で働いて240万円+αの所得とはちょっと厳しい気もするが、「農業の喜びはお金だけではない」と田中氏は言う。

「お金儲けだけが目的なら農業じゃなくても良いと思いますよ。ただ、お金では買えない幸せが手に入ります。現在、会社員を対象にした週末農業塾を開講していますが、生徒さんの中には土を触っていると疲れた心が癒されるという人が多いんです。無心に雑草を抜いていると、気持ちが軽くなってストレスが軽減されるという人、たくさんいらっしゃいますよ」

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週末農業塾エースクールでも20代30代が増加。約4割を占める

実は、田中氏自身も以前は会社員だったそうだ。20代は横浜の電気メーカーで営業の仕事をしていたという。

「30歳の時、この先の人生を考えたんです。それで、以前から興味があった農業をやってみようと思い立ったんです。近くの市民農園を借りて野菜を作り始めたんですが、土を触っているだけで気持ちが落ち着いて、ストレスがすーっとなくなりました。土には不思議な力があるんです。そこから農業にはまってしまい、本格的に農家になろうと農業を始めるための相談をしに役所に行ったのですが、当時はその先がなかなか進まなくて。何にも知らない人が農業に手を出して、農地を放置したままどこかに行ってしまうといったことを避けたかったんでしょうね。行政主催の農家ツアーに参加したりもしたんですが、何度足を運んでも、先に進まなかった。くやしかったですね」

そこで同じように困っている人の助けになればと、田中氏は行政書士の資格を取ることにした。会社員として働きながら勉強をつづけ、33歳の時、行政書士の資格を取得。会社を退職し、2006年に農業専門の行政書士として独立開業した。ちょうど翌年には規制緩和があり、新規の企業農業参入や農外からの就農許可が取りやすくなったことも追い風となり、就農コンサルタントの仕事は好スタートを切った。

田中さんの事務所では、許可申請や書類作成のアドバイス、農地探しから作物選定、営農計画の提案作成など、実際に農業を始めるまでのコンサルタント料を含め、120万円ほどで請け負うそうだが、もちろん農業を始める許可申請だけなら自分でもできる。お金をかけたくない場合は、最低どのくらいの資金があれば農業を始められるのだろうか。

「700~800万円の自己資金で農業を始める人が多いですが、これはハウス栽培など規模が大きい農業を始める場合です。なかには30万円でスタートする人もいますよ

30万円とはかなり安いが、ナスやズッキーニなど種代が安く露地栽培できるものなら可能だそうだ。「トラクターや農地は知り合いの農家から借りるなど工夫すれば、安価ではじめられます」(田中氏)

■向いているのは、コミュニケーション能力がある「社交的な人」

では、どんな人が向いているのか。脱サラ農業で成功するのは、意外にもコミュニケーション能力が高い人だという。「農業というと、誰とも話さず黙々と田畑を耕すイメージがありますが、実際は違います。近隣の農家から農地や農具を借りたり、タネや飼料を譲ってもらったり、販路を教えてもらったりと、人の力を借りなくてはなりません。話すのが好きで、人から好かれる性格の人の方が成功する確率は高いですね。コミュニケーションをとるのが苦手という人は、社交的な人と組んで農業を始めることをおすすめしています」(田中氏)

その他、考えずにまず動く、といった実行力がある人、ちょっとした変化に気づく観察力のある人、何でも自分でやろうとする独立心の強い人が向いているそうだ。「簡単に言うと、会社員や組織に向いていない人ですね(笑)。自分で何でも決められる人です。不作でも自己責任ですから、そういう人じゃないと続かないんですよ」

そして何より大事なのは、農業が好きなことだと田中氏は言う。「農業を心から好きになれるか、会社を辞める前に確認した方がいい。まずは在職中に市民菜園や農業塾などで土日や朝だけやってみるといいですね。私の農業塾でも、実習のための農場があるのですが、農業にはまる人は、授業以外の時にもやってきて雑草を抜いたりしています。それくらい好きな人じゃないと続かないんです。逆に、三度の飯より土をいじっているのが好き、という人なら、自己資金は少なくとも成功する可能性は高いと思いますよ」

上司がいない代わりに自己責任。なかなか厳しい世界だが、土をいじっているときの爽快感、作物を収穫するときの喜びは計り知れない。興味がある人は、まずは週末農業から始めてみよう。

取材・文/牛島モカ

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