消費税税率引上げより先に租税回避対策を強化すべきでは?
日本のタックスヘイブン対策税制はどうなっているのか?
我が国のタックスヘイブン対策税制は、租税の負担が著しく低い外国法人で我が国の法人又は居住者により株式等の保有を通じて支配されているとみなされるものの留保所得を、我が国株主の持分に応じてその所得に加算して課税するというものです。
つまり、企業であっても個人であっても、タックスヘイブンに会社を設立し所得を獲得し一定の条件を満たす場合には、日本での所得にタックヘイブンを活用して獲得した所得を合算して申告・納税することになっています。
ただし、これはその多国籍企業や個人富裕層が適正に申告をしていなければ、課税がなされません。
通常は、タックスヘイブンに所在する法律事務所、会計事務所及び金融機関等は顧客情報を外部に明かすことはないため、日本を含め諸外国の税務当局は、誰が何処でどのような投資を行いいくらリターンを得ているか、情報が入手できないからです。
国税庁はタックスヘイブンを利用する可能性がある納税者を把握できないか?
タックスヘイブンを利用するには、まず資金を海外に送金する必要があります。
現在、納税者が金融機関を通じて海外送金を行う場合には、100万円を超える場合には、金融機関から課税当局に支払調書が提出されてその状況を把握されるようになっています。(海外送金調書制度)
また、日本の居住者が、年末に5,000万円超の国外財産(預金、株式、不動産等)を有する場合には、所轄の税務署への申告が義務付けられています。
これは2013年度末からすでに適用されており申告しなかった場合、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります。(国外財産調書制度)
最近、パナマ文書の情報が追加開示されましたが、それはタックスヘイブン利用者のほんの一部でしかありません。
タックスヘイブンと言われる国や地域はパナマ以外にも多数ありますし、タックスヘイブン企業設立をサポートする法律事務所等も多数あります。
国税庁は海外送金調書制度と国外財産調書制度で情報の把握に努めていますが、まだまだ把握漏れはたくさんあると思われます。
国税庁はなぜタックスヘイブン対策課税を強化できないのか?
それであれば、タックスヘイブンの利用者に対して課税を強化すれば良いのではないかと考える人もあるかもしれません。
しかし、実は日本のタックスヘイブン対策課税は、租税条約違反ではないかという批判があるのです。
日本が課税権を行使できるのは、課税権の及ぶ日本国内だけであるから、タックスヘイブンに所在する外国法人の所得に我が国が課税するのは課税権を侵害しているというものです。
フランスは日本と同じようなタックスヘイブン課税を行っていましたが、それがフランス=スイス租税条約に反するのではないかと法的に争われて、フランスのタックスヘイブン課税は租税条約に違反しているという判決が下されました。
(シュナイダー判決)国税庁としてはタックスヘイブン課税の強化は、国際的な課税理論に反するとして実施しづらい状況にあるのです。
財務省の租税回避行為否認立法への動き
タックスヘイブン対策課税の強化ができないとしても、非常識な租税回避行為に対する対策を講じることはできないのでしょうか。
租税回避がたとえ合法であっても、ユニークなスキームを用いた経済合理性のない租税回避行為は、税務上否認・課税されなければ、一般の納税者は消費税の増税には賛成できないでしょう。
財務省はそのために「包括的租税回避否認規定」という新しいルールを入れようとしています。
もしこれが導入されれば上記のシュナイダー判決に縛られずに課税できるようになります。
しかし、この「包括的租税回避否認規定」は、平成28年度税制改正で見送られてしまいました。
消費税の先送りは大歓迎ですが、この重要な規定のこれ以上の先送りは許せません。
早期に立法して公平な課税が行われる社会の実現を進めていただきたいものです。
(田村 敏明/ThinkBuzanマインドマップ公認インストラクター)
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