「子どもの性別は、子ども自身に決めさせる」 カナダの夫婦のある決断
まだ性別も判然としないほど幼い赤ちゃんを連れた女性を見かけて、つい声をかけたことはないだろうか。「男の子ですか? 女の子ですか?」微笑ましい親子に向けた、ごくありふれた問いかけに聞こえる。しかし、ある母親に問いかけた場合、あなたはこう返されるかもしれない。「男の子か女の子か、お教えすることはできません。それはこの子が将来、自分で決めることですから」。冗談を言っているわけではない。カナダに住むある夫婦は、”子どもに性別を選ぶ権利を与える”ために、”子どもが自ら性別を選べるようになるまで、その性別を誰にも教えない”ことを決めたのだ。
カナダのトロント・スター紙やイギリスのデイリー・メール紙によると、赤ん坊は、2011年1月1日に生まれた。名前はストーム。青い瞳に、ぽっちゃりとした頬を持つ、かわいらしく健康で、身体的になんら問題はない子どもである。もちろん――少なくとも生物学的には――、その性別も明らかである。しかし、母親のキャシーも、父親のデイビットも、ストームの性別については「秘密」と口をそろえる。彼らの言い分はこうだ。
「赤ちゃんが生まれると、どんなに親密な付き合いをしている人でさえも、『女の子? 男の子?』ってことを最初に聞くでしょう」
「もしあなたが、本当に誰かと知り合いたいのなら、相手の足の間に”ついてるか、ついてないか”なんて聞かないんだよ」
夫婦は、「”男女”という性別にかされる社会的制約からストームを解放しているのだ」と信じている。ストームには2人の兄がおり、”兄”と言うからには彼らの性別は秘密ではないのだが、その生活スタイルはかなり自由である。5歳の長男は、長い髪をみつ編みにして、好きな色は「ピンク」だという。2歳の次男も、ゆるくカールしたブロンドを顎まで伸ばしており、好きな色は「むらさき」。2人とも、その外見から女の子に間違われることも多いが、両親はあえて訂正はしない。どんな髪型でどんな服を着るか、それも子どもたちに任せているのだ。
キャシーやデイビットを知る人たちは、2人の決断のために子どもたちが「生涯にわたるいじめ」を受けるのではないかと危惧している。実際、長男などはすでに、公園で「”女の子みたいな男の子”なんかと遊びたくない」とほかの子どもに言われたこともある。専門家らも、”自らの性別をカテゴライズする機会を与えられない”ことが子どもに与える影響を心配しているが、夫婦は決断を変えるつもりはない。キャシーは言う。
「みんなが聞いてくるわ。『いつになったら終わるの?』って。私はこう返すのよ。『ええ、いつ終わるの? いつになったら私たちは、自分が誰かってことを自分で決められる世界に住めるの?』ってね」
この話題にはイギリス国民も関心をひかれたのか、記事には多くのコメントが集まったが、そのほとんどは「馬鹿馬鹿しい」という反応だった。両親へ怒りを向けている者も多く、「私に言わせれば彼らはひどい親だわ! 自分の性別を隠して、男か女か誰にも言わなきゃいいじゃない! 自分の子どもで実験するなんて絶対に間違ってるわ!」と憤りをみせる者、「かわいそうな子どもたち。彼だか彼女だかは、どんなに混乱することになるかしら」と子どもに同情する者などさまざま。「こんなに無条件に子どもを愛して、サポートしてくれる親も珍しいわ」など肯定派の声はごくごく少数だった。ストームがどのように育つのかは、しかし、やはり両親にゆだねられるのだろう。
◇関連サイト
・Parents keep child’s gender secret – トロント・スター紙(2011年5月21日)
http://www.parentcentral.ca/parent/babiespregnancy/babies/article/995112–parents-keep-child-s-gender-secret
・Kathy Witterick and David Stocker are raising a ‘genderless baby’ – デイリー・メール紙(2011年5月25日)
http://www.dailymail.co.uk/news/article-1389593/Kathy-Witterick-David-Stocker-raising-genderless-baby.html
(古川仁美)
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