プロラグビー選手が、引退後も輝ける未来を!元日本代表のラグビー普及にかける熱い想いとは?
ラグビーワールドカップ2015において日本代表が大躍進を遂げたことで、にわかに注目を集めているラグビー。大活躍した五郎丸歩選手の人気もあり、以前からのラグビー愛好家に加えて「にわかファン」も急増している。
この追い風をチャンスと捉え、さらなるラグビー普及に意欲を燃やしているのが、元日本代表の冨岡耕児さんと守屋篤さん。2人は2014年に一般社団法人PRAS+(プラス)を立ち上げ、ラグビーの普及活動、そしてプロラグビー選手のセカンドキャリア支援に取り組んでいる。彼らが目指すのは、どんな未来なのだろうか?
一般社団法人PRAS+
代表理事 冨岡耕児さん(写真右)
理事 守屋 篤さん(写真左)
ラグビーの魅力を誰よりも知るプロ選手こそが、普及活動に取り組むべき――引退後のセカンドキャリアを自ら切り開く
冨岡さん、守屋さんはともに立命館大学卒業後ヤマハ発動機に入社し、ヤマハ発動機ジュビロに所属。その後、いくつかのトップリーグチームを経験するなかでプロに転向、日本代表も経験している。
冨岡さんが現役を引退したのは2012年。その後、単身でラグビー普及活動に臨み、2014年に引退した守屋さんがジョインしたことで2014年にラグビー普及、およびプロラグビー選手のセカンドキャリア支援を目的とした団体、一般社団法人PRAS+を立ち上げた。
――PRAS+を立ち上げるキッカケになったものは何ですか?
冨岡 私は、2009年から出身地の大阪で活動するNTTドコモレッドハリケーンズに移籍し、2012年に引退しました。その時、ドコモから「小学生向けのラグビー普及振興の一環として、タグラグビー特別授業を実施することになったので、手伝ってくれないか」と声をかけていただき、大阪府内の小学校を回るようになったんです。タグラグビーとは、タックルやスクラムなどの体の接触(コンタクト)プレーがないラグビーで、ラグビーボールを持ち、腰に2枚のタグを装着して、それを取り合いながら試合を進めます。地面に倒れ込んでトライすることもないため、けがの心配はなく、誰もが安全に楽しめます。
当時、私はすでに母校である立命館大学のラグビー部のコーチをしていたので、今後のキャリアについて漠然と「このままコーチ専任でやっていくのかな」と思っていました。しかし、普及活動に取り組むうちに、子どもたちが「ラグビーってよく知らなかったけれど、むちゃくちゃ楽しい!」と喜んでくれることにやりがいを感じるようになったんです。
2019年、ラグビーワールドカップが日本で開催されますが、まだまだ認知が行き届いているとは言えない。「2019年に向けて、誰がラグビーの魅力を普及するのだろう?ラグビーの魅力を知っている自分がやるべきなのでは?」と思うようになり、守屋がまだ現役時代から「一緒にやろう」と声をかけて、彼の引退後に団体を立ち上げたんです。
守屋 冨岡とは大学から一緒で、ヤマハ発動機でも一緒にプレーしていて、寮の部屋も近かったという縁で(笑)。話を聞いて、我々が取り組むべき課題だと心から思い、引退後すぐに参加しました。
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漠然と「コーチになるのか」と思っていたものの、ラグビー普及というテーマに出会い、引退後のセカンドキャリアががらりと変わった冨岡さん、守屋さん。この経験が後に「プロラグビー選手のセカンドキャリア事業」への着手へとつながっていく。
老若男女誰でも気軽にできる「タグラグビー」で、ラグビーの認知度向上を
ラグビーは企業スポーツであり、「トップリーグ」に参加する16チームの選手の多くは「会社員選手」だ。1チームに50人ほどの選手が所属しているが、そのうちプロは1割程度。「プロ契約を認めておらずメンバーが全員社員」というチームもあるため、プロの数は80人程度と少ない。「ラグビーの魅力を誰よりも伝えられるのは、第一線でプレーし続けてきたラグビー選手に他ならない。しかし、会社員選手は引退後、基本的には所属企業の一会社員として社業に専念することになる。だから、私たちのような元“プロ選手”が普及活動を買って出る必要がある」と冨岡さんは話す。
▲代表理事の冨岡耕児さん
――具体的にはどのような普及活動をしているのですか?
冨岡 大阪を中心に、小学生を対象にした「タグラグビー」教室を開いているほか、将来の選手育成を目指したアカデミー事業を展開しています。また、タグラグビーを社会人向けに応用した「チョイラグ」の普及にも注力中。年齢や男女差、運動神経などに関係なく誰にでも楽しめるので、「こんなラグビーもあるんだ!」「すごく楽しい!」と言っていただけますね。先日も、友達に連れてこられたものの不安そうな顔の女性が、いざプレーを始めると表情がイキイキと輝きだし、「また来ます!」と宣言して帰られました。ラグビーはチームスポーツなので自然と団結力が高まり、全く知らない人同士が仲良くなり、新たなコミュニティーが生まれることも。コミュニケーションスポーツとしてのラグビーの魅力も、実感いただいています。
守屋 ボールを持って走るだけなので、技術がいらないのが魅力。例えばサッカーやバスケットボールはドリブル技術が必要ですが、タグラグビー、チョイラグは走れればOKなのですぐに戦力になれます。それに、一度体験してもらえれば、「ラグビーの試合を観た時の感動」もぐんと高まるはず。体験したからこそ、トップリーグ選手のプレーのすごさがわかるし、「今度自分もこんなプレーをしてみよう」と思えるようになる。一人でも多くにラグビーを体験してもらうことで、ラグビーに興味を持つ人を増やし、ラグビーファンのすそ野を広げていきたいと思っています。
▲タグラグビー教室のもよう。ラグビー好きの子どもたちを着実に増やしている
前例が少ないから不安も多い。現役のうちに「セカンドキャリア」について考える機会を
同団体の特徴は、ラグビーの普及活動だけでなく、「プロラグビー選手のセカンドキャリア支援」も手掛けている点だ。冨岡さんは、自身もプロとして活躍していたからこそ、「セカンドキャリア」について考える場がないことに課題感を覚えたという。
昨年、一昨年と3回、セカンドキャリアセミナーを開催したが、それぞれ15~20人の現役選手が参加。中には、引退後の雇用を保障されているはずの「会社員選手」の姿もあった。
――プロラグビー選手のセカンドキャリア支援を手掛けようと思った理由は何ですか?
冨岡 会社員選手は、引退後には会社員になるという道が用意されていますが、プロは引退したら「次」がありません。プロの選手自体が少ないだけにロールモデルとなる引退後の事例も少なく、将来のことを深く考えずに「日本のラグビーをさらに向上させたいという情熱だけを頼りにプロに転向する」選手が多いのです。そして、引退を意識し始めた時に初めて「辞めた後はどうなるんだろう…」と考え、急に不安を覚える。実際、私がそうでした。幸いにして、私は今の事業テーマに巡り合うことができましたが、現役のうちにセカンドキャリアについて考える機会を持ってもらうことで、引退後の不安を少しでも取り除きたいと考えたのです。
守屋 今までに行ったセミナーでは、専門家による「引退後の心構え」や「企業に採用される人、されにくい人」などといったノウハウ的な講演のほか、実際にプロスポーツ選手の雇用に積極的な企業の紹介を行いました。実は、プロスポーツ経験者に対する一般企業の採用ニーズは高く、うちの団体にも問い合わせが来るほど。プロフェッショナルとして第一線でプレーし続けたメンタリティーやスキルを突き詰める力、試合の流れを冷静に読む論理的思考力などが高く評価されているのです。ただ、こういった情報は、プロとして活躍しているときはなかなか耳に入ってこないもの。「企業に求められていることがわかって、安心できた。引退までプレーに全力投球できる」との声が多く聞かれました。
冨岡 会社員選手の参加も、想定内でした。多くの会社員選手は、「ラグビーさえできれば、所属先はどの会社だっていい」と思っています。だから、引退が見えてきた頃、「本当に自分はこの会社に骨を埋めるのか…?」と疑問を覚え、不安を感じる選手は多いのです。そんな選手たちに「自分たちは広く社会に求められている」と伝えることで、安心して引退までプレーしてほしいと願っています。
また、セミナーのような場で、自分と守屋が団体代表として頑張っている姿を見せることで、「プロ引退後のキャリアの一例」として参考にもしてほしいですね。こんな道もあり得るのだと、キャリアの選択肢を広げてほしいと思っています。
ラグビーの普及活動を進めることが、ラグビー選手のセカンドキャリアを希望あるものにする
現在、同団体に所属するのは冨岡さんと守屋さんの2人のみ。タグラグビー教室や小学校訪問、チョイラグなどの活動は、有志のサポートを得ながら進めている。すでに引退し、所属企業の社員となっている選手が休日に参加してくれているほか、いわゆる「ラグビーファン」のサポートも多い。
彼らの活動を応援してくれる人たちの思いに応えるためにも、さらなるラグビー普及に情熱を燃やしている。そして、それがプロラグビー選手のセカンドキャリア支援にもつながると2人は話す。
▲理事の守屋篤さん
――着実にラグビーファンを増やしつつある今、改めてこれからの目標をお聞かせください。
守屋 実は、PRAS+のほかに、「フロントローラグビー」というアパレル会社を2人で立ち上げ、スウェットやパーカーなどの日常着やバッグ、グッズなどを販売しています。これも、ラグビー普及の一環。洋服を「かっこいい」と手に取ってくれた人が、ラグビーにも興味をもってくれたらいいなと。タグラグビーやチョイラグに参加するよりも、さらに気軽な入り口になり得ると考えています。そして、この事業で得た収益の一部を、PRAS+の活動資金に回すことができれば、普及活動も、セカンドキャリア支援もさらに強化・拡大できると考えています。
ちなみに、フロントローとはラグビーのポジションの名前。点を取る役割ではないのであまり目立たないのですが、実は最前列で戦っているとてもかっこいいポジションなんです。その名前を社名にすることで、我々も最前線でラグビー普及に努めたい…という思いを込めました。
冨岡 このアパレル事業とPRAS+でうまく相乗効果を図りながら、2019年W杯に向けてたくさんの人にラグビーの魅力を知ってもらいたいし、それ以降もラグビーが日本の文化として根付くように環境を整えていきたい。そのためには、これからも「ラグビーは気軽に楽しめるもの」という啓蒙を続け、一人でも多くの人にラグビーの楽しさを体験してほしいですね。
タグラグビー、チョイラグの参加者が増え、PRAS+の知名度がさらに上がれば、引退後のプロラグビー選手を仲間としてうちの団体で雇用することも可能になります。現在、大阪市内の3拠点をベースに活動していますが、これを10カ所、20カ所と増やしていくことができれば、「引退後もラグビーに関われる、希望あるセカンドキャリア」をうちが用意できる。この体制を築くことが私たちの夢であり、目標です。
▲2人が着ているのが「フロントローラグビー」のトレーナー。ラグビーへの「より気軽な入り口」になればと期待を寄せる
EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:掛川雅也
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