携帯電話各社が狙う「黄金の周波数帯」と、「オークションの”考え方”」をめぐる議論

山田肇氏

 第2世代携帯電話(2G)の終了に伴う周波数再編によって空いた900MHz帯と、地上デジタル放送への完全移行で空いた700MHz帯。電波を管理する総務省は前者を2012年前半、後者を2012年後半にも割り当てる見通しだ。今、この”超優良”周波数帯を巡って、携帯電話大手4社が熱戦を繰り広げている。

 700MHz~900MHz帯は建物内や山間部にも届きやすいことから、「プラチナバンド」や「黄金の周波数帯」とも呼ばれている。大手4社の中では、NTTドコモとKDDIが既に800MHz帯を保有しており、ソフトバンクとイーアクセスは”競争”の観点から残る「700MHz/900MHz帯」の割り当てを主張している。特に電波がつながらないというユーザーの不満が多いソフトバンクは、割り当てを見越し、見切り発車で数千億~1兆円規模の設備投資を行っているという。

 しかし、スマートフォンなどの普及により、データ通信量は増加の一途。「700MHz/900MHz帯」はドコモ・KDDIにとっても喉から手が出るほど欲しい状況になっている。総務省の発表では、900MHz帯に4社、700MHz帯にソフトバンクを除く3社(※ソフトバンクは割り当て希望を900MHzに絞り込んでいる)が参入を希望しているが、実際の割り当ては、900MHz帯が1社、700MHz帯が2社と見られている。では、この中からどうやって選ぶのか。

■「オークションの”考え方”」ではなく「オークション」を

周波数オークションに関する2つの議論の流れ

 総務省は電波の割り当てについて、「オークションの”考え方”を導入する」方針だ。これは現事業者が別の周波数帯へ移る際の「立ち退き料」を、一番多く負担できる事業者が、権利を得るというもの。しかし、この立ち退き料が「上限1000億円」と設定されていることから問題が起こっている。なぜなら、4社が既に1000億円の負担を織り込み済みだからだ。入札価格が一緒であれば、従来と同じ「比較審査」になってしまう。

 一方で、第4世代携帯電話(4G)で使用する3.4~3.6GHz帯については、「オークション」の導入が検討されている。これについて、東洋大学の山田肇教授は、700MHz/900MHz帯にも、「オークションの”考え方”」ではなく、「オークション」を導入すべきだと主張する。

 700MHz/900MHz帯の新規参入事業者は、第3.9世代携帯電話(3.9G)とも呼ばれる「LTE」という高速データ通信サービスを行う見込みだ。一方で、第4世代携帯電話の3.4~3.6GHz帯では、これをさらに良くした「LTEアドバンスト」というサービスが行われると考えられている。

「第4世代からというと、『今までとは全然違う世代なんだ』とすごく整理できているように見えるけど、現実的には古い世代(LTE)と混合して一体の形でサービスが提供されるので、今の段階で700/900MHz帯を比較審査によって総務省が免許を与えてしまえば、その人たちだけが将来予定される(3.4~3.6GHz帯の)オークションにも手を挙げることになって、ほとんど競争が成立しなくなる恐れがある」

 山田教授はさらに復興財源の観点からも「オークション」の利点を挙げる。

「少なくとも4社が手を挙げていて、実際に免許が付与できる数が2つか3つとなれば明らかに競争が行われるわけで、そこで数千億円の税外収入が得られるということをなぜやらないのか。復興財源に充てるという発想を持たないということがおかしいと思います」

■900MHz帯には競争促進政策の観点も

夏野剛氏

 これに対して、iモードの生みの親の1人で元NTTドコモ執行役員の夏野剛氏は、

「700MHz帯は使用用途も決まっていないし、LTEに関しては方式としては国際的に標準化されているんですけど、周波数帯の標準化は全然されていないので、周波数として共通になるか分からないところなんですよね。正直、いろんなリスクもあるような周波数帯。ただ、国内で使う分にはものすごく有効。オークションでやらない方がおかしい」

と700MHz帯のオークションに賛成する一方で、900MHz帯については別の見方を示す。

「900MHz帯の入札に、近傍の800MHz帯を所有しているドコモとAU(KDDI)が参入するとブロックプレーになってしまう。900MHz帯は、GSM(世界で最も使われている規格)や欧州の3Gと共通なので、ソフトバンクかイーモバイルに割り振ると、すごく有効な競争促進政策になり得ますね。ドコモとAUが持っている800MHz帯というのはアメリカと共通なので、世界的に共通しているという意味では、この900MHz帯ではちょっと観点を変えても良いかもしれません」

 夏野氏によれば900MHz帯に限っては、競争促進政策のほうが有効なのか、オークションのほうが有効なのか判断した上で、もしオークションを導入するのであればブロックプレーにならないよう一般の形ではなく、ソフトバンクとイーモバイルの2社の競争で行うのが良いだろうということだ。

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]山田氏の説明から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv63789610?po=news&ref=news#11:58
・[ニコニコ生放送]夏野氏の説明から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv63789610?po=news&ref=news#16:15

(野吟りん)

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