3年間で離職率が劇的に改善! レオパレス21はなぜ変われたか?

人手不足に多くの企業が苦しむ昨今。ここ数年は新卒採用のスケジュールが毎年変わるという状況もあり、企業の採用担当者は頭が痛いことでしょう。人材確保のために採用に力を入れる企業は少なくありませんが、採用した人材を定着させることもまた、重要な要素です。

一般的に離職率が高いといわれる不動産業界ですが、昨年10月に厚生労働省が発表した「不動産業、物品賃貸業」の新規大卒者の離職率は約15%。しかし、リーマンショック後にこれを超える離職率を記録しながら、現在では9%弱まで改善できている企業があります。厳しい状況から、たった数年で、なぜここまでの改善が可能だったのでしょう。株式会社レオパレス21人事部の石倉達志部長と音政彦さんに話を聞いてみると、働きやすい環境をつくり、人材定着を図るための大事なポイントがいくつか見えてきました。

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▲株式会社レオパレス21 人事部 石倉達志さん

リーマンショック後の“最悪”からV字回復

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▲株式会社レオパレス21 人事部 音政彦さん

石倉:多くの企業がそうであったように、私たちもリーマンショックを契機に、負のスパイラルに突入してしまいました。落ち込んだ成績をどうにかして持ち直そうと、現場の社員たちが一生懸命仕事をしても、成績に直結しない。現場はハードになる一方ですから、辞めていく人もどんどん増えてしまった。もともと業界全体として離職率は高めでしたが、2010年、11年に、私たちは現在の業界水準を超える最悪の離職率を記録してしまいました。

当然ながら、このまま同じことを続けていては、企業として立ち行かなくなります。そこで、事業構造を変え、会社の財務状況を改善していくと同時に、優秀な社員の流出を止め、採用した人材には定着してもらうべく、離職率を下げるための社内改革が始まりました。いろいろな施策が具体的に動き始めたのは2013年からです。結果として、離職率は3年連続で改善できています。研修の充実、人事制度・評価制度の見直し、労働時間の短縮などを通じて、特に若い人がモチベーションを持って働けるように、今なお動いている最中です。

研修やヒアリングを導入し、“現場任せ”からの脱出

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▲管理職研修の風景

石倉:以前私たちは、研修にあまり経費を割かず、教育は基本的に現場任せでした。しかしOJTにも限界があります。社員アンケートを取ってみても、教育に対する欲求が非常に高いということがわかりました。研修を通じて、会社に対する期待感を持ってもらえるのではないかと考え、管理職研修、営業力強化研修、組織マネジメントなど、部門や立場によってさまざまな研修を用意しました。

管理職研修は、支店長ごとのスキルにばらつきが多かったことから導入を決めました。マネジメントの知識や能力がなくても、営業成績がよければ支店長になれたことが原因の一つだったと考えます。支店長の中には体育会系の人もいれば、理詰めで考える人などさまざまなタイプがいて、支店ごとに育成スピードや離職率に結構な差が出ていたんです。

支店長によっては、昔のやり方をそのまま部下に押し付けるということもありました。しかし、「俺の背中を見て育て」というようなやり方では、今の人には通じにくいでしょう。ただ、そういう人の支店が好成績を上げているケースもあり、だからこそ、放置されていたという側面はあります。でも、そうした支店では、育つ社員は一部に限られ、合わない人はすぐに辞めてしまう。そういう二分化を見過ごせる状況ではなくなったわけです。

——しかし、特に叩き上げの人であれば、研修に対して抵抗があったのではないでしょうか。

石倉:抵抗は大きかったですよ。特に最初のうちは、半分ぐらいの支店長が斜に構えていたのではないでしょうか。会社全体に危機感があったから研修を導入したのに、「俺は研修を受けるより目の前の客のほうが大事だ」ということで、管理職研修の最中に携帯電話で仕事の連絡をしているような人もいました。

突破口になったのは営業力研修でした。講師の方は営業出身で、レクチャーの仕方もよかったのかもしれません。管理職たちも「なるほど」と思うところがあったようで、研修でも得られるものがあるんだと気づいてもらえた。会社が管理職の能力を引き上げようとしていること、能力の平準化を目指していることも伝わったのでしょう。3年間継続しているということもあり、研修は研修でしっかり受講し、身につけたことを自分の部下たちに還元しようという意識が根付いてきました。

:私はもともと営業でしたので、人事部に異動になってからも、営業の人たちの飲み会に出ていました。研修が始まった最初のうちは「何で研修にこんな時間取られなきゃいけないんだ」と、支店長から冗談半分で言われたりもしましたね。しかし、研修を受けたことをきっかけに成果を出す社員も出てきた。そうすると周りも焦ってきて、もっと聞かなきゃというふうに、空気が変わっていったように思います。

——確かに、誰かが成果を出すと、有無を言わさぬ説得力がありますからね。研修を通じて、支店長の裁量が大きくて、本社のコントロールが利いていなかった部分にてこ入れできたんですね。

石倉:管理職のマネジメント能力を高めるだけでなく、より柔軟な人事制度を導入したことも離職率低下につながっています。弊社の営業の主戦場は建築請負事業部ですが、以前は建築請負からほかの事業部への異動はありませんでした。ハードな請負事業から異動できるというのが、逃げ道になると考えていたからです。「辞めたいという人には辞めてもらっていいんじゃないか」という考え方の支店長もいました。

今はどうかというと、建築請負で行き詰っている人、辞めたいという人がいたら、まずは人事部がヒアリングを行うようになりました。「ほかにやりたい仕事ができた」という人ならいいのですが、そうでない場合は、本当に建築請負は無理なのか、ほかの部署であればまだまだ活躍してもらえる可能性があるかということを、ヒアリングを通じて、人事部が一緒に考えます。

ヒアリングの対象は「辞めたい」という社員だけではありません。新卒採用1年目の社員に対するケアとしても重点的に行なっています。これまで現場任せになっていたところに人事部がしっかり入っていって、支店の中だけではうまく解決できていなかった問題にも対処できるようになってきていると感じます。

意識改革で労働時間の大幅削減に成功

——不動産業界にはハードワークという印象があり、それが人材確保の障壁になっているといわれていますが、その部分にもメスを入れたのでしょうか。

石倉:確かに不動産業界では「歩合は高いけど、仕事がハード」というのが常識でしょう。私たちはこれを、悪しき風習であると考えました。その価値観から抜け出せない限り、人材の定着は図れないということは、もうすでにはっきりしているのですから。そこで、会社として、「労働時間イコール評価ではない」ということを3年前から繰り返し発信しています。長い時間働く人が偉いのではなく、限られた時間で成果を出す人間を評価してくださいということですね。

結果、時間外労働はここ数年で一人当たり月6時間減りました。6000人の社員を抱えているので人件費だけで考えてもすごい効果ですが、社員のワークライフバランスという観点でも大きな進歩です。有休取得率も去年は34%だったのが、リフレッシュ休暇制度や計画年休制を始めたことで70%が見えてきました。それらの制度を開始したことで、「有休を取りなさい」というメッセージが社員に伝わり、自ら率先して有休を取ることも抵抗がなくなってきているようです。

——社員が適切に休めるようになったというのはいいことに違いありませんが、業績には悪影響はないんですか?

今のところありません。私が入社したのは3年前ですが、当時は夜中まで働いて、しっかり残業代もいただくという人が多かった。タイムカード通りに、1分単位で残業代がもらえるために、新入社員でも10万近い残業代になって、「こんなにもらっていいのかな」と言う人もいました。しかし、そういった状況では、昼間、仕事をおざなりにしているという人がいなかったとは言い切れません。特に営業職の場合、外に出ていると仕事ぶりはまったく見えない。今は「できるだけ残業をしないようにしよう」という雰囲気がありますし、去年からは22時に会社全体のシステムをダウンさせることにしましたから、「効率的に仕事をしなきゃ」と考えるようになっていますね。以前と比べれば、労働生産性は上がっているのではないでしょうか。

石倉今はまだ、時間外はやらないで当たり前という意識付けに取り組んでいる途上です。支店ごとに労働時間と成績のランキングを並べて出すと、営業の成績が上がっていないのに、時間外労働が多い店舗も見つかる。何か問題があるのだろうということがはっきりしますから、支店長の上長にあたる部長・副部長も原因究明と解決に乗り出すことができるようになっています。

社長直轄組織を設立し、積極的にメッセージ発信

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▲ワークライフバランス推進室の皆様

石倉:2年前には人事部と独立して、ワークライフバランス推進室を組織しました。推進室の最大の目標は労働時間、残業時間のスリム化ですが、テレワークの推進や女性活躍推進法への対応なども職掌に含まれます。推進室は社長直轄で、室長は人事担当の取締役ですので、経営層のワークライフバランスへの熱意が、組織図からも社員に伝わっていると思います。

発足以降、執行役員会で推進室の活動目標や活動指針を明確にし、それをもとに社内をきっちりとモニタリングしたり、働きかけを行っている。単なる人事部の一組織では、ここまで推進力はなかったかもしれないですね。

——経営トップの「働き方を変えよう」というメッセージが間違いなく伝わるような体制が築き上げられつつあるということですね。

石倉:私たちのような営業会社は、根が真面目な人が集まりやすいと感じています。トップが「数字を上げろ」と言えば、みんな数字を上げるために必死になる。同じように「数字だけじゃないぞ」と言えば、みんなが考え始める。

——研修を通じて、営業力も磨こうと発信したことも、プラスに働いたかもしれませんね。もしも「労働時間を減らせ」ということだけ通達したとしたら、現場としては混乱していたかもしれませんから。今後もいろいろな取り組みを続けていかれるのでしょうか?

石倉:今年から管理職登用試験も始め、4月には新制度下で初めての管理職が誕生します。筆記試験や管理者適性試験を経て、ある程度の基準を満たした人を人事部が面接し、管理職への昇格を決めるという手順を踏みます。これまでの「営業成績がよければ支店長になれる」というような方針から切り替え、きちんとマネジメント能力のある人を、周りが納得できるような透明性のある人事制度で引き上げることができるようになるはずです。

社員採用にあたっても、「実力があれば給料もいいし、出世も早いよ」ということだけ伝えていてはだめでしょうね。稼ぎたいけど、自分の時間は確保したいという学生が多くなり、ガツガツした学生が少なくなっているのは肌感覚で感じています。仕事の意義や、楽しさに加え、決められた時間で中身の濃い仕事をしてもらうという私たちの考え方を伝えられるようにしていきたいと思っています。

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▲株式会社レオパレス21 人事部 石倉達志さん 音政彦さん

文:唐仁原 俊博

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