最後はひとつしか選べないのに、たくさんの候補は必要なのか
ひとつを選ぶということは、他の選択肢をあきらめること
子どもができると、外出できる範囲は絞られるし、平日夜や休みに出かける機会も減る。仕事をしていると、後ろで突然泣き始める。子どもを抱えながらデスクに向かう。片腕は使えないから、仕方なく片腕でもできる作業に切り替える。
片腕になったときは、名刺をスキャナーに取り込む作業をしている。前職から今まで交換したものは数千にのぼる。片腕で子どもを抱えながら、スキャナーから流れてくる名刺を眺める。
会社員で毎日オフィスに通っていたときと比べて、育児をしながら在宅で仕事する今は、他人と接する機会は少なくなった。育児も仕事も、何かひとつを選択することは、他の可能性をあきらめていくことなんだろう。でも他の可能性をあきらめることで、感じる幸せもある。片腕が腱鞘炎になりそうになりながらも、腕の中で眠る息子の顔をみると笑顔になる。
人間は不思議なものだ。自分が一番大事なくせに、意外と自分のことだと適当に済ませてしまう。誰かのためなら、自分も知らない力がでる。人生は他者との関係を選んでいくことで、成り立っていることかもしれない。そういう風に考えるようになってから、「選ぶ」という行為を真面目に考えるようになった。
検索することを辞めたら、自分の基準が見えてきた
インターネットのおかげで、たくさんの候補の中から選べるようになった。検索システムに条件を打ち込めば、いつでもどこでも誰でも平等に結果がかえってくる。しかし誰でも調べられることは、裏を返せば世界中に競合がいるということだ。
就職活動で人気企業や有名企業にエントリーが殺到して選考に落ちる。人気の飲食店に入るために行列に並ばなければならない。自分のような凡庸な人間には、いつも後ろの方だった。
そもそも自分が検索できているかどうか疑わしい。グルメサイトの星の数で選んでいるけれど、それは本当に自分が欲しているお店に出会えるのか。ただ他人様の基準で選んで、自分の基準で選ぶことを放棄しているのではないか。
これはまずいと思い、一度グルメサイト先生との別れてみることにした。星の数に頼らない暮らし、なんとも心細い。自分の足で歩きながら、アンテナを張り巡らせてピンときた店に入る。最初、アンテナにひっかかってきたのは、安くてボリューム満点のお店だった。おいおいそんな基準で選んでいたのかよ。でも検索をすることを辞めて、初めて自分の基準を意識することができた。このままの基準だと太る一方なので、基準を変えた。最近の基準は、一人だったら行かなさそうなところ。錆びれた路地で、誰も人が入っていない薄暗い店にあえて行く。意外と有名なミュージシャンの両親がされている喫茶店だったり、人が入っていないからマスターと通な話ができておもしろい。
それからというものの、検索することをあきらめて、自分で探すようにしている。自分が何を欲しいかわかっているから、星は低くても自分の満足度は高い。
最後はひとつしか選べないのに、たくさんの候補は必要なのか
たくさんの候補の中から選ぶためには検索システムが必要だ。検索システムがを使うことで世界中に競合が現れる。それならば逆に検索システムを使わずに情報を得ればいいのではないか。そうすれば他の人は情報を見つけることができないので、競争が少なくなって有利になるかもしれない。
ビジネスの世界も一緒だ。論理的に誰もがたどり着く答えは、一見正しいようにみえるけれど、既に誰かに市場を奪われている可能性が高い。そうでなくともすぐに競合があらわれて利益を確保することは難しくなる。わかってから始めたら、おそらく遅いのだ。
私もよくわからないけれど面白そうなハッカソンというイベントに参加したら、主催者からファシリテーターをするチャンスをいただいた。よくわからないけれど面白そうなファシリテーターを一度してみたら、今度は、製造業・自動車業界・テレビ局・新聞社・音楽業界、地方自治体など様々な業界とお仕事をさせていただけるようになった。
最後はひとつしか選べないのに、たくさんの候補は必要なのか。片腕で子どもを抱えながら、スキャナーから流れてくる名刺を眺める。たくさんのイベントに行っていたのは、自分が何を欲しいかわかっていないからではないか。たくさんのイベントにいかなくたって、自分の軸で行動していれば自然と出会うかもしれない。子どもを眺めながら、そう思えるようになった。
【筆者プロフィール】羽渕 彰博(ハブチン)
1986年、大阪府生まれ。2008年パソナキャリア入社。転職者のキャリア支援業務、自社の新卒採用業務、新規事業立ち上げに従事し、ファシリテーターとしてIT、テレビ、新聞、音楽、家電、自動車など様々な業界のアイデア創出や人材育成に従事。2016年4月独立。
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