広告業界の”異端児”が提案する、これからの「売れるしくみ」
2000年代以降、広告業界を取り巻く環境は大きく変貌を遂げています。それ以前まではマスメディアにおける広告の「表現」に重きが置かれていたものが、00年代に入りテレビCMの”効力”が(以前に比べ)落ちていくにともない、「戦術」や「手法」に目が向けられるようになっていったといいます。
クリエイティブエージェンシー「博報堂ケトル」のクリエイティブディレクター・石原篤さんは、自著『これからの「売れるしくみ」の作り方』の中で、当時――博報堂のプロモーションデザイン局で働いていた時代――をこう振り返ります。
「PD(プロモーションデザイン)局という、社内でもメインストリームとは少し違う場所にいた僕は、そうした業界の動きを前に、『手法のトレンド』を議論することの是非は別として、『自分たちが中心になってコミュニケーションを考える時代はやってくるかも!』と、淡い期待と希望を感じていました」
石原さん曰く、華やかな広告業界においても、石原さんのようにSP(セールスプロモーション)を担当する人は「広告制作という大きな流れの川下にいる人間」(本書より)とのこと。その”川下”にいる自分たちがより活躍できる時代がくるかもしれない――石原さんは、徐々にそんな希望を抱くようになったといいます。
その後、07年に博報堂ケトルに参加。以降、石原さんはSP時代の経験を生かしつつ、従来の広告の枠組みにとらわれないニュートラルな手口で、クライアントの課題解決のために革新的なインテグレート(統合型)キャンペーンを手がけてきました。
本書ではケトル式であり、石原さん流の「これからの『売れるしくみ』」が惜しげもなく披露されていますが、こうした手法を実行するのは簡単なことではありません。石原さんも本書の中でこう綴っています。
「ただ、これは『頭の中』や『型(フォーム)』のことなので、実行していくためにはここに足腰の強さ=筋肉が必要なんですね。どんなに素晴らしい考え方をもっていても、それだけで何かを実現していくことは難しい……」
このように語る石原さんの仕事ぶり、筋肉=実行力が端的にあわれているのが、茨城県日立市の鋼材加工会社「相鐵」(そうてつ)の50周年リブランディング。本書によると、石原さんは50回以上も現地に足を運び、全社員の名前を覚え、社員旅行にも同行。社員の現状をリアルに知ることで、リブランディングの核となるプロジェクトを考案したそうです。
そんな彼がリブランディングの核に選んだのは「社員のアスリート化」と「工場のスタジアム化」。海外のサッカークラブのようなデザインのロゴを作り、更衣室をヨーロッパの一流クラブのようなロッカールームにリフォーム。さらに、個人・各部署の出勤から退社までのパフォーマンスを数値化し、分析する試みを開始。監視のための数値化ではなく、社員自身が楽しめるように、自分たちの会社を「スポーツ」のようにとらえて業務効率を改善していく取り組みを実施しました。その結果、同社の2015年度上半期の売り上げは、飛躍的に伸び、採用の問い合わせも激増したといいます。
従来の広告業界の手法とは一線を画す、手口を選ばない、これからの「売れるしくみ」とはなにか。広告業界の人に関わらず、多くのビジネスマンに読んでもらいたい1冊となっています。
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